凍霧含紅(とうむがんこう)
仙界と人間界の境にある銀耀江湖《ぎんようこうこ》において、最も歴史ある禪寓閣《ぜんぐうかく》では、多くの若者が修行を積み、持って生まれた力を磨いている。
その中の一人、武神の息子である煙紅《イェンホン》は、十年前にある少年を救うために、特異で恐ろしい呪《のろい》を自身に封じた。
呪による病《やまい》は煙紅の身体を蝕み、命を削っていく。
そのため、多くの霊力を身体の維持に使わなくてはならず、武神の息子でありながら虚弱体質になってしまった。
そんな煙紅を支えるのは医神の息子、夏籥《シァイャォ》。
可憐な笑みと容赦のない医術で有無を言わせず治療を施す夏籥は、親友である煙紅の病を治せないことを気にしつつ、彼が無茶をしないよう何かにつけて行動を共にしている。
そんなある日、鬼霊獣《きれいじゅう》の一団に襲われている青年達を救った二人。
彼らは銀耀江湖に属する、人間だけで構成された一家の者達だった。
夏籥が怪我を治療している中で、若者の一人が煙紅の口から漏れ出る氷煙《ひょうえん》を見て言った。
「十年前、禪寓閣で私を救ってくれた……」
煙紅は青年の顔を見て、動揺した。
目の前にいるのは、十年前煙紅が救った金霞《きんか》国の皇太子である、簫《シァォ》 睿琰《ルイイェン》だったのだ。
睿琰は十八年前に蘇った怨霊を封印するために銀耀江湖で修業を積んでいると言う。
怨霊のせいで出現し続ける鬼霊獣による被害も食い止めなければならない。
煙紅と夏籥は協力を申し出た。
なぜなら怨霊の封印は、煙紅にとって亡き母の仕事を引き継ぎやり遂げることに他ならないからだ。
三人は共に行動を始める。
天下に平和を取り戻し、大切な人々を守るために。