隼峰統は笑むと
「立花さん、申し訳ない」
と言い将たちを見ると
「その情報を受けてから別荘を含めた攻略を考えた方が良いかもしれない」
と告げた。
小宮山忠司は立ち上がると
「出来るだけ目立たない行動をとりたいので出来れば二人ほどの方が助かる」
と告げた。
隼峰統は頷くと
「確かに」
と返した。
それに将が
「でしたら俺が」
と告げた。
が、翼が息を吐き出して
「いや、東大路は残ってろ。俺がいく」
と立ち上がった。
「俺とお願いします」
立花孝一は笑むと
「助かる」
と答えた。
「では、2人で」
小宮山忠司は敬礼すると
「ご協力感謝する」
と答え、2人を連れて偵察へと出かけた。
それを見送り隼峰統は表情を一変させると
「恐らく宮城県警はJNRの温床化していると思います。ただJNRの内部も一枚岩ではないようで裏切りがあったみたいですね」
と言い
「我々は今から別荘の方へ向かいましょう。杉山真也の屋敷には警察庁からの応援と新潟県警と合同で攻め入ります」
と告げた。
そして、北上友視を見ると
「本拠地の方の式は任せます」
と告げ将を見ると
「東大路巡査は和田秀雄の捕獲か、杉山真也の捕獲がどちらにするか選んでください」
と告げた。
将は頷くと
「和田秀雄の方で」
と告げた。
「裏切ったのは和田秀雄ですね、恐らく六家の内部分裂の杉山真也でない方についた」
隼峰統は笑むと
「良い読みです」
と答え
「では、我々と」
と足を踏み出した。
下には既に3台のパトカーが待っており、そこに平岡政春が待機していた。
「お待ちしておりました。ご案内いたします」
そう言って敬礼をした。
隼峰統は敬礼しながら
「小宮山宮城県警本部長が指示した場所は恐らく鷹司警視正から先ほど報告をいただいた場所で間違いないと思います」
と告げた。
将は平岡政春を見て
「平岡、もしかして」
と告げた。
平岡政春は頷いて
「はい、鷹司警視正から呼び出しがあり鎌谷真理奈さんが監禁されていた別荘と杉山真也の屋敷の場所の確認を行っておりました。状況が状況でしたので声を掛けれず申し訳ありませんでした」
と答えた。
省吾も驚いて
「そうだったんだ」
と言い
「お疲れ様です」
と告げた。
そして、秋田県警の捜査一課第一係の面々と隼峰統と省吾と共に将は平岡政春が案内する別荘へと向かった。そこに罠が張っていると判断したからである。
少しして北上友視は桐谷世羅からの連絡を受けると秋田県警配下の機動隊を連れて杉山真也の屋敷へと向かったのである。大掛かりな捕り物劇となったのである。
別荘は山間の正に人里離れたロッジ風の一軒家であった。先行で向かっていた小宮山忠司と翼と立花孝一はそのロッジの手前の道で車から降りると足を進めた。
小宮山忠司は2人が黙ってついてきていることを確認しながら
「この道の先のあそこです」
と木々の向こうのロッジを指差した。
立花孝一は頷くと
「なるほど、確かに人目に付きにくい場所だ」
と言い
「取り合えず、県警本部長に連絡を」
と携帯を取り出しかけた。
瞬間に小宮山忠司は銃を手に
「このまま付いて来てもらおう」
と言い道の真ん中に進むと手を上げた。
翼は「もしやと思ったけど」と顔を歪めた。
そこに和田秀雄が数名の警察官を連れて姿を見せると
「これで秋田県警と内部組織犯罪対策課と取引が出来るな」
と笑った。
「まあ、六家の杉山さまを差し出すんだ。交渉のテーブルにはついてもらえるだろう」
それに立花孝一は後ろの警察官を見て
「警察官でありながら……欲に飲み込まれるとはな」
と言い
「今すぐその男と県警本部長を逮捕しろ!」
と怒鳴った。
……警察は国民を守るための組織だ! そのほかの組織に与してはならない!! ……
