クラシス・ソース失踪三日目。
王城には、数人の人影が入っていった。
曇り空の中、その不穏な空気を世界が纏い。それを肌で感じながら。
王城の入口、中庭にて王様は緊急会議を行ったのだ。
「久しぶりですね。ノーセルさん」
序列七位。『魔士』カリス・グレンジャーはそう言った。
広場には色んな面々が揃っていた。大柄な男から小さな少年。様々な人間が集合しており。
「カリスか。おま、デカクナッタカ?」
大柄な男で淡い青のシャツ。
そして腰に大きな皮のベルトを付けた男がそう言った。
「ええ、ほんの少しですけど身長は伸びましたよ」
「つよく、ナッタか?」
「あぁ。まぁどうでしょう。あなたには勝てませんよ。ノーセルさん」
序列二位。『怪力』ノーセル・カートリッジ。
その男は序列二位にして、誰にも負けない怪力の持ち主。
鉄の剣を打ち付けても、銃弾を食らっても無傷な規格外の大男。
ノーセルはカリスを自分の子供の様に可愛がっており、なんやかんや面倒見がいい奴だ。
男は小難しい顔色から一切表情を変えないが、その実態は物凄く優しい男なのだ。
「ノーセルさんは今日あの人来ると思います? 三位の人と五位の人」
「三位はかおだす。でも、五位はいまグラネイシャニイナイ」
「え? それまずく無いですか。あの方、僕より強い神級魔法使いじゃないですか」
「………まぁ。なんとかナル」
五位『神魔』ケイティ・ジャックは現在不在だ。
ケニーの魔病治療を名目に、現在サザル王国へ飛んでいる。
元々自由な人間だったから、序列が集まる会議とかにあまり出席しない人だ。
だからまぁ別にいいかとカリスは息を吐いた。
そこから色んな人が王城に集合した。
「あの人は?」
「あいつは近衛騎士団の新団長、ガーデン・ローガンダナ」
「……僕より小さいですね」
と、小さく呟いたつもりだが。
カリスはガーデンに強く睨まれた気がしたのでノーセルの背中に隠れた。
約束の時間になった。
そしてその場には、序列五位以外の序列が集合したのだった。
「……こんなにメンツが集まるのも、何十年ぶりだろうか」
そう王様が顔を出した。
目を見張って、珍しいメンツに感慨深い顔を見せた。
序列。
それは魔法大国グラネイシャの抑止力。
それらが今、この場に大集合したのだ。
王様は久しぶりの集合に少し笑った。
――だが悠長とはしていられなかった。
「死神護衛作戦は失敗じゃ。死神は何らかの手口を使い、クラシス・ソースと接触していた」
護衛作戦の失敗は王様の口から聞かされた。
ここの集まっている序列の数人は、その護衛作戦へ参加していたメンバーだ。
そして今後の事を考えると必ず序列の力が必要になると王様は考えていた。
だから全ての序列に招集を掛けたのだ。
「あのさぁ、なんで失敗したんだよ。どうして接触を許した?」
青髪の男、『狂剣乱舞』
序列四位『剣士』モーザック・トレスはそう嫌味を言った。
「すまない。まだそこらへんは調査中じゃ。ただ、普通に接触したのは無いと考えられる」
「何言ってんだ? 要は手紙とかそーゆう間接的な伝え方で誘ったとぉ?」
「悪いモーザック。
護衛をしていたロンドンはきちんと仕事をしていた。
つまり、我々の想定外な事が起こったと言う事なのじゃ」
そう少し頭を下げる、グラネイシャの王アルフレッド。
だがそのアルフレッドの言葉を聞いてもモーザックは納得してないように。
「想定外? 死神に判明してない能力でもあるってかー?」
その瞬間、モーザックは明らかにイラついた顔でアルフレッドが立っている台へと飛び乗った。
王アルフレッドは登ってくるモーザックに怯まず。
頭を下げ続けていた。
そんな王を上から眺め、モーザックは息を吐きながら。
「俺らがこんなに動いて考えて会議して。で、想定外の事態だと? 舐めるのもいい加減に――」
「モーザック。今回の件は、誰も責められないよ」
モーザックが明らかな失言をするその瞬間。語り出したのは子供の様な男だった。
名はガーデン・ローガンだ。
モーザックは振り返った。
ガーデン・ローガンの言葉に反論しそうな、反発しそうな顔をしながら。
だがモーザックの言葉より、ガーデンの一言がワンテンポ早かった。
「――降りろモーザック。そこに立っていいのは選ばれた王だけだ」
「………ちっ」
強い言葉に、モーザックが嫌そうな顔をしながらも従った。
「あのモーザックさんに命令できるって、何者ですか?」
カリスはそうノーセルに聞く。
するとノーセルは両手を開きながら、
「サァナ、あいつの素性は全く知らない。だが有能な事は見ればワカルナ」
『剣士』モーザックは一度エンジンがかかると止まらない性格だ。
その暴れ馬を止めれる男、
序列の中でもなかなか止めらなかった筈なのに。
ガーデン・ローガンとは、何者なのだろうか。
その時、カリスの耳に入った音は聞き覚えがない物だった。
コツコツと。まるで石を棒で殴っているような音が響き。
それがヒールの足音だと気が付くのに、カリスは時間が掛かった。
「――ちょぉーと遅れちゃったんだけど、うん。どこまで話、進んだァ?」
唐突の来客。
現れたのは、高身長の女だった。
黒い服、露出がある胸元、そして被っている豪華なカウボーイハット。
その腰には二丁の拳銃が逆さにしまわれていた。
