当日は雨。
王都の空は曇り空であり、どこか不穏な雰囲気を感じさせる空だった。
そんな中、俺はその日を迎えた。
「兄さん、時間だよ」
「正装って、なんだか胸の所が気持ち悪いなぁ」
「慣れるしかないよ」
黒い服装に、首が苦しいネクタイ。
流石に王様の前でいつもの服はだらしないと言う事で、ゾニーに選んでもらった服を着る。
首元が苦しいなぁ。
これが正装ってのか。
あの後。
サヤカもどうやら同様の夢を見ていたらしい。
俺が無理やり起こさなかったら、もしかしたら危なかったかもしれないな。
死神。
魔物を操れて、夢にも侵入できる。
俺一人だったら、終わってたなと実感する。
サヤカだって俺が居なきゃ危なかったと思うし、俺もマルが居なければ……。
死神の目的が分からないな。
俺とサヤカが狙われたと言う事は。
今回は前回の、街を破壊すると言う目的と違うわけだ。
俺とサヤカが狙われたわけ、正直予想しても分からない。
「兄さん時間」
「あいあい」
とりあえず、そこらへんも含めて今日話そう。
死神についての対策会議、つってたな。
王都側も何かしらの情報を持っているはずなんだ。
夢の事も含めて、すべて話そう。
……アルフレッド・グラネイシャ。
この国の、王。
――――。
サヤカとトニーは大魔法図書館へ向かうらしい。
あまり雨は降ってないし大丈夫だろうが、少しだけ心配だ。
風邪とかひかれたら……。
まぁ、その時はそのときか。
さて、俺たちは今。
「近衛騎士団、第十五部隊 : 隊長。ゾニー・ジャックです」
「ご苦労様です。話は伺っております。どうぞ中へ」
と、門に立っていた衛兵に言うと。
衛兵はゾニーと顔見知りなのか顔パスで門を開いてくれた。
王城の周りには水路が流れており。
その場に架けられた石橋を歩く。
門の中に入ると、そこは中庭?が広がっていた。
すげぇもんで、整えられた木々と施された銀色の装飾は思わず目が奪われそうになる。
きれいだ。
こんなに綺麗な場所は初めてだ。
流石、王様が居る建物だな。
ゾニーの案内で建物の中へ入る。
するとこれまた凄いもので、天井が高かった。
どこまでも高かった。
天井には天使みてぇな絵が描かれていて、でっけぇ金のシャンデリアがぶら下がってた。
正面玄関の目の前にある階段を上る。
階段に赤色のカーペントが引かれており。
上を歩くだけでどこかえらい人間の気分だ。
少しだけ胸を張って歩こうと思う。
「兄さん。あまり張り切らないでね」
「え?ばれた?」
「兄さんはどこか抜けてるんだから、わかりやすいよ」
そうだったのか。
つうことは、俺の奇行は意外と周囲の人間に筒抜けなのか。
なんてこったパンナコッタ。
こまったもんだぜ。
「そう言えば、ゾニーは一度来たことあるのか?」
「あるよ。隊長の任命式はここでやったしね」
「任命式?」
「新しく隊長になるときに王様から直々に、
王都のエンブレムが装飾されたアクセサリーを貰うんだ」
「アクセサリー?」
「ほら、今日はつけてきたこのピアス」
「うお、気づかなかった」
ゾニーの少しだけ長い髪の毛に隠れて、金色のピアスが耳からコンニチハする。
確かによく見るとこの王城の壁とかに描かれているエンブレムが書いてあるな。
そんなの貰えるのか。
光栄っつうかかっけぇな。
でも……。
「お前にピアスは似合いすぎだ」
ピアスの魔力って凄いよな。
魔法使い時の魔力とかじゃなく、なんて言えばいいのだろうか。
色気か?
