翼は目を見開くと
「おいおい、スナックかよ!?」
とヒタリと汗を流した。
「まさか、本当はJNRの人間が成り代わっているとか……」
そう考えて足を止めると中に入ろうとした白木啓介に
「あの、昼食ならその辺りのレストランでも店も良いかと思いますが」
と告げた。
白木啓介は看板に目を向けて
「ああ、スナックって言うのが気になったんだねぇ」
とにこにこと笑って
「ここは俺の馴染みだった店で大丈夫、ちゃんと美味しいのっぺとかタレかつ丼を作ってもらうように言っているからねぇ」
と告げて中へと入った。
翼は省吾と由衣を手で止めて前に出ると中へとはいった。
そこには髪の長い綺麗な女性が待っており
「待っていたわよ、白木さん」
と言い戸口に立っていた翼たちを見ると
「あらあら、警戒されちゃってるの? でも安心して今は営業時間前だからお酒はださないわよ」
と告げて、カウンターから出ると名刺を渡した。
「りりこママって呼ばれてるわ」
そう笑って
「前に捜査協力をした時に常連になってって言ってからよく来てくれているのよね。そういう義理堅い人は好きよ」
と言い
「座って、郷土料理をごちそうするわ」
とカウンターへとさらりと戻った。
省吾は周囲を見回しながら
「俺、こういう店は初めてだ」
と呟いた。
由衣も驚きながら
「私もです」
と答えた。
翼は周囲を注意深く見回しながら
「俺もだよ」
と言い、テーブルの席に座った。
白木啓介は笑いながら
「りりこママは信用のできる人だからね」
と言い
「ゆっくり食べてそれから話をしようか」
と告げた。
りりこママと言われた女性はそっと店の外に準備中の看板を掛けると扉を閉めて料理を手際よくテーブルに置いた。その後は全く話に関知する様子を見せずに開店準備を始めたのである。
翼はその様子を見ながら食事を始めた。
白木啓介は翼を見て
「気になるかい?」
と聞いた。
翼は視線を動かして
「え、まあ……貴方がたを信じていいのかどうか」
と見つめた。
白木啓介は笑みを浮かべると
「そうだねぇ、それは難しい問題だねぇ」
と答えた。
省吾はそれに
「え、そこは信用しろじゃないんですか?」
と聞いた。
神生波留は小さく笑って沈黙を守った。全てを白木啓介に任せようと思っていたからである。そして、それを桐谷世羅も期待していると理解していたからである。
白木啓介は省吾をみて
「根津巡査はここで俺が信用してくれと口で言っただけで信用するかな?」
と聞いた。
省吾はう~んと考えながら
「俺は貴方を紹介した課長を信用しているからかなぁ」
と答えた。
由衣も頷くと
「そうですね、課長は人を見る目があるので……まあ、ぱっと見は口は悪いし態度はぶっきらぼうであれですけど」
と告げた。
それに白木啓介は笑って
「いやいや、確かにそうだねぇ、桐谷部長は態度は大雑把だし口は悪いが彼は酷く繊細で基本真面目な人物だね」
と告げた。
「天童巡査と似ている気がするね」
翼は驚いて白木啓介を見た。白木啓介は笑むと
「君は桐谷部長ほど豪快ではないが根っこは同じものを持っている。慎重で警戒心が強いが大切なものを守るということを知っている」
と告げた。
由衣はチラリと翼を見て直ぐに白木啓介を見ると
「いま会ったところで何故?」
と聞いた。
白木啓介は笑むと
「天童巡査は最初に我々の前に一歩踏み出し、こちら向かう時に神生が殿を歩くと君たちの後ろを歩いたからね。それにスナックの中に入る時も君たちより先に入っただろ?」
と告げた。
「全て安全確認のためだよ。彼は我々を信用していないからね」
それに由衣はチラリと翼を見た。翼は視線を下げて
「それは、いきなり昼食だとか……スナックに連れてくるとか……怪しいだろって思ったからだ。何かあった時に二人を守らないとな」
と呟いた。
由衣は笑むと
「その時は私も守るわよ、同じ仲間だもの」
と告げた。
省吾もまた
「俺もな」
と言い
「やっぱり、東大路くんがケガした時に何も知らなかったのショックだったしさ」