「……え? 誰ですか」
「アァ、カリスは会う初めてか。あの女が」
――序列三位『銃士』ロベリア・フェアフィールド。
彼女は魔法大国で唯一『拳銃』を使った序列だ。
元々拳銃はグラネイシャではなく、ノージ・アッフィー国での物だが。
その殺傷力と汎用性の高さは魔法がある世界にとってイレギラーな存在。
起源を辿れば、
『拳銃』は【人族の技術】。
『魔法』は【魔族の技術】なのだが。
この世界では魔法の方が広まった。
その理由は簡単に言えば順番だ。
『魔法』が先に出て、『拳銃』が後から出たのだ。
拳銃使いはこの世界にとって新しい勢力、武器であり。
その力は強力だった。
「えらく久しぶりじゃなロベリア」
「ええ。少し老けた? まぁおじいちゃんだもんね」
「舐めた口を聞きよって。ま、いいだろう。重大な話はまだだったからなぁ」
王様は笑いながらロベリアを歓迎した。
だが、その瞬間。ロベリアは王様の耳元へ行き。
「……ロンドン・ティザベルは何も知らなかったわ。
直近のクラシス・ソースに、死神側へ寝返る様子はなかったと」
「……そうか」
その言葉に王アルフレッドは少し考えるようにした――。
その瞬間をロベリアは見逃さなかった。
「――でもおかしいわね?
どうして事情を知らない護衛対象者が、護衛する人間を指名できたのかしら?」
事情を知らない護衛対象者。
そう。今回護衛の対象に居た人間には、死神の情報を隠していたのだ。
だから知っている筈がなかった。
自分が護衛対象な理由も知らないのにどうやって護衛する人間を指名できるのだろうか。
「……お前さんなら、気づくと思ったよ。どうせお前さんなら知っておるんじゃろ?」
「いいえまだだわ。だけど、うん。――今ここでその不明点を明らかにする」
その呟きに王様は「何をする気だ」と言ったが、それより先に動いたのはロベリアだった。
「いるんでしょー? 六位。
あなたと顔を合わせるのは初めてだけど、うん。
力を借りてもいいかしら?」
その声は、その場にいる序列六位の耳に入った。
「………」
「ねえ返事してよ、萎えるでしょ? 街の雑貨屋の、――エスパーさん」
やけにドスの籠った声でそういうと、奥から一人の女性が歩いてきて。
青髪の色白魔女は、ロベリアを睨みながら口を開いた。
「クラシス・ソースは、死神護衛作戦を事前に知っていた。
と言う訳ね。――理由を聞いても? 王様」
――序列六位『竜人』イブ・バダンテール。
王都で『雑貨屋』兼『情報屋』をしている青髪色白の魔法使いだ。
彼女は【竜人】と言う特別な存在だ。
この世界には、
本来天高くを拠点としており。
地上には滅多に姿を見せないドラゴンなのだが。
その中で一番残忍で冷酷なブルードラゴンの一族、
バダンテール族の異分子、
それが彼女、イブだ。
イブは人間とブルードラゴンのハーフ、混血であり。
見た目は人間だがドラゴンの特性を引き継いでいるこの世でただ一人の人間だ。
イブが持っているドラゴンの特性。
それは『術』だ。
『術』とは竜の特殊な機関で魔力の流れで読み取り、
人の中を流れている魔力の感覚で、人の心を赤裸々に見れてしまうと言う能力だ。
つまりはエスパー。人の心を盗み見る才能を持っているのだ。
この場でロベリアに指名された理由。それは――。
「……どう? 何かこいつ感じてる?」
「イッ! イタイ!! いたいッて――!!」
ロベリアは王様の首を鷲掴みし、乱暴にイブに見せた。
その光景を他の序列は止める事はしなかった。あのガーデン・ローガンでさえも。
何故なら――皆が思っていたからだ。
王アルフレッドが、何かを隠していると。
「………」
「ねえイブ? 返事くらいはして」
「黙って。読んでるの」
「あ、はい」
これで一位以外の序列の名前が判明した。
――――――――――
序列早見表
一位『■■』
二位『怪力』ノーセル・カートリッジ
三位『銃士』ロベリア・フェアフィールド
四位『剣士』モーザック・トレス
五位『神魔』ケイティ・ジャック
六位『竜人』イブ・バダンテール
七位『魔士』カリス・グレンジャー
――――――――――
「……そう。取引をしていたのね」
「取引?」
イブは驚いたようにそう言うと、ロベリアは食い気味に言い寄った。
その際、王様の頭をポイッと捨て、「イッテ!」と王様は思わず呟く。
「いや、取引とまでは行かないけど。
少なくとも王様は、何らかの『約束』をクラシス・ソースとしていた」
「約束ぅ? その約束によっては、護衛作戦自体が意味のない物になるけど。そうなると――」
「俺が王様を殺しても良いんだよなァ?」
ロベリアの視線は序列四位へ向けられた。
青髪モーザックは頭に血管を浮かばせ、剣を引き抜こうとしていた。
「待ってねモーちゃん。これは、うん。じっくり話を聞く必要があるから」
「ア!? モーちゃんってナンッダヨ!」
ロベリアの言葉にモーザックは頬を赤らめながら強く言った。
それは多分だが、モーザックは照れているのだ。
どうやらモーザックは『お姉さん耐性』が低いようだった。
「さて」
ロベリアはそう息を吐くと、即座に銃を引き抜き、王様のオデコに銃口を突き付けた。
そして怖い顔になって。
「一体どんな約束をしたのかしら? 答えてくださっても?
