警視庁主導で動くことになった。
警察庁は警察機構を総合的俯瞰的に管理指示するが実行力は警視庁の方が遥かに高かったからである。
機動隊。
刑事部捜査一課。
そして、組織犯罪対策課。
各々の場所で終結しながらも一つの意識として統一されていた。
東大路将も警察庁のフロアで桐谷世羅の元に集まり時計を見ていた。
桐谷世羅は将と天童翼と根津省吾と菱谷由衣の三人を見て
「この作戦はそれぞれの場所で行動を展開するが統制が取れていないと失敗する」
と言い
「時計を合わせ、10時から行動を開始する」
と告げた。
「鷹司警視正が現地のライブ映像を機動隊に送っている。武器を所持した傭兵らしい人間が屋敷を守っているので今回は航空自衛隊の力も借りることにしている。航空自衛隊が屋外で武器を携帯するJNRの人間を排除した後に機動隊が突入し、我々が入る」
……後方だが常に命の危険があると思っておいて欲しい……
桐谷世羅も将も翼も省吾も由衣も防弾チョッキと銃は携帯していたのである。
桐谷世羅は更に
「今回の目的はJNRの破壊であり、天海礼華と白馬和時、十津川朱華の逮捕と瀬田祥一朗の保護だ」
と告げた。
「これでJNRの中枢は完全に破壊できる」
……その後の末端は時間が掛かるだろうが掃討戦になる……
将も翼も省吾も敬礼をして
「「「はい!!」」」
と答えた。
桐谷世羅は由衣を見ると
「菱谷は現場の外で各部署との連携役を頼む」
と告げた。
彼女は敬礼をして
「はい!」
と応え
「……私の所属していたJNRと対抗する組織の創立と後ろ支えをしていたのは……瀬田祥一朗でした」
と告げた。
桐谷世羅は「やっぱりな」と心で突っ込んだ。中心人物で『あの方』と言うワードは出るが名前が出なかったことと彼女が瀬田祥一朗の名前に反応を示していたことで大体の予測はしていたのである。
それはもちろん、将の母親である東大路茉代から瀬田祥一朗の経緯を聞いたから判断できたことであった。
翼は驚いたものの
「菱谷自身から話してくれてよかった」
と言い笑みを浮かべた。
省吾も頷き
「ん、後方での連携役お願いするね」
と告げた。
将は静かに笑みを浮かべたものの言葉を発することはなかった。今はこの作戦コードを成功させ、瀬田祥一朗の本当の姿と向き合わなければならないと思っていたからである。
六家の人間として。
父親として。
彼の真実を見つめなければならないのだ。
桐谷世羅はそんな将を見つめ笑むと
「よし! 時計を合わせるぞ! 9時59分0秒」
と言い、一分間のカウントを行った。
そして、10時になると足を踏み出し
「行動開始だ!」
と全員でフロアを出た。
鬼竜院闘平は彼らが出たフロアの一階上にある警察庁長官の執務室から遠くビル群と空が交わる空間を見つめ
「……頼むぞ」
と呟いていた。
嵐山正義警視総監もまた執務室で全体の報告を受けながらジッと正面を見据えていた。
「俺は祈るしかできない」
赤木勇介もまた鷹司陽と電話連絡をして
「鷹司、最期の〆だ。頼む」
と告げた。
鷹司陽は現場の周辺の木の影から平岡政春と共に上空を見上げ白く線を引く飛行機を目に
「わかった。最初の事件が長いことかかったな」
と苦く笑った。
そして、平岡政春を見ると防護マスクをかぶりながら
「俺たちも動こうか」
と告げた。
平岡政春は笑むと同じように防護マスクを着用して
「はい」
と答えた。
次の瞬間に建物周辺に煙が広がり催涙弾が多数落とされた。煙は建物にかかるくらいに達し、二人はその中へと飛び込んだ。同時にマスクをつけた機動隊員も催涙弾で苦しむ私設警備員を取り押さえ始めた。
屋敷の中では4階の豪華な部屋の中から外を見て天海礼華が
「まさか、自衛隊まで動かすなんて」
と呟いた。
白馬和時は床に倒れていた瀬田祥一朗を見ると
「和田には個々の住所ではなくもう一つの方を教えておいた……そこへ駆け込めば爆破するように仕掛けておいたのに」
と服を剥いで
「発信機がないかは確認したはずなのに」
と呟いた。
十津川朱華は椅子に座って笑うと
「20年も私たちの仲間のふりをしてきた男ですもの……発信機を飲み込むくらいはするんじゃないのかしら?」
と告げた。
「私は酒家も失って屋敷も全てを失って終わっていたけれど貴方たちが共に隠し財産で立て直そうと言ったから付き合ったけれど」
……もう終わりなんだからそろそろ教えてくれないかしら? 隠し財産の場所を……
白馬和時は彼女を見ると
