夜。ローズメイは、自分の個室でくつろいでいた。
アンカーサイン侯爵家が用意してくれたローズメイの部屋は、白を基調とした明るい雰囲気だ。
少し少女趣味な感じもあって、調度品は可愛らしい。
「お父様、ご気分はいかがですか。この季節な庭の花が元気いっぱいに咲いているので、もしよかったらご覧ください……、んー……ボツ」
ローズメイは書いた手紙をくしゃりと丸めた。
「にゃにゃっ!」
白い猫の手で紙くずを転がして遊びながら、コットンが「なんで書いたのに捨てちゃうのさ」と聞いてくる。
「だって、コットン。お庭の花をみると、お母様を思い出してお父様が悲しくなってしまうかもしれないでしょ……」
父との接し方は、どうしたらいいんだろうと悩んでしまう時がある。
「早く元気になってください」と言うと真面目な父は「休んでいる場合じゃないのに、私はだめな奴だ、元気な姿を見せねば」と思ってしまって思いつめてしまったり、無理してしまう。
「お父様とお会いしたいです」と言うと「娘を寂しがらせている。私はなんて至らない父なのだ」と落ち込ませてしまう。
かと言って「お父様なんて全然気にしていません」「全く心配していません、元気にならなくてもいいです」な態度でもいけない。
「お姉様へ。お元気ですか。私は元気です。アンカーサイン侯爵家の皆さまとは、仲良くできそうです。コットンがいい話し相手になってくれています」
姉への手紙を先に書いて、ハーブティーをひとくち啜る。
「お父様へ……」
迷いながら、文字を丁寧に綴る。
「アンカーサイン侯爵家の方々は、魔法に慣れていらっしゃらないご様子ですが、猫好きです。本日は一緒にスコップを持って、一緒に汗を流して、お茶を飲みました」
庭のことをぼかしつつ書くと「何をしていたんだ」と不思議がられそうな手紙になる。でも、父がもし手紙を読んでネガティヴではない種類の感情の波をたててくれたら、それは良いことなのではないだろうか? ローズメイはそう考えながら、続きを書いた。
「イオネス様は、薄幸のお姫様みたいな方です。とてもほっそりしていて、綺麗で、支えてあげたくなります」
イオネスのことを書くのは、書きやすい。
父も興味があるかもしれないし。
「私は、物語に出てくる王子様みたいにイオネス様をお救いしたいと思いました。私が勇ましくイオネス様をお姫様抱っこして、イオネス様はポッと顔を赤くして恥じらうんです。なんて可愛いのかしら。私がお守りしますから、心配しないでくださいね、イオネス姫様……」
わあ、筆が進むじゃない。
気付けば、「王子様な私がイオネス姫様をお助けする英雄譚」みたいな手紙ができあがっている。
白猫の耳をぴこぴこと動かして、コットンは手紙に顔をしかめた。
「この手紙、送るの……?」
猫の鼻にしわが寄っている。
猫って意外と、表情豊かだ。
「だめ? がんばって書いたのよ……もう寝る時間ね。手紙の続きは、明日書きましょう」
天蓋付きのベッドに座ってぽふぽふと手で招くと、コットンはひょこりとベッドに飛び乗った。
「おやすみ、ご主人様」
「おやすみなさい、コットン」
ふかふかのベッドは、寝心地がいい。
ぬくぬくしたコットンを抱っこして眠ると、とても気持ちよく熟睡できた。
「コットンが一緒にいてくれて、よかった。私、いつも癒されるよ」
「にゃにゃっ。……ボクも、ご主人様とお話するのは好きだよ。楽しいよ」
ちょっと照れた感じで言うから、コットンは可愛い。
ローズメイはニコニコした。