と告げた。
翼は笑むと
「それは俺も同じだ。あいつの一番側にいたのに……」
と告げた。
「それに」
省吾は翼を見て
「それに?」
と聞いた。
翼は俯いたまま
「……今回だって……あいつのようには出来ないし」
と告げた。
白木啓介はそれに
「俺はその東大路巡査と会ったことが無いので分からないけれど、大丈夫、今の君たちを見て大丈夫だと確信したけどね」
と告げた。
翼は呆れたように息を吐き出すと
「あのさぁ、俺にはあいつのようにJNRの奴らを屈服させたり、善良な新人警察官を鼓舞したりできないんだよ。東大路はすげぇ奴なんだ。俺はJNRの人間だった……そんな資格もないんだ」
と脱力したように椅子に凭れて俯いた。
本音の本音だ。ずっと気を張って堪えてきた思いだ。
白木啓介は静かな目で翼を写すと
「君は彼のようになりたいんだねぇ」
と言い
「頑張れば?」
と告げた。
全員が白木啓介を見た。
白木啓介は笑むと
「彼になれるように頑張ればいい」
と告げた。
翼はむっとすれば
「なれないに決まってるだろ!?」
と告げた。
白木啓介は冷静に
「君が無理だと思えばその時点で無理だね」
と告げた。
「君はJNRだった自分がJNRでない彼のように光り輝くことが出来ないと思っているのならきっとそうなんだろう。それなら君はこのいまの仕事を続けることも無理だろう」
由衣はそれに
「それはあんまりです! 天童さんはJNRだったからこそその人間を見極める目を持っています。そして、組織の人間だったからこそ間違っていたことを胸に頑張ってくれています!!」
と訴えた。
翼は反対に驚いて
「おい、菱谷!!」
と止めた。
白木啓介は翼を見つめ
「俺はテレビの刑事ドラマに憧れて刑事になったんだ」
と告げた。
省吾は思わず
「ええ!? テレビドラマって」
と告げた。
白木啓介は頷いて
「だから、捜査一課でカッコよく犯人を逮捕したり指示を出したりというのに憧れてねぇ」
と遠くを見るように告げた。
「でも現実はそういうのには殆ど縁がなかったねぇ」
翼は黙って彼を見つめた。
白木啓介は翼を見ると
「でも、そんな俺に警察で大切なことが唯一つだと教えてくれた人がいた」
と言い
「正義だ……君の中に罪を憎み正義を守ろうとする心があればいいんだ。誰かを屈服させたり、誰かを鼓舞したり……そんなことはそれが出来る誰かに任せればいい。君は罪を憎み、正義を愛する気持ちで立ち向かえば警察官はそれでいいんだ」
と翼の胸を軽く拳で押すと
「君の中でそれだけあって立ち向かえる勇気があればそれだけで良いんだ。その為の覚悟をしろと言っているんだ」
……警察は人間の最後の良心でなければならない……
確かそういうことを言っていたのだ。
『警察は鹿児島の善良な市民を、日本の善良な国民を、守る正義の盾であり、最期まで正義を貫く組織でなければならない!! だから、金や権力に腐心する狼は一人も必要ない! 正義を腐らせるだけだ!!』
翼は将の言葉を思い出し目を見開いて涙を落とすと俯き
「その差だったんだな」
と言うと
「東大路の中にあって俺の中になかったのは……俺には覚悟がなかったんだ。JNRに真に向かい合う。罪を心から憎む覚悟がなかったんだ」
と顔を上げて敬礼をすると
「俺はそういう意味では本当に俺が足を踏み外しかけていた罪と向き合えていなかったと思います。これから……向き合って戦おうと思います。苦しいですけど」
と告げた。
白木啓介は笑むと
「良い顔になった」
と言い
「過去は変えられない。だが、君には未来があるし君にはその過去があるからこそ君にしか見えないものがある。君は君で、彼は彼だ。ただ、警察官が失ってはならない罪を憎む気持ちと正義を守る気持ちがあればいいんだ。その苦しみこそが君の武器だ」
と告げた。
「俺はテレビドラマだったからねぇ」
省吾は泣き笑いしながら
「でもそういう人いますよ、きっと」
と告げた。
