四十八話「死神」



「太古の昔、人族と魔族の戦争があったのは皆の者、周知の事実だろう?」


 王様が語りだす。

 さて、ケニー先生の簡単な歴史解説の時間だ。

 大昔、いつ頃の話かわ俺も詳しく知らねぇが。

 戦争があった。

 人間対魔族の、大戦争が。


 人間側は数の力で。

 魔族側は魔法の力で戦った。

 だが、どちらも引けを取ることなく。

 結局その戦争は長続きし、両者の痛み分けで幕を引いたのだ。

 ちょうど。俺が数か月前モールスにやった。

 土下座とやらだ。


「第一次魔界大戦争。その名前を聞いたことがない人間はいないはずだ」


 その通り。

 この世界の常識であり。

 人間側が魔法と言う技術を知った理由でもあるのだ。

 そう、元々魔法とは魔族側の技術であり。

 今はお互いの技術を分け合いながら暮らしている。


「死神。そやつはその時代から生きている魔族だ」

「魔族ぅ?」


 と、青髪の序列四位が口を挟んだ。


「どうしたモーザック」

「いやぁ、俺は別件で現地に居なかったが。他の部下の話を聞く限りだと、死神と言う奴は人型だと聞いているぞ」


 あぁ、そうなのか。

 この男、あの戦いには参加していなかった訳だ。


 あの戦い。死神が俺たちの街へ攻めてきたあの戦いだ。

 確かゾニーから聞いた話では、第一部隊カール兄さんの部隊と。

 第二部隊から第六部隊までが現地に来ていたらしい。

 もちろん、ヘルクとサリーの部隊もそうだ。

 その現場に、訳アリでモーザックと言う男は居なかったのか。


「そこが問題なんだよモーザック。奴は人に化けることが出来る」

「化けるぅ?そんなのアリかよ」

「現代の魔族達はある程度の能力で止まっているが。

 大昔、人族に殺意を向けていた魔族は様々な変化を遂げていたらしい」

「つうとあれか。今の魔族は弱いが。過去の魔族らは規格外の能力を持っていたと」

「その通りだ」


 確か魔族は、マナを吸収する機関が生まれた時からあり。

 それは魔族の感情などでマナが変化したりするらしいな。

 マナが変化し、規格外の強さを手に入れてた、とかなのだろうか?


「――死神。やつは当時、魔族側の幹部をしていた。

 当時の魔族は時間の経過と共に亡くなってしまったらしいが。死神だけは違った」


 太古の昔の戦争。

 当時の魔族側の幹部。

 要するに、その規格外の能力を手に入れた魔族が。

 死神の正体だと。


 あ?でもおかしいよな。

 他の魔族は時間の経過で寿命とか病気とかで死んでる筈なのに。

 どうして死神だけ?


「死神は、人間に取り付く事が可能なのだ」

「はぁ!?」

「取り付く……ふっ、なるほどな」


 青髪が激しく揺れ、同時に、納得したようにサザルの王様は微笑む。


 ――取り付く。

 死神は人間に取り付き、生きながらえた?

 なるほど……面白れぇ話だな。

 だけど、そんな事実。どうしてうちの王様が知ってたんだ?


