胸が寂しくなる感覚だった。
その黄色に近い草むらを歩き、俺は花束を持って門をくぐると。
「……お前は?」
どうやら先客がいる様だった。
デカい鎧を着た、豚の様な男が俺に敵意を向けながらそう呟いた。
鋭い見下すような黒い目。でも俺は、今回はそれに屈しなかった。
冷たい風だった。そこは質素な場所、ではなかった。
数々の墓石が並べられ、その一つに。
『キャロル・ホーガン みんなのムードメーカー、ここに眠る。』
ここはキャロルが埋葬された墓地だった。今日は俺がサザル王国を出る前に、最後の墓参りをしに来た。
「よっ、ギルドぶりだなお前」
少し震えた喉を寒さのせいにして、俺は勇気を出してそう話しかけた。
豚の様な男。ケイティが逮捕され、無実を証言する為にギルドで協力も求めた時。
俺の目の前に立ち、お前さえ来なければと言った男だ。
「キャロルの墓に何をしに来た……ケニー・ジャック」
「お前もあの裁判を見たんだろ。俺に怒りを向ける理由は無い筈だ」
「もうお前に対する怒りなんて、ない。ただ、お前はもう王国を出ると聞いた筈なんだが」
もうそこまで噂行ってんのか。まぁアーロンは普通にギルドの冒険者と仲がいいからな。
「明日には王国を出て、中央都市へ向かう。最後の墓参りだよ」
「……最後の日くらい。お前は来ないと思ってたよ」
「………なんだよ、お前。俺が毎日ここに来てるの知ってたのかよ」
俺は人魔騎士団に入ると決めてから、ずっとこの墓へ足を運んでいた。
理由は……想像に任せるよ。ただ、俺だって罪悪感はある。俺がケイティ探索で誘った結果死なせてしまったのだ。
――これに関しては、本当に、俺のせいだった。
「お前まさか、俺が来ない日を狙ってたのかよ」
「……まぁな。俺だってアんだけ啖呵切ってしまったんだ……お前に合わせる顔が、ねぇ」
「お前案外可愛い――」
というと、黒い目が殺意を持ち始めたので流石に言うのをやめた。
そうか、まぁあんなけ言ってしまったら。少し会うのが気まずいよな。
でも、それは間違えていないぞ。
キャロルが死んでしまったのは俺の判断ミスだ。
だから、恨んだままでいてほしいな。
「………」
「…………」
「なぁ、お前にとってキャロルって、どんな奴だったんだよ」
「……可愛い奴だった。俺が色々あって、チームメンバーを全員亡くして。
もう行く当ても頼る当てもなくなった時。キャロルは優しくギルドに引き入れてくれた。
そこで俺は新しいチームを紹介された。初心者のチームだった。
キャロルから『彼らはいつか冒険者になりたいらしいんだが、まだ戦う力とか判断などが緩い。鍛えてやってくれないか?』と言われた。俺は嬉しかった。そいつらが、俺のかけがえのない今の仲間だ」
……そっか。あいつ意外と、そうゆう所あるんだ。
困ってる人に手を伸ばし、その人の希望を見つける。あいつ、良い奴じゃん。
俺と初対面の時は俺がケイティの名前を出したからなんだろうな。あと俺の見た目が、きっと変な風に映ったんだろう。
「……悪かったよ」
「なに謝ってるんだよ」
「ま、こんな俺にも罪悪感があるって事だよ」
「………」
「……帰るわ。色々、世話になった」
「――お前は、悪くない。悪いのは魔解放軍だ」
俺が背を向け歩き出すと、豚の男はそう言った。
そして自分の大剣を取り出し、墓所の中で明らかな殺気を俺じゃない誰かに向けて。
「俺は絶対に魔解放軍を許さない。カサンドラ・ウーマの名に懸けて、必ず復讐を成し遂げる!」
「……カサンドラ。俺も同意見だ」
きっと、こいつとまたここで会う時。
この世界から魔解放軍なんて居なくなっている事を願おう。