そんなところで、はしがき、というのは終わっていました。


 私はぐぐぐと背伸びし、テレビを消して、日記を仕舞い、電気を消しました。カーテンを開け、夜景の光が部屋に漏れてくるように仕向けてから布団に入り、感傷に浸ってしまいました。

 やけにあの文豪をリスペクトしている日記で、何だか気恥ずかしくなってくると共に、友人のイメージとこの日記に登場する「自分」は似ていない様で、とても似ている感覚でした。というと、とても難しい。なんと言いますか。覚えている範囲では、似ていないとも思えるけども、その友人から溢れ出ていた気がする感情のオーラが、この日記に書き記された吐き気と合致していたのです。要は、うる覚えの中の友人が、こんな要素を兼ね備えていた気がするということです。うる覚えで申し訳ないと思うけども、人ってそういうものでしょ?

 まあそういう割には、こういった人間らしい醜さという物を、良しとしている訳ではないのですが。こうあるべきだという理想論ばかりで出来上がるのはそういう理想ばかりいう邪魔者ですので、私はこういう現実的な部分を肯定します。

 さておき、友人のこういった面を全く知らなかった私は、少し友人に対して申し訳ない気持ちが芽生えていました。……勘違いしないで欲しいのは、私はいじめを知らなかったのでやりようがなかったということ。私は加害者ではありません。本当に、勘違いしないでいただきたい。違います。私が申し訳ないと思っているのは、このような苦しみを抱いていながら、それに気が付いてやれなかったことです。人として当然の事だと思いますが、友人の苦しみを理解してやれなかったというのは、とても心残りがあります。

 ……もしかしたら、私にもそういった同情を向けてくれた方がいてくれたらいいのですが。いいや、やめましょう。いやしない希望を見るのは、後に苦しむ。

 ともかく、その日の『ごめんなさい』は、終わりました。

 新幹線で名古屋に帰り、いつものボロアパートに帰宅して、荷物を下ろし、友人の日記をいつでも続きが読めるように大事に机に置いておきました。

 次の旅は、二ヶ月後の予定です。

 すると、家電に一本の留守電が入っていました。

 気持ちの悪いものをよこしてくるな。そして妻と二度と会うな。子供とも会うな。近所でお前の姿を見かけたら、もうただじゃおかないぞ。

 弟の、留守電でした。封筒とお土産は捨てたと伝えてきました。