「死神は『人間を恨んでいる人間』を探し、取り付き、何百年と言う月日を生きながらえている」

「……そんな事が、ありえるのですか?」


 今まで沈黙を貫いてきた。序列七位の少年カリスは小さく言う。

 確かに、信じられない事だ。

 今まで人間に取り付く魔族なんて聞いたことがないし、そんな事がありえ……。


「あ」

「ん。どうしたケニーくん。意見があるなら言いたまえ」


 俺の閃きに、優しく王様は反応する。

 あぁ、俺の名前覚えられてたんだ。

 なんつうか、王様に名前と顔を覚えてもらえるなんて。どこかむず痒いな。


 俺が立ち上がると、ゾニーが心配そうな目で見てきた。

 そうだろう。心配だろう。

 まぁ大丈夫、粗相のないようにするさ。


「た、多分これは現地に居た騎士も見ているので。報告書とかにあると思うのですが。

 死神はツノがありました。ぱっと見、人なんですが。頭に禍々しいツノが生えてて」

「そう。それだよ。それが死神の本体だ」


 な、なるほど。

 あれが本体、あれが死神なのか。

 確かに、そう考えると俺は一度取り付かれた人間を見ているという事なのか。


「死神かどぉかを見極める方法は、デコに生えたツノって事かよ。ケニー・ジャック」

「え、あぁ。そうだと思うぞ」


 わお、びっくりした。

 突然、序列四位のお方から名前で呼ばれるとは。

 くぅー!なんだか分からないが興奮するぜ。


「まとめるぞ」


 と、王様が喉を鳴らし全員に静寂を求める。

 そして語りだした。


「死神はかの戦争時の幹部であり。人間を恨んでいる人間に取り付き、転々としながら現代まで生き永らえた。

 やつはその人間と争っていた時代の魔族。つまり、人間を滅ぼそうとしていた時代の存在だ」


 数百年。

 人間を転々としながら生きていたのか。

 つまり。あの場で俺と会話してたのは、人間と言う訳だ。

 多分だが、人間は人間の意識がある。

 その意識に漬け込んで、その恨みに漬け込んで。

 力なき人間に、死神の力を授けているとしたら。


「次は、死神の目的についてだ」


 ごくり、と。

 唾を飲み込んでみる。

 これが本題だ。

 この内容次第で、俺らの人生が左右されると言っても過言じゃない。


「現状、死神の目的は不明だ。だが、我々で予測することは出来る」


 ありゃ。

 いやまぁそうですよね。

 死神の目的なんて、実際わかるわけない。

 突然現れて突然襲ってきたんだ。まだ情報が足りないわけだ。


「こちら側で、死神候補なる物を調べてきた」


 と、ここで語ってくれた王様の説明をざっくりと俺が語ろう。


 【死神は4年~9年の間、同じ人間の体に居座る事が出来る。】


 それを過ぎると、別の人間に乗り換えるそうなのだ。

 実は、各国で(主にグラネイシャとサザル)。度々ツノの生えた人間の目撃情報があったらしい。

 それを集計し、現れる周期などを調べたらしい。

 で、その結果。

 今年で今代の死神は、9年目らしい。

 つまりだ。

 新たな死神が、今年決まる。

 それがチャンスだと王様は言った。


「次の死神候補を探せば、未然に死神の生存のルートを消していけば。我々の勝ちだ」


 候補。と言っても、簡単ではない。

 そうだ。その候補が多すぎる。

 過去の俺も、多分候補になりえる存在だ。

 人間、意外と大勢の人間が人間を恨んでいる。

 だから、候補を絞ると言っても難しいと思っていた。


 だが。王様はある程度絞っている様だった。

 まず、死神になる人間には条件があると言った。


 その一つ、9歳から18歳の人間にしか取り付けない。

 精神が未熟な人間ほど、容易に入り込めるらしい。


 その二つ、死神が現れる地点には必ず魔物の動きがある。

 その為、数か月前から闇払いを集めていたと。

 図書館でゾニーが教えてくれた情報がここに繋がるとは。

 だから、魔物の活発的な動きを見つければそこに目星をつけられる。


 その三つ、現在死神が標的にしているのは魔法大国グラネイシャであり。

 ここを拠点に活動するなら、グラネイシャ内で見つけた方が手っ取り早いと言う事。


 まとめると。

・対象は9歳から18歳。

・次の候補者は魔物の動きが活発な地域。

・そして次の候補者はグラネイシャから出る。


 と言う事だ。

 流石王様だ。こうも絞れるとは驚きしかない。


 あ、あと補足だが。

 死神は魔物を操る能力があるらしい。 