「そうかな?」
「お前はイケメンなんだか、少し着飾った方がモテるぞ」
「……今度意識してみるよ」
あ、こいつナタリーの前でやる気だな。
くっそ、さっさとくっつけや。
お似合いなんだからさ。お前ら鈍感っつうか。
まぁいいけどさ。
「そういえば、サーラさんには会ったのか?」
と、俺はゾニーに聞いてみる。
「サーラ?」
「えっと、俺たちの前ではメルセラだっけか」
「メルセラって使用人のあの人か……!メルセラさんは今もあの屋敷にいるの?」
「今は居ないけど、元気そうだよ」
「そっか、良かったよ」
にっこりとイケメンスマイルが飛び出した。
そう言えば、メルセラとモールスもお似合いだよな。
実際あの時デートしてたっぽいし。
ああ、他の兄弟は、メルセラがいまモールスの所で働いているのを知らないのか。
モールスと最近一緒に飲んでないなぁ。
俺がサヤカと暮らすようになってから、すっかり酒を飲まなくなったからだ。
昔まで酒の味を定期的に思い出してたんだが。
今では、やっぱり子供がいるからかなぁって感じで飲もうとすら思わねぇ。
これも俺の変化ってわけか。
ま、少し寂しいし。
どこかで久しぶりに飲みに誘うか。
「ついたよ」
「お、この先か」
その扉を見た瞬間、ゾニーは気を引き締めるように言葉に力を入れた。
普通のドアだった。
木製の、普通の部屋の入口っぽいドアだ。
ただ、ゾニーはここと指をさす。
「開けるよ」
「……ちょっと待って」
「どうしたの?」
「いや、俺の服変な所ないよな?」
「ないと思うけど」
「なら良いんだ」
今から王様と会うと思うとどこか心配になっちまった。
まぁ特にアクセサリーをつけている訳でもないが。
せめて第一印象は良さげで行きたいからな。
「――――」
と、扉が開かれた。
すると、中にいたのは。
大き目の円形のテーブルに、数人のいかつい大人が並んでいた。
この国のお偉いさんなのだろう。
見慣れない服の人たちもいるなぁ。
あ、あれは魔族かな?肌色が緑だ。
ほへぇ、意外と色んな人が集合してるんだ。
すると、ふと俺の視線に移ったそいつが、目から離れなくなった。
「よくきた!」
そうだな、それを言葉で表すなら。
子供、だ。
子供、本当に子供だ。
円形のテーブルの一番奥、王様が座ってそうな金の玉座に尻を置いているのは。
小さな赤いマントを着こなし、地面に付いてない足を伸ばしている子供だったのだ。
そして、かわいらしい声で「よくきた!」と。
その子供が言った。
「ま、まさか」
ま、まさか……。
あの子が、この国の……!
「あ、すまないね。うちの子供が邪魔してるよ」
「え?あれ」
ふと、玉座の横からひっこりと出てきたのは。
灰色の髭を蓄え、強面なんだろうけど優しそうな声で。
「ジーン。お父さん今から大事な会議をするから」
「えー!僕ここにすわってたい」
「駄目だよ。ごめんね。また今度いっぱい座ろ?」
「むー!」
……俺は何を見せられているんだ。
強面の男が、あの子供に膝をついている。
何なら困ってる……。
どうやらその男は、子供にめっぽう弱い感じだった。
優しい父親なのだろう。
「えっとね」
俺の表情を見て、何かを察したゾニーが横目で教えてくれる。
「あのお爺さんが、アルフレッド・グラネイシャ。現王様」
「えーー!?あのじいさ……あのおひげ……あの方がアルフレッド・グラネイシャさんなの?」
「そうだよ。第23代目王様 アルフレッド・グラネイシャ本人さ」
「……その人が、なんだか子供に押し負けそうだけど」
「えっとね。あの人は親バカなんだ」
「おま、王様の前でそんな事言っていいのか?」
「グラネイシャ様は子供好きなんだ。だから、子供から嫌われるのを極端に恐れてる」
「王様かわいいかよ!てか話聞け!」
俺がそう突っ込むとともに。
部屋の奥から歩いてきた執事服の男性が話しかけてきて。
「ゾニー・ジャック、ケニー・ジャック様ですね。お待ちしておりました。お席へ案内します」
と、俺たちはその男に連れられ。
入口に近い席へと座った。
座ると同時に、俺の目の前には盃が置かれ。
「兄さん。この盃に向かって『ウォーター』と言ってみて」
「え?なんで?」
「いいからいいから」
「……ウォーター」
すると、盃の底から青い光が溢れてきて。
それは水へと変わった。
へぇ、すげぇ。
どんな原理なんだろう。
つうか、飲み物まで出してくれるなんて気が利くな。
……錬金術の類なのだろうか?
