やぁ、みんなのヒーロー。ケニー・ジャックだぜ。
みんなの赤い声援、いつも胸に届いているぜ!
前回の俺の戦い、見てくれたか?
ゴブリンの群れから村を救ってから随分たったな!!
あの頃は懐かしいぜ!
がっはは!!
………。
冗談はさておきだな。
俺がサザルへ飛び立つ前日。
俺は、モーリー食堂に報告の為向かったのだった。
――――。
「長期休暇?」
「少し急用が出来てしまい。長めのお休みなどを貰えませんかね?」
と、頭を下げた。
状況を説明しよう。
現在いるのは閉店後のモーリー食堂であり。
目の前にはモーリーとロンドンが椅子に座っている。
そんな二人に俺は無理な話をしていた。
「別に問題はないけど、そんないきなりどこへ行くんだい?」
「サザル王国です」
「サザルぅ!?」
二人の驚いた声が食堂に響く。
そりゃそうだよな。突然すぎるもん。
サザル王国の距離とか考えたら、そりゃ驚くだろうな。
「……まぁ理由があるんだろう。別にうちの食堂の事は気にしなくて大丈夫さね」
「ありがとございます」
許可は取れた。
これで心置きなくグラネイシャを発てるな。
「――――」
だがなんというか。
流石に申し訳ないな。忙しいだろうに。
モーリーは今、北の街の、魔物に壊された家とかの復興の手伝いをしている。
その為、現在食堂は出張しており。
中央広場で屋台として営業しているのが今の食堂だ。
建物の中から外に変わっただけだが、それでも負担は外の方が多いだろう。
家などが壊されお金もまともに持っていない人達の為に。
殆ど無償でモーリーは食事を振舞っている。
「――――」
優しい人だ。
そんな大変な時期なのに、俺はこれで良いのだろうか。
勿論、迷いはあった。
でもやはり、このチャンスは逃すと後悔する気がする。
「少しの間、店を閉めるかね」
「え?」
モーリーから聞かないような、
少しがっかりしたようなそんな呟きだった。
いつも明るいモーリーが、そう言ったのだ。
その言葉を聞いて、俺はやはり胸が締め付けられた。
やるせない気持ちだ。
と言っても俺だって理由がある。
もし今行かなかったら、俺は本当に来年死んでしまうかもしれないんだ。
苦渋の決断だが。そうするしかない。
「まぁ、ネェちゃんは一旦休んでもいいと思うぜ」
すると、暗い顔をしているモーリーの横で、
少しへそを曲げたような表情でロンドンは言った。
「休めないさ。ただ、休憩をして、また店を開ける」
まあ。モーリーならそうするな。
「俺だってずっとこの店に入れるわけじゃぁねぇ。
来週からは別の仕事に呼ばれてんだ」
「呼ばれている?」
「あぁ、ケニーの旦那には話してなかったがぁ。
元騎士なのに王様から直々に仕事を依頼されるらしい」
王様から直々に?
……死神関連なのだろうか?
そういえば死神候補の貴族は数が多かったから。
死神の事情を知っている人間で、一番良かったのがロンドンなのだろうか?
それとも、一度魔物と渡り合えているから?
いや、それなら別に近衛騎士団なら渡り合っているだろうし。
つうか、別に死神とは関係ない話かもしれないしな。
直近の事に引っ張られ過ぎた。
「――――」
俺がサザルへ行っている間。
死神関連のミッションが始まるらしい。
俺に誘いは来なかったが、身近の人物で言うとゾニーだ。
ゾニーは俺がサザルへ行っている間、イーソン・ベイカーと言う少女の護衛があるらしい。
ベイカー家。エマが嫁いだ先だ。
あんまり知らなかったが、ベイカー家には分家が多いらしい。
ゾニーと一緒にナタリーやエミリーも参加と聞かされた。
やはり、王様は襲撃時、魔物と戦った奴らを選んでいるのだろうか?
だとしたら、やはりロンドンもそれ関連だと考えても……。
「怪我だけはするなよ」
「俺が、怪我程度でぇ死ぬとでも?」
……ま、死ななそうだよな。
片腕無くなっても襲い掛かってきそうな獰猛な性格だ。
だが、心配なのはモーリーか。
「一旦、このお仕事から手を引いた方がいいんじゃないのか?」
「それは……そうかもしれないさ。でも、嫌だ」
頑なにモーリーは引こうとしなかった。
「なぜ?」
「ここしかないんだよ。私が働ける場所は。
それに、いまやらなきゃ。子供たちは……」
「…………」
あぁ、そうだよな。
家が無くなった人もいる。
食堂を必要としている子供もいるのは俺も重々承知だ。
だが、あんたが倒れちまったら。
「モーリーが倒れちゃったら。元も子もないと思うぞ」
「………」
黙ってしまったか。
胸が苦しいな。
でも仕方がない。
これしかないんだ。
今はこうゆう状況だけど。
きっと良くなる。
「少し考えさせて」
モーリーはそう言い放った。
まぁだが、俺は明日にはもう旅立つので。
モーリーの答えは、聞けなかった。
と、話しは以上だ。
最近あまり食堂の事を書けてなかったから。
残しておこうと思う。
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9月〇日
第五十一回目
執筆者、ケニー・ジャック