その後、頃合いを見計らって運ばれてきた料理はどれも翼や省吾や由衣の舌を唸らせた。りりこママは食事を終えて白木啓介から代金を受け取ると
「今度こっちに出てきたときは夜に来てちょうだいね。アルコールの方がもうかるから、よろしくね」
とにっこり笑って告げた。
翌日、翼は白木啓介と共に計画書を手に警察学校へと出向いた。そこに入れ替わったと思われる勝尾時春が待っていたのである。
勝尾時春は二人を迎えるとチラシを受け取り
「こちらは預かる」
と告げた。
が、翼は冷静に
「いえ、これは俺の手から一人一人顔を見ながら渡したいと思います」
と告げた。
勝尾時春はそれに眉を動かすと
「まさか、俺が信用できないと?」
と聞いた。
翼はそれに首を振ると計画書を見せて
「この計画書に沿って狼はこの二名で、狂人は彼で、占い師は彼と考えています。その選択に変更が必要ないかを実際に本人たちに愛ながら確認したいと思います」
と告げた。
丁寧に計画書まで出てきたので反対しすぎると疑われると勝尾時春は考えた。そう、行き過ぎると反対に疑われるのだ。彼は翼を見て立ち上がると
「了解した」
と言うと
「こちらに」
と新人警察官たちがホームルームのために待機している教室へと案内した。
翼はスーと全員を見て目を細めると一人ずつ紙を渡しその最期の一枚を当初決めていた人物とは違う人物に渡した。わかったのだ。自分が一度JNRにいたからこそその空気が分かるのだ。
……だからこそ俺は狼を見逃すわけにはいかない……
白木啓介は翼の姿を見守りながら口元に笑みを浮かべた。彼の上官の桐谷世羅はちゃんと彼の心の奥底に気付いたのだろう。だからこそここでその正義の心を見つけさせようとしたのだ。
「且つて俺が県警本部長から薫陶いただいたことを」
翼はその人物の身上書を頭に浮かべながら配り終えると勝尾時春に敬礼をして
「ご協力感謝いたします」
と告げて、少し蒼褪めている彼の前を通り過ぎて警察学校を後にしたのである。
勝尾時春は震えながら
「何故……」
と言い
「いや、まさか……このままだと」
と和田秀雄の言葉を思い出していた。
『新潟に入ったら始末しろ』
勝尾時春は覚悟を決めると足を踏み出して教官室へと戻った。
空は鉛色の雲が立ち込め白い雪降り始めた。その雪の中で神生波留を始め刑事部捜査一課第二係の面々は勝尾時春の周辺の聞き込みを行い、数日後、ちょうど警察学校の合宿の当日に勝尾時春の親友から「そういえば」と言う話から彼が行き付けだったという小料理屋に辿り着いた。
そして、そこの女将に話を聞いたのである。
彼女は当初こそ知らぬ存ぜぬの態度をとっていたが神生波留に
「我々は貴方の身も守らなければならないと思っています。我々が貴方に行き付いたことで貴方にやましいことが無ければいいのですが関わっていたとしたら貴方の身に危険があるからです」
それは貴方の方がよく分かっているかもしれないと思いますが、と言うと蒼褪めて口火を切って話を始めたのである。
「どうして4年も経ってからなの!?」
神生波留は彼女に
「犯罪に年月は関係ありません。投げた石が戻るのが一秒早いか遅いかくらいの意味しかないんです。俺は罪を憎みます。だから未解決事件を必ず解決します。警察官だから仕方ないんです」
と告げて、座り込む彼女を立たせた。
彼女の話では本物の勝尾時春に酒を飲ませて和田秀雄と言う男ともう一人佐々木紀夫と言う男に引き渡したというのである。和田秀雄は後ろに政財界に通じる人物がいて小料理店が抱えていた借金と地上げ屋を追い払う代わりに勝尾時春を酔わせて眠らせてくれればいいという話だったのである。
彼女は俯き
「悪いとは思っていたわ。でも」
と取調室で泣き崩れたのである。
そこから神生波留は佐々木紀夫と言う人物を調べ、彼が遊びで借金を作り、焼身自殺をしたことが分かったのである。死体の損壊が激しく直筆の遺書でそう判断されたということであった。
神生波留は拳を握りしめると
「恐らくその遺体こそが本物の勝尾時春教官かもしれない」