あまりうちの国では錬金術が進んでいないと聞くが。
もしかしたら、別の国からの輸入品とか?
世界って、案外広いな。
「こほん。さて、現時刻から。死神についての対策会議を始める」
先ほどのおじさんつうか、子供に甘かったその表情から一転。
神妙な面持ちとなり、ここに座っている人間で中心に立った。
流石王様と言う所か、カリスマ性があるな。
「さて、簡単な自己紹介からだ。
ワシの名はアルフレッド。第23代目、魔法大国グラネイシャの王と言う訳だ」
そこから、簡単ながら各自の自己紹介が行われた。
どうやらこの会議、物凄い著名人が集まっているそうで。
「王都・近衛騎士団。新団長である、ガーデン・ローガンだ」
と、少し背が小さく、子供のような人間が発言する。
え?本当に新団長さんなの?凄いな。
「えっとぉ、同じく騎士団、第二部隊隊長。
序列四位 : 剣士モーザックだ。長話は好かない。
俺の足りないお頭でも理解できるように話せ」
と、青髪で両足を机に乗せている男はそう言った。
序列四位?
確か、昔聞いたことあるな。
魔法大国グラネイシャは、国の勢力、すなわち力をその七人の序列と言うので他国にアピールしていると。
超簡単に言えば、最強ランキングみたいなものだ。
その四位……相当な強さなのだろう。
「はっ、『狂乱剣舞』の二つ名を持つ男モーザック。ここでも会えるとはな」
唐突に話に入ってきた男は、グラネイシャ様とやらに近い席に座ってる男だった。
「お前は誰だ」
「ふっ。東部サザル王国より参上した。ガルク・サザルだ。ガルクと呼べ」
顔が濃く長身の男が、この自己紹介を面倒くさそうにそう吐き捨てる。
どうやらそのガルクと言う男は、サザル王国の王様らしい。
なんと。他の国の王様までも集合しているとは……。
そんな中に混じってる俺は一体……。
「あぁ、サザルっとこの王様か。4年前は世話になったな」
と、全く物怖じしない様でモーザックと言う男は笑う。
序列四位……すげぇ男だな。
「同じくサザル王国から参りました。ムースと申します。
魔族ですが、これでも王族の側近であります」
と、肌色が緑の男が言う。
そうだったのか、ガルクの従者として、か。
すげぇな。
別に魔族自体はたまーに街で見るが、こんなにまじまじと近くにいるのはなんだか新鮮だ。
「えっと……序列七位。カリスです。
最下位なのでザコです。あまり力になりゃ……。噛んだ」
次は俺と対面の場所に座っているひ弱そうな少年だ。
少年?なのだろうか。
見た目や仕草は正直少年らしいが、肩書が。
序列七位とも言ってるんだから、正直よくわからないな。
「……あ、俺の番か」
やっべ、他の事考えてて何にも浮かんでこねぇ。
こうゆう自己紹介の場って、多分学校とかでやるんだろうが。
俺は貴族だからそうゆうのは知らねぇんだよ!
と、とにかく。
早くしゃべらなきゃ!!
「け、ケニー・ジャックだ。北部の貴族、ジャック家の次男だ」
「近衛騎士団、第十五部隊 : 隊長ゾニー・ジャックです」
俺たち二人は何とか自己紹介を終え。
そしていよいよ、本題に移った。
「では、死神についての対策会議を始める」
大きく口を開く王様、みんなが心してその話を、聞こうとする。
そして、明らかになる。
余命まで【残り206日】