 いやまぁそれはこれまでの話を追ってるお前らなら周知の事実だろうがな。



「まぁだが、あまり口を大にして言いたくはないが。うちの国も国民全員が裕福と言う訳じゃない」


 と、王様は呆れたように言う。

 その通りだ。

 俺の街でも、そうゆう光景はよく見る。

 弱いものが騙され、賢いものはコマを運ぶ。そうゆう縮図になっている。

 正直それは仕方がないと俺は思う。

 人間なんだ。汚い部分もある。


 だが、もう一つ、死神候補を絞る方法があるらしい。

 それは、王様の口からではなく。


「それって」


 少し背が小さく、子供らしい男。

 否、近衛騎士団、新団長ガーデン・ローガンが口を開いた。


「死神側からしたら、現時点での目的はおそらく魔法大国グラネイシャへの攻撃であり。

 しかしそれを可能にするのは一筋縄では行かないはずですよね?」

「……あぁ、そう簡単にやれないようにするのが近衛騎士団や序列達の仕事だがぁ。

 ガーデンは、何を言いたいのだろうか?」


 唐突の申し出に、王様も少し困ったように言う。


「なら、死神側もこちらの情報を欲しているはずです」

「……ん?」

「つまり。死神は情報を手に入れるために。

 ある程度情報を持っている人間を宿主に選ぶのではないでしょうか?」


 た、確かに!

 情報を持っている人間を宿主に選べば、そして有益な情報を手に入れられれば。

 死神側は圧倒的に優勢なわけだ。

 でも。

 そうゆう情報を知っている+9歳から18歳+人間を恨んでいるって。

 意外と限られるのでは?

 ……あぁ!それで絞れるのか!


「そうゆう考え方をするなら。失礼ながら、王様のご子息であるジーン様も宿主としては最適性です」

「っ……その通りじゃな。流石切れ者ガーデンだ。息子はワシが責任もって守る事にする」


 王様は少し驚いたような、ショックを受けたような顔で肯定した。


 先ほど玉座に座り、子供らしい一面を見せていたあのジーンと言う子供。

 あの子も、そうか。死神の宿主としては最適性なのかもしれない。

 人間を恨むというのは、難しい事ではない。

 人間を恨むように仕向けてしまえば簡単にそんな人間作れる。

 可能性はあるな。


「それならいいのです。兎にも角にも、これである程度候補は絞れると思うのですが……」

「一度表に出そう。エドワード。羽ペンを」


 そう言うと、エドワードと言われた。

 あ、さっき俺たちを席に案内してくれた執事服の人が。

 王様に紙と羽ペンを渡す。

 そして王様が、死神候補を改めて紙に書いていった。


 凄いな、この王様。

 貴族の内部情報に詳しい。

 つうか、貴族の子供の名前全部覚えているのか?



 ――【死神候補】――

 ジーン・グラネイシャ  10歳。男

 カシウス・ダリック 確か14歳。男

 イーソン・ベイカー 確か11歳。女

 カーソン・ベイカー 確か11歳。男

 クラシス・ソース  確か16歳。女



 すっげ。

 本当に覚えてるんだ。


「うる覚えだけでこのくらいだ。後で本格的に調べさせるが、絞られるのはグラネイシャ貴族の誰かと言う事」

「はっ。俺たちサザル王国側も、お前らの死神探しを手伝うよ。まぁ、協定を結んでいるしな」

「ガルク殿、そちらの国には関係ない事ですが。今一度」

「あぁ、グラネイシャが滅んでしまったら次は距離的にも近いうちの国だろう。手を組むよ」


 と、両者の王様が硬い握手を交わした。

 ひぇぇ、これはなんつうか、人生で二度もない場面を見ているぜ。


 と、今日の会議とやらはここまでだと。

 俺やゾニーのやることは今後特にないらしいが。

 ある程度情報が出た。

 きっと王様側も、今後俺たちに協力を求めるだろう。

 だって、一度死神相手に喧嘩売ったんだ。その度胸も、必要だろうしな。


「皆の者、この話は内密にし、各自何かがあったら連絡を怠らないでくれ」


 こうして、死神対策会議とやらは幕を閉じた。

 俺とゾニーは死神の秘密を知る人間となり。

 ゾニーと俺は、そのまま家に帰ったのだった。



――――。



 そしてその頃。

 雨が、降りしきっていた。

 今朝よりも酷くなった雨が、豪雨となり王都を襲っていた。

 雷も鳴っていた。

 そして――。


 アーロン・ジャックは。路地裏で『■体』を見つけた。



「――――――」



 雨が、鳴り響く――。




 余命まで【残り2■6日】