第十三夜 2

 将は立ち上がり

「瀬田祥一朗……俺の本当の父と向き合おう。きっと父さんも母さんも姉さんもそう望んで俺に警察官の道へと誘ったんだ」

 と笑みを浮かべると自室へと戻った。


 もう迷いはなかった。


 翌日、将が警察庁の入っている合同庁舎へ着くと記者やテレビ局が集まっていた。JNRが煽っているのだろう。メディアは公明正大と言う訳ではないのだ。

 将は慌てて建物の中へと駆け込み内部組織犯罪対策課のフロアへと姿を見せた。中には既に桐谷世羅と天童翼と根津省吾と菱谷由衣がいて、中央のテーブルに遠野秋日と八重塚圭が座っていた。


 将は「俺が最後だった」と心で突っ込みながら

「おはようございます」

 と告げた。


 桐谷世羅は顎を動かして

「集まれ」

 とテーブルに全員を呼び寄せた。


 その時、将は手をあげて

「あ、すみません」

 と言うと

「俺、皆さんに言うことがあります」

 と告げた。


 翼と省吾と由衣は彼を見て、遠野秋日と八重塚圭も見た。

 将は息を吸い込み吐き出すと

「瀬田祥一朗の行方を追おうと思う。それでちゃんと向き合って話をしようと思う」

 と告げた。

「その上で罪を犯していたら逮捕する。例え本当の父親でもそこは俺の正義が許さないと思うから」


 省吾は目を見開き

「え? なんか、さらりと凄いこと言ってた気がするけど……あの瀬田祥一朗って東大路のお父さん??」

 と聞いた。


 翼は彼が将を助けた時点である程度想定はしていたので「やっぱりな」と心で突っ込みだけであった。が、それ以上に将の中にあった固い壁を彼が乗り越えたのだと気付き笑みを浮かべていたのである。

「良かったぜ」


 由衣も

「そうですね、瀬田祥一朗については情報を精査したところ犯罪の情報は出ていませんが、JNRの六家である以上はその事情は聞いた方が良いと思います。JNRは犯罪組織と言う位置づけにありますから」

 と答えた。


 八重塚圭は複雑な表情を浮かべたものの

「その……家族だからと手心を加えないという言葉を信じます」

 と告げた。

 遠野秋日は彼女の背中を軽く触れ

「圭ちゃん、俺もJNRの一員だった。悟と正樹も俺が誘ったせいであんなことになったんだ」

 と告げた。


 彼女は彼を見ると

「それは遠野さんも」

 と告げかけた。

 が、遠野秋日は首を振ると

「同じなんだ。だからこそ俺はその過ちの分だけJNRがこれ以上悪事をしないために彼らの悪のために悲劇が起きないようにするために頑張ろうと誓った。これはこれまで不幸にしてしまった人たちへの贖罪なんだ」

 と告げた。


 彼女は俯いて

「……そうね、兄さんも正樹さんもJNRに入った時は喜んで、警察に入った時も感謝していたもの……被害者面だけするのは間違いね」

 と呟いた。


 将は敬礼をすると

「俺は例え父であっても罪を犯していたら逮捕します。でもこれは六家だけじゃない……JNRだけじゃない。罪を犯した人間と向き合って逮捕しようと思っている」

 と告げた。

「これまでの俺は唯闇雲に正義と言う言葉を振りかざして悪を許さないだけだったけど、確かに悪は許さないけど……何故と向き合って逮捕しようと思うし、その何故と向き合うことで犯罪を止めることも出来ると思った。本当の正義は外へ向けての言葉だけじゃなくて俺自身への自戒の言葉だと今は思ってる」