と佐々木紀夫の母親の元へ行き、自殺した際に残っていたものに目を見開いたのである。
母親は遺体の側にあったという血の付いた指輪を渡し
「愚かな母親だと……思います」
と告げたのである。
「これは息子のモノではないと分かっていました。そしていつか貴方のような人が来ると思っていました」
……申し訳ありません……
神生波留はその血の付いた指輪を受け取り科捜研でDNAにかけたのである。そして、遺骨を引き取りに行った墓が常に彼女によって毎日花を手向けられていたことを知ったのである。
「彼女は、息子に手向けていたのではなく……息子が殺した人物に手向けていたんだ」
……罪を共に背負いながら……
その頃、新潟市民芸術文化会館の4階にある天井が4mほどある広々としたスタジオの中で翼と省吾は勝尾時春と彼に与する2人の新人警察官を前に向かい合っていたのである。翼の背後には他の新人警察官がおり誰も息をのみ立ち尽くしていた。
勝尾時春は彼らに目を向け
「この合宿はある組織が我々新潟県警を脅すために行っているものだ。参加すれば全員学校から退学させる。今すぐこちらへ来て学校へ戻るんだ」
と告げた。
全員が翼と省吾を見た。彼の側にいた翼がJNRのメンバーだと目を付けていた人物とチラシを配る際に気付いた人物が
「そうだ、そいつらは警察組織を壊すために警察庁の人間だと偽って潜り込んできたんだ」
と告げたのである。
正に逆手に取るとはこういうことである。
省吾は強く一歩を踏み出すと
「それはお前達じゃないか!」
と告げた。
翼は強くなった省吾の姿を見て笑みを浮かべそっと手を止めると
「大丈夫だ」
と言い
「勝尾教官……いや、貴方はJNRと言う組織が送り込んだ勝尾教官を殺して成り代わった人間だ」
と告げた。
勝尾時春は眉を吊り上げると
「何を言っている!! そんなことを言って彼らが騙されると思っているのか!!」
と叫んだ。
翼は冷静に
「ここで俺たちを殺したとしても貴方はもう助からない。それは組織にいて本物の勝尾教官を殺した時点で分かっているはずだ。俺もJNRにいたからわかる。組織の上の人間にとって俺たちは駒だ。そんな駒の命なんて彼らにとっては紙くずも同然であんたがダメになったらまた新しい人間を忍び込ませるだけだ」
と告げた。
勝尾時春は笑って
「ハハハ、こっちが言う前に尻尾を出したか……組織の人間だと認めただろう」
と銃を向けた。
翼は横の二人を見ると
「ああ、だが俺は警察官になった。君たちもまだ間に合う。JNRの力で警察の中に入っても駒として警察を裏切り続けなければならなくなる。警察はそんなことを許し続けるところじゃない」
と言うと
「警察は正義の組織でなければ……国民を、市民を……人を守り、罪を憎み、闘う組織でなければならない。そんな組織にいてそれが出来るのか!!」
と強い口調で告げた。
……もしJNRと共にあるというのならここでお前たちが正体を現してくれてよかったと思う……
「これこそ人狼ゲームを行う意義があったとここで殺されても俺は感謝する」
……お前たちのような狼を警察から排除できるんだからな……
「警察官になる目的が罪を憎み、人を守り、正義を貫く以外にあったのならそいつは警察からいない方が良い!!」
勝尾時春以外の誰もが息を飲み込んで身体を膠着させた。
瞬間に勝尾時春は銃を向けて
「黙れ! 黙れ!!」
と叫ぶと引き金を引きかけた。
瞬間に後ろにいた田口翔平が前に出て
「俺は分からない、どちらが組織の人間なのか……でも、この人が言っていることは間違っていないと俺は思う! まして銃をここで使うこと自体が規定違反だと思います!」
と告げた。
他の面々も前に出ると
「「「その通りであります!」」」
と間に立って告げたのである。
翼は「お前たちは危ないから下がっていろ」と叫んだ。が、それに下がる人間はいなかったのである。
その時、勝尾時春たちの背後から神生波留の声と捜査一課の面々が推し入ってきたのである。
