「俺、人を見殺しにしたことがあるんだ」
親友の遼一が、何気ないふうに言った一言が
すべての始まりだった。
冬のある日、学校帰りの通学路で遼一は突然僕にそう言ってきた。何気ないふうに言ってきたものだから、僕は危うく聞き逃すところだったけど、その口調の雰囲気とは裏腹に、その言葉はずっしりと遼一の体にのしかかっているようだった。
とはいえ、僕は気の利いたことのひとつも言えない不器用な人間だから、そんな遼一になにも言ってやれなかった。遼一が紡ぎだすその言葉の真相。それをただ聞いただけの僕は、気まずいまま、遼一と別れてしまう。
事態が急変したのは、その日の夜だった。僕の家にかかってきた一本の電話。遼一がまだ家に帰っていないことを不審に思った、彼の母親からのものだった。
僕は衝動的に家を飛び出し、心当たりのある所を行きついで、遼一を探す。どこにもいない。途方に暮れる。そんな僕にかかってきた母からの電話。それは遼一が事故に遭ったという不吉な報せ。我も忘れて病院に駆けつけた僕を待ち受けていたのは、残酷な現実だった。
遼一は、僕の親友は、死んでしまった。
現実から目を背けていた僕は、遼一の母から聞いたある一言を思い出した。遼一が事故に遭ったトラックの運転手が奇妙な証言をしている、と。
その証言が本当ならば、遼一は誰かに殺されたことになる。
僕は親友の死を、ただの事故死で終わらせるつもりなど、毛頭なかった。遼一は、この世界にいる何者かに殺されたんだ。
僕は絶対に、犯人を見つけ出す。
その決意をもとに、僕は一人で捜査を始めた。
遼一は、僕たちの住む町にはびこる不良たちの集まり、通称『紅蓮』に時折出入りしていたことが分かった。
遼一の死後、僕のことを気にかけてくれた加賀美颯太とともに紅蓮の集まりに乗り込む。
遼一が生きていたら絶対に関わることがなかったであろう人たち。
僕一人で犯人を見つけると意固地になっていた僕は、紅蓮のメンバーの力を借りて、遼一の死の真相に近づいていく。
きっと一人だけじゃ、見つけられなかったことがある。
きっと一人だけじゃ、出会えなかった人がいる。
「俺、人を見殺しにしたことがあるんだ」
遼一は死の直前、僕に何故そう言い遺したのか。その発言は本当に正しかったのだろうか。
やがて辿りついた真実に、僕自身がすべてを覆されたような気分になった。