 桐谷世羅は笑みを深め

「一つ壁を越えたな」

 と心で告げると

「では、作戦を聞こうか」

 と告げた。


 情報戦を仕掛けてきているJNRへの反撃である。


 遠野秋日は笑みを浮かべると

「情報には情報で。メディアにはメディアで」

 と計画を説明した。


 その夜の東京の渋谷のスクランブル交差点を始めとして大阪の地下街、名古屋の地下街の屋外大型ビジョン広告に動画が流れた。


『スクープ!! 警察を叩くニュースを流した東都中間テレビと東都中間新聞社の重役と警察官の殺人を指示した闇組織の人間が闇の交際!!』

 とJNRの和田秀雄と東都国内テレビの重役である大場久雄が共にスナックへ入っていく姿が映っていたのである。


 そして、八重塚圭が映り

「私の兄は警察官でしたがこの男と同じ組織の人間に殺されました」

 と泣きながら

「東都中間テレビには真実を報道していただきたいです!」

 と告げた。


 その動画は大都市の有名屋外広告をハイジャックして巨悪報道すると情報がリークされておりどんな報道がハイジャックするのかと映しに来ていたライブニュースの画面に映ったのである。


 東都中間テレビ局の大場久雄はテレビ局の最上階にある広々としたちょっとした会議すら出来そうな執務室の中でそのニュースを見て蒼褪めると

「……何故、あの時の映像が……」

 と携帯を手にすると電話をかけて

「ちょっと、お話が違うじゃありませんか!!」

 と叫びかけて背後の扉が開くのに振り向き目を見開いた。


「君は!?」


 手持ちのカメラを構えた遠野秋日が立っており

「ああ、フリー記者です」

 と言い

「どうぞ、お話を」

 と告げた。


 大場久雄は携帯がプチンと切れるのに

「お、お待ちください!! 私は貴方のご命令で!! ご命令で警察を」

 と言い、その姿がテレビに映っているのに座り込んだ。


 その後、一気に東都中間テレビ局が『犯罪組織と結びつき警察を叩き犯罪組織への介入を封じようと世論を動かす報道をした』と他のテレビ局が流し始めた。中には同じように指示を受けて同調したテレビ局もあったが反転して泥をかぶるのは東都中間テレビだけでいいとの思惑から報道を始めたのである。


 そういうところは強かなのである。


 翌日には各警察の前に押しかけてきていた市民団体やテレビ局の姿は消え去り正に打って変わっての静寂状態であった。


 大場久雄は情報交換と共に警察に身柄の保護を願い出たのである。


 和田秀雄とのやりとりが止まり、直ぐに白馬和時から電話があり、警察を騒がせるニュースを流させたということであった。その電話番号を調べたが既に解約されており登録住所の場所には誰も住んでいなかったのである。


 ただ和田秀雄が白馬和時の屋敷を知っておりその場所を話していたのである。


 将は落ち着いた合同庁舎の中の内部組織犯罪対策課のフロアで泊まりこんでおり、警察庁長官の鬼竜院闘平が調べさせていた天海礼華が服役していたと言われる刑務所の報告を桐谷世羅から聞いていたのである。

 刑務所の看守の一人が鷹司陽が調べにきて応対に出てその帰宅後から姿を消しており、警察庁から査察が入ってその報告がされたのである。


『残念ながら天海礼華はおりませんでした。いま行方を眩ませている看守の行方を調べております』


 桐谷世羅はそれを聞きフロアで泊まっていた将と翼と省吾と由衣に

「天海礼華はJNRの組織員だった看守によって逃がされていた」

 と言い

「恐らく和田秀雄が言っていた白馬和時と十津川朱華と共にいると思う。そこに……瀬田祥一朗も捕まっていると思われる」

 と告げた。


 同じとき、鷹司陽と平岡政春は東京の郊外の一角にある周りが木々に覆われた屋敷が見える場所に木の影に隠れながら立っていた。

 和田秀雄を捕まえた時に聞きだした場所であった。建物の周囲には物々しく傭兵崩れの私設警備員の姿があり銃を携帯していた。


 鷹司陽は小型カメラを設置して平岡政春を見ると

「行こうか」

 と告げた。


 平岡政春は頷いて

「はい」

 と答えた。


 JNRとの最期の対決の時が迫っていたのである。