あなたが知っている通り、アタシ、理性より先に指が動く質でしてねぇ」
「全てを話そう。元々、お前らに隠す理由もないんじゃから」
「え? 案外あっさりしてるわね」
その答えにロベリアは拍子抜けだった。
そのあっさりさに何だか混乱したようで、すぐに拳銃をしまって。
「言いなさい」
「……クラシス・ソースは、なぜかこの作戦を事前に理解していた」
王アルフレッドが語り始めたのは、その場にいる人間に衝撃を与える内容だった。
「わしは、クラシス・ソースに極秘で手紙を貰っていた。中身は簡単だ。
『元騎士のロンドン・ティザベルを私の護衛にすれば、死神の有益な情報を与える』と。
だがその事を他の人間に喋ったり、明かしたりしたら。私は死神と結託して去ると」
その内容に序列は混乱した。
つまり。元々、
「……じゃあ、死神候補護衛作戦と言う物は、
クラシス・ソースが死神と繋がっているのを知った上で開始された訳か?」
「その通りじゃ」
新たな死神を生み出さない為行われた作戦の筈が、
その作戦はいつの間にか、
クラシス・ソースがロンドン・ティザベルと出会う口実として、
クラシス自身が改変した作戦になっていた。
王アルフレッドは了承した上だが、
他のメンバーからしたら手の上で踊らされていただけだったと。
「………」
序列達は少し複雑な感情に陥った。
本当にその通りなら、死神候補護衛作戦は、ほとんど無意味な可能性があるからだ。
「それじゃ、俺らが護衛してた意味なくねぇか?」
元を辿れば死神になるかもしれない対象の子供を、死神の魔の手から救う事が作戦だった。
だからこそ、最初から正解が分かっていた王様に対し、少しだけ憤りが生まれた。
だが王アルフレッドはつづけた。
「いいや。意味はあったんじゃよ クラシス・ソースは嘘をつかなかった」
「……そりゃ、どうゆう事だ」
「死神の有益な情報を提供してくれた。
それはわしがこの作戦の前提を大きく覆してもいい程、
喉から手が出るほど欲しい情報をだ」
王様は言った。
結果的にクラシス・ソースは死神になり行方をくらましたが、
クラシスは約束をちゃんと守ったと。
「それは、死神の目的じゃ」
「目的? まさか、不明だった死神の目的をここで教えてきたのか? どうやって?」
「………わしの、夢の中でじゃ」
「はァ?」
夢の中。
「何抜かしてんだこのジジイ!」
「待ってモーザック。今は黙ってて」
モーザックがまた暴走気味になったが、ガーデンが止めた。
そして王様は、その言葉の意味を語った。
「死神は他人の夢の中へ侵入できる。
それできっと、クラシス・ソースと密談していたのじゃ」
「……その話が真実だとしたら、確かに不明点の説明がつく。うん、そうゆう事ね」
死神は人の夢に侵入できる。
その力でクラシス・ソースと密談をし、クラシスを死神に仕立てた。
そして――。
「で、死神が語った目的とは何ですか?」
ガーデン・ローガンは王様にそう問う。
この大きな作戦の目的を改変し、クラシスに従ったメリットはあったのか。
ここに居る序列全員を騙し。得た物はあるのか?
「――死神の目標は」
――――。
―――。
――。
「で? これからどーすんだよ王様。散々利用されて、これから死神に対してどうゆう対策をするんだ」
語り、理解し、他の序列達は次への行動を王様に聞いた。
すると、王様は――アルフレッド・グラネイシャは言った。
「――死神に関する全ての情報を、全国民に開示する。生きにくくしてやるんだよ。この世界から」
そう言ったアルフレッドは、悪魔のような笑みを浮かべていた。
死神に関する全ての情報。
人を移り、北の街を襲撃し、魔物を操る事が出来る存在を。
全て明らかに、赤裸々にする。
――こうして死神と言う存在は全世界に広がった。
――――。
「……俺が悪かったんだろうか」
ロンドン・ティザベルはそう一人で呟いた。
憂鬱。彼の現在を表すならその言葉だった。
余命まで【??日】