翼はそれに拳を握りしめた。恐らく言葉で動いたりはしないだろう。それだけ権力や金の魔性は強いのだ。一度自分も落ちただけにその怖さを知っているのだ。
小宮山忠司は笑って
「正義だけでは中央にも登れない。俺達は隅っこに追いやられて金も名誉もないままだ」
と告げた。
翼はそれに
「あんたが警察官になったのは金と名誉の為だけなのか? 警察官に大切なものは国民を守ること正義を守ることじゃないのか!」
と告げた。
「俺も確かに金や生活……それだけの為に警察官になった。でも俺は警察官に大切なものは『正義』だと教えてもらった。名誉でも地位でもない。国民を善良な人々の生活を犯罪から守ること、それだけでいいんだと」
立花孝一は笑みを浮かべて
「そうだ、それだけでいいんだ」
と言い
「お前たちの心にはその欠片すら無くなったのか!!」
と呼びかけた。
小宮山忠司は2人に
「黙れ!! 働いても評価されないモノの身になれ!!」
と叫んだ。
和田秀雄は笑って
「まあ、そう言う事だ」
と告げた。
その時、パトカーが数台駆けつけて止まると車から将が飛び出し
「そこまでだ!!」
と言うと
「だからと言って犯罪に加担して良いわけがないだろ!! そんなことすらも分からなくなったのか!」
と駆けこんだ。
小宮山忠司は驚いて
「何故」
と銃を引きかけて、車から降り立った隼峰統が素早く発砲すると彼の手を撃ち抜いた。
「確かに中央が上で地方は下と思うかもしれないが……本当はそんなことはない。中央も中央だけでは動くことはできない。まして階級があろうと腐ればもう警察官ではない」
……俺は秋田の人々と土地を守るという事に誇りを持っている……
「それは中央と同じだと自負している」
大切な人を守る。その土地を守る。
「それが我々の使命だ。出来ないなら警察を去るべきだ」
秋田県警の面々が小宮山忠司を捉え、戸惑っている他の警察官にも駆け寄った。
和田秀雄は蒼褪めると踵を返して走り出そうとした。瞬間に警察官の一人が彼の腕を掴むと背負い投げをして地へと押し倒した。
「瀬田祥一朗をどこへやった」
和田秀雄は帽子を目深にかぶった下の顔を見て目を見開くと
「お、まえ……鷹司……」
と呟いた。
鷹司陽は笑むと
「そうだ、小宮山が連れてきた部下の一人には別荘の中で寝てもらっている」
と告げた。
「それに宮城県警も落ちるだろう。杉山真也は投降の意志を示して宮城県警の事も全てを話したからな。お前が天海礼華や白馬和時に言われて勝手にしたこともな」
和田秀雄は目を見開くと苦々しく
「つまり、仕掛けた計画に仕掛けられたってことか。せっかく俺にも運が回ってきたと思ったのに」
と唇を噛みしめた。
鷹司陽は強く襟を閉め
「それで瀬田祥一朗渡したのか?」
と告げた。
「俺は万一の時のために浜中前警察庁長官に瀬田祥一朗のことを頼まれていたからな」
和田秀雄は息苦しさに蒼褪めながら唇を動かした。
「いう……そうだ、渡した。居場所は…」
鷹司陽は口元を歪めて笑むと将を見て和田秀雄を立たせた。
「東大路巡査、逮捕しろ。そして、瀬田祥一朗をどうしたか『絶対』に聞き出すように」
将は「何故?」と彼を見ながら和田秀雄に手錠をかけた。鷹司陽は手を離すと隼峰統の方に足を進めると立花孝一と彼に敬礼し
「ご協力感謝します」
と告げた。
隼峰統はそれに応えるように敬礼し
「こちらこそ、隣接する県警を救っていただき感謝する」
と答え、震えた携帯を手に着信が北上友視であることを確認すると応答に出た。
「こちらは落ち着いた」
北上友視は機動隊と警察庁から派遣された機動隊と警察庁刑事局組織犯罪対策部捜査一課と内部組織犯罪対策課長桐谷世羅と由衣とで秋田県警本部を包囲し全員の投降を呼びかけていた。