神生波留は驚く勝尾時春の手を手刀で銃を落とさせ、側にいた二人も逮捕して
「勝尾時春……いや、佐々木紀夫。お前が4年前に借金を苦に勝尾時春教官を身代わりに自殺したフリをして殺害し教官として成り代わりお前が送り込んだ人間の望むままに組織の人間を入れ続けていたことは調べがついている」
と告げた。
勝尾時春に成り代わっていた佐々木紀夫は蒼褪めると
「な、な、な……何を証拠に!!」
と叫んだ。
神生波留は彼を見つめ
「お前の母親が勝尾時春教官のしていた亡くなった奥さんとの結婚指輪を保管していたんだ。そこに血がついていてDNA鑑定をしてお前の母親と親子関係がなく、彼の母親と親子関係が証明された」
と告げた。
「お前は4年間、勝尾時春教官の母親ともお前の母親とも会うことが無かった。いや、そんなことすら考えていなかっただろう。その時点でお前はもう人ですらなかったんだ」
……だがお前の母親はお前が殺した『誰か』だと知っていながら罪を悔いて毎日彼を弔い続けていた……
「お前の罪を恐らく一人で背負ってきたんだ。これからお前はその分も一緒に罰を受けなければならない。そんなお前の罪が許されることは絶対にない」
佐々木紀夫は座り込むと手錠を嵌められて項垂れた。神生波留は翼を見て笑みを浮かべると敬礼をして
「これで新潟県警から狼を一掃できます。感謝します」
と言うと三人を連れて立ち去った。
同時に桐谷世羅と将が姿を見せたのである。
将は笑みを浮かべると
「流石だな、天童」
とゆっくり歩いて近付くと拳で彼の肩を軽く叩き
「言っておくけどな、俺はお前のその目に感謝していたんだからな」
と告げた。
「俺じゃあ、一人は見逃していたな」
翼は笑むと
「そんなことはないさ」
と言い
「けど、東大路がそう言ってくれて俺は嬉しい……JNRに落ちてずっと恐らく気付かない内にくさってた。でも大切なことをお前がずっと叫んでくれていた」
と告げた。
「警察官に大切なものは罪を憎み、正義を貫く心だってことだ……俺は罪の分もその心を戒めにして狼を見つけるために貫こうと思う」
そして、振り返ると
「よし! 残ったメンバーで合宿をする! どれほど心に誓っていても甘い言葉や人の心理を衝いて狼は近付いてくる。それに罪を犯した人間も必死で己の正体を隠そうとする」
それを見抜く目を持つためのモノだ。と呼びかけた。
残った全員が敬礼をすると
「「「「「「はい!」」」」」」
と答えた。
新潟県警では佐々木紀夫と新人警察官の二人からJNRの人間を聞きだし、警務部に潜んでいた松本圭也を始め数名を更迭し逮捕した。そして、警務部を刷新したのである。
将は翼の人狼ゲームの手伝いをしてその後、他の面々と共に白木啓介と会って話をした。
白木啓介は将を見ると少し笑みを浮かべ
「君ととても似た人物と数カ月だけコンビを組んだことがあります。彼は君のように情熱的で真っ直ぐな人物でした」
君は彼ともう一人の心を継いでいるみたいですね、と告げた。
「君が何時か正義に迷った時は君の周りにいる仲間たちの手を放さず掴んでいてください」
将は首を傾げたものの敬礼をすると
「わ、わかりました」
とチラリと翼を見た。
翼は笑みを浮かべると強く頷いた。そう、もしかしたら白木啓介は瀬田祥一朗があの時に彼のために救急車を呼んだ理由を知っているのかもしれないと思ったのである。桐谷世羅もそれを聞き、帰りの列車の中で瀬田祥一朗のことを調べようと考えていたのである。
「ただその秘密を知っているのは……恐らく東大路の母親だけだな」
彼女と会って話を聞くことを心に決めていたのである。
和田秀雄は新潟県警のJNRの人間が逮捕されたことを知り、宮城の仙台でJNR六家の一人である杉山真也に報告を済ませ
「杉山が落ちても俺には次がある。その為にも青森で裏切り者の瀬田祥一朗を始末し……奴らを操って計画を遂行しなければ、そうすれば何とかなる」
そう呟き車のアクセルを強く踏みしめた。
目前の空は暗く雷鳴が光り、雪が強く降り始めていた。