朝、朝日だ。
眩しい朝日が大きめの窓から差してくる。
それが目覚めの合図と言ってもいいのだろうか。
俺は特に苦戦する事なく起き上がり。
寝巻から普段着へ着替えた。
懐かしの廊下を歩き、そして使用人に挨拶する。
「おはよう」
「おはようございます。当主様」
「いいよその呼び名。なんだかむず痒い」
「分かりました。カール様と」
俺の名はカールだ。
少し前まで騎士団の宿舎で過ごしていたが。
ここに戻ってくると、宿舎に比べて恐ろしく豪華な家だと実感させられる。
食事の準備が出来ていると言う事なので。
俺はとりあえず、席へ座る。
「軽食です」
「ありがとう」
ここ最近の一日はこんな感じだ。
朝昼夜の飯を食べ、屋敷にある本を読み漁っている。
時々は外へ行き、息抜きで散歩や外食をしている。
別に不満ではない。
不満ではないが、昔に比べると刺激がないかな。
こんな穏やかな世界で平和を謳歌していていいのだろうかと。
俺の胸の中に、色褪せない闘志が言っている。
だが、俺は役を降りた。
もう俺は無職の、時代遅れの貴族だ。
この状態が嫌なわけじゃない。
ただ退屈過ぎて、何だか余計な考えが回ってしまう。
死神の再来からまぁまぁの月日がたったが。
死神の一件は、きっと、まだ終わっていない。
他の兄弟からは何も聞かされていないが。
別にそれは昔からなので良いとして。
俺以外の兄弟が、まだ死神と戦っているなら。
俺も剣を……握って。
「………」
あぁ。腕がないんだった。
俺が剣を握っていたあの右腕は、もうない。
剣を握るな、と言う事だろうか。
「……虚しいな」
――――。
「えっと、こんにちはです」
「こんにちは……だけど、どうして君がここに?」
見覚えのある少年だった。
名は、トニー・レイモン。
昔知り合いだった、ヨアン・レイモンの息子だ。
ヨアンはある問題を起こし、騎士をクビになった男。
だが、悪い人じゃなかった。
剣の才は無かったが、魔法は誰よりもうまかった記憶がある。
そんなヨアン・レイモンの子供が、一体この屋敷に何をしに来たのだろうか?
「友達が何か思い悩んでいる時って、どうすればいいと思います?」
「思い悩んでる?それは本人から聞いたのかい」
語ってくれたのは、案外普通の話題だった。
どうして俺なのかとは思うが、まぁいいだろう。
俺も退屈してたんだ。
「いいえ。でも、見れば分かるんです。親友だから」
「まぁ。本人から打ち明けてこないなら考える必要は無い。君が気にするべきじゃないと思う」
「……そうなんでしょうか?」
「親友だとしても。人との関わり方は、それでいいと思うよ」
「でも、その……なんだか、本人だけじゃ手に負えない事だと思うんです」
「と言うと?」
「何だか、あいついつもポーカーフェイスで笑ってるんですけど。心の奥底には何か悲しい事があると思うんです」
「……君が知らない親友が居ると?」
「はい」
そうだな。難しい。
心配で、思い悩んでいるのが目に見えてわかる。
そうゆう時、どうしたらいいか。
俺はどうしていたかな。
……ふっ。
ほっといてたな。ケニーみたいに。
ほっといて、どうせ何とかなるだろって思ってた。
結果、あいつは人生を数十年無駄にした。
そうだなぁ、あれはどうしたらよかったんだろうか。
話でも聞いてやれば良かったのだろうか。
……君には、後悔してほしくないな。
俺が助言するなら、こうだ。
「……君が心配なら、一度聞いてみるのが手だと思う」
「聞く?」
「そうだ。正直に正面から質問してみなさい。何思い悩んでんだって」
「………」
「そして、相手の出方を伺いなさい。喋ってくれたなら力になる。濁したらもうそれに触れない」
「……なるほど、分かりました!」
と、トニーは机の茶菓子を齧る。
心なしか。
曇っていた表情が笑った。
彼の周りにはあまり相談できる大人が居なかったのだろうか。
……そうだ。
「もしあれだったら。うちにお菓子を食べに来ないか?」
「え」
「うちに来て君の話を聞かせてくれ。ここは贅沢が出来るが、どこか虚しかったんだ」
「……」
知っているぞ。
先ほどから机に出された茶菓子。何度も食べているだろ。
気に入ったか。
やはり子供だな。可愛い子だ。
「……これからも、よろしくお願いいたします」
「ええ、よろしく。トニー・レイモン」
こうして、カール・ジャックとトニー・レイモンの。
不思議な友情が生まれた。