彼は膠着状態の間に桐谷世羅と駆けつけた警察庁長官の鬼龍院闘平の指示でもう一方の別荘の方の状況を確認するように言われたのである。
「いま宮城県警の方は膠着状態だ。どうやら上層部は全て侵食されていたみたいだな。投降の意志がある警察官は集められて閉じ込められているようだ」
そう報告した。
「杉山真也は鷹司警視正の話の通りに直ぐに投降して全てを話しているが……信じられない話があって今真偽を赤木刑事局長と嵐山警視総監で調べている」
……なるみ礼二の娘の天海礼華が数年前に脱獄しているそうだ……
「彼女と六家の一人である白馬和時が六家を纏めて今回の指示を出していたという事だ」
隼峰統は目を細めると
「なるほど」
と答えた。
「こちらは和田秀雄と小宮山忠司を捕獲して、これから瀬田祥一朗の行方と恐らく和田秀雄は杉山と天海礼華、白馬和時の間を行き交っていたと思われるのでその辺りの情報を聞き出す予定だ」
北上友視は頷くと
「そうか、県警本部長は落ちたか。了解した、伝えておく」
と告げた。
隼峰統は小宮山忠司と和田秀雄と宮城県警の警察官をパトカーに乗せて平岡政春と鷹司陽に敬礼をした。
将はパトカーに乗りかけて鷹司陽の元に走ると
「何故、瀬田祥一朗の行方を俺に聞けと?」
と聞いた。
その時、翼が駆け寄り
「多分、違う」
と言い
「お前、山形で撃たれた時に救急車で運ばれただろ?」
と告げた。
将は頷いて
「あれは……誰かが呼んでくれたんだろ?」
と返した。
翼が冷静に
「恐らく瀬田祥一朗だと俺は思った」
と答えた。
将は目を見開くと
「何故?」
と聞いた。
翼は首を振ると
「俺にも分からない。だけどきっと鷹司警視正はそれを知れと、そして瀬田祥一朗を救えと言っているんだと俺は思う」
と告げた。
将は顔を伏せて
「JNRの六家の人間をか?」
と呟いた。
翼は苦く笑むと
「俺もJNRの人間だった……でもお前は仲間として受け入れてくれた。でも六家は別か?」
と告げた。
それに鷹司陽は笑みを浮かべると
「では」
と既にパトカーに乗って待機していた平岡政春に頷いて助手席に乗り込んだ。
将は黙ったまま見送り翼を見ると
「本当にあの時、救急車を呼んだのは瀬田祥一朗だったのか?」
と聞いた。
翼は頷いた。
「ああ……俺はお前と瀬田祥一朗との間には何かあると思う」
将は視線を伏せると
「JNRの六家である瀬田祥一朗と……」
と呟き
「俺には全く記憶にない。だとすれば母さんか姉さんに聞くしかないけど……あの瀬田祥一朗と関係……」
と目を細め
「ごめん、天童……行こう」
と告げた。
翼は頷いた。
将はパトカーで隼峰統が先導する秋田県警へ向かったのである。そこで和田秀雄の取り調べに立ち会ったのである。
瀬田祥一朗は和田秀雄にとって六家の裏切り者だという話であった。そして、裏切者の瀬田祥一朗と鷹司陽が標的になっていると告げたのである。
「ああ、天海礼華が恨んでいるのはあの二人だ。あの女は狂っているが白馬和時と十津川朱華につけば大金にありつけるはずだったんだ」
……膨大な隠し財産が奴らにはある……
「それを目当てに力を貸す政財界の人間もいる」
だからどちらにしても警察は落ちるはずだった。
この日、宮城県警の大半を占めていたJNRの組織員は杉山真也が投降し、和田秀雄と小宮山忠司が逮捕されたと聞くと、警察庁と秋田県警の機動隊に投降した。
しかしJNRの白馬和時が後ろ支えをしている東都中間新聞社と同系列の東都中間テレビ局が『腐った警察 県警本部長の闇』と各地のJNRの組織員である警察官が起こした隠ぺい事件などをJNRの事を隠して『警察官の堕落』として報じたのである。
それに煽られて多くの新聞が騒ぎ出したのである。