「何を言っている、俺たちに対して隠し財産のことなど知らぬふりをして一人で手に入れるつもりなんだろう? お前が場所を知っているのは分かっている。話せ」
と告げた。
十津川朱華は目を見開くとチラリと天海礼華と瀬田祥一朗を見た。
「冷静に考えなさいよ、白馬。確かに私はなるみと良い仲になってあの島の駐在になって富を手に入れたわ。でも、なるみが一番信用して場所を教えるとすれば娘の彼女でしょ? 彼女からは聞いていないの?」
……どうして部下だった貴方を含めて私や瀬田や杉山や三津野や松村に話をするのかしら? ……
白馬和時は少し考えてチラリと後ろの窓際に立っている天海礼華を見た。
「礼華お嬢さま、俺はお嬢さまからなるみの女だった十津川が場所を知っていると聞いたから彼女に声を掛けた。しかし、十津川の言うことももっともだ」
……どういうことですか? ……
天海礼華は銃をポケットから出すと
「そうね、お父さまは私に多くの遺産を残してくれたわ。それを隠し財産と言うなら『私が知っている』が正解ね」
と言いニヤリと笑うと銃を十津川朱華に向けてはなった。
十津川朱華は立ち上がりかけて撃たれるとそのまま床に倒れ落ちた。
天海礼華は笑いながら
「わからない? お父さまが私の母や私以外の女を好きになるなんて許せるわけがないでしょ。目の前で始末するために呼び寄せたのよ」
白馬、ありがとう、と言い蒼褪める白馬和時に
「鎌谷の息子と娘は失敗したけれど鎌谷じゃないから見逃したの。後はこの男と……一番許せない……鷹司……」
と顔を歪めた。
「父を逮捕して……私を投獄したあの男……瀬田と一緒に始末してやるわ」
彼らの足元では機動隊と私設警備員が銃撃戦を繰り広げ、将と翼と省吾も銃を手に足を踏み入れていた。
将は見上げて
「瀬田祥一朗……どこにいる」
と呟いた。
真実を。
本人の口から真実を聞きたいのだ。
何故、六家になった?
その心は本当に正義の為だったのか?
その時、背後から肩を掴まれ驚いて振り向いた。そこに鷹司陽が立っており
「4階だ」
と言い
「まだ制圧されていないから、かなり危険だがどうする?」
と告げた。
将は銃を手に
「行きます」
と答え、振り向いた翼と省吾に頷いてみせた。
翼は笑むと
「こっちは任せろ」
と敬礼し、省吾も
「頑張れ、ちゃんと答え見つけなよ」
と笑みを見せた。
鷹司陽と平岡政春は将を間にして階段を確保している機動隊の後ろを通って駆けあがった。
階段を制圧して守っている機動隊員は鷹司陽に
「3階4階はまだなのでくれぐれも気を付けて」
と敬礼をした。
鷹司陽も敬礼して
「ありがとう」
と応え、警備隊員の間を抜けて廊下へと出ると周囲を見つめながら足を進めた。
恐らく殆どの警備員が1階2階に集中しているのだろう静寂が広がっていた。将は勝手に流れる緊張からの汗を軽く服で拭い息を吐き出した。
瞬間であった。部屋の角から男が一人銃を構えて飛び出してきたのである。
鷹司陽は素早く男の腕を撃ち抜いた。男が蹲ると周囲を見ながら男の銃を回収して銃の柄で打ち付け気絶させた。
「手加減はできないからな。手加減すると俺たちが殺される」
そう言って足を進めた。
ドックンドックンと煩いくらいに心臓の鼓動が強く早く打ち付けているのが分かる。
周囲が静かなだけに自分の息や鼓動がこれほど煩いとは『マジか』と突っ込みたくなるほどであった。
将は足を進めて廊下を進みながら何時銃弾が飛んでくるか分からない状況に
「これが……日本か?」
と思わずつぶやいた。
平岡政春はそれに
「警察が崩壊したらどこもかしこもこうなるだろ。法はあっても紙に書いたモチになる。守る者がいないとな」
と呟いた。
「俺がJNRにいた時は正にこの状況だった」
……法よりもJNRの指示だったからな……
将は笑むと
「そんな世の中にするわけにはいかないな。誰もが平和が普通だとそう生きていけるように人々を社会を守らないとな」
と告げた。
奥の扉の前に三人ほどの白馬和時が雇った施設警備員がおり、将は足を踏み出すと銃を素早く構えた男の腕を撃った。鷹司陽は驚いたものの将が彼らの目を引いたのだと理解し、彼を狙ったもう一人の男の腕を銃で撃ち、平岡政春も残りの一人を撃った。
将が倒れ蹲る男たちに近付きかけた瞬間に鷹司陽が手で制止した。
「銃声は部屋の中にも聞こえている」
その瞬間に扉の向こうから銃声が響き、目の前で男たちが逃げかけて倒れた。扉は三カ所ほど割れて飛び散り将と鷹司陽と平岡政春は扉に背中を付けた。