あの日から大体二週間くらいたった。
あの後、各自復帰をしたり帰ったりで色々あり。
騎士ゾニー・ジャック改め。
王都・近衛騎士団、第十五部隊:隊長 ゾニー・ジャック。となった。
エマ姉さんはベイカー家の本家がある。
南部に位置するイエーツ国。正式名称イエーツ大帝国へ帰った。
元々、第十五部隊はヘルクの部隊だったが。ヘルクと一緒にその戦友は戦いの地に散ったらしい。
……ヘルクの墓を、今度聞こうと思う。
ついでに。新設であるので、新・十五部隊と呼称しようと思う。
「と言っても。当分はこの街にいるんだけどね」
「まてゾニー。流れ的に王都に帰るとかじゃないのか?」
と、街から家への帰り道で。
久しぶりに会ったゾニーから聞いた話だった。
「王様の命令でね。ある程度情を掛けてくれてるみたい。
あの方は優しいからね。今日からの任務は、再度危険が訪れる可能性があるこの街の警備だ」
「大体どのくらいこの街に居るんだ?」
「うーん。わかんない。完全に脅威が去ってからかな」
脅威。あぁ、そうか。
あの死神の目的は街の破壊。
結局その目的は果たされなかったけど、だからもう一度来る可能性があるのか。
その時はその時だな。
「カール兄さんは、父さんが息を引き取ったあの家に住むんだって」
あの家。
ジャック邸だ。
街の中にある。俺が引きこもっていたあの家。
最近は当主不在ではあったが、使用人は家に残っていた様だ。
そこにカール兄さんが住むと言う事は。
「カール兄さんが、ジャック家当主か」
「そうなるね。意外と歓迎されてたから、不安はないと思うよ」
「別に不安なわけじゃない」
「言いたいことはわかるよ。今の兄さんの精神状態は少し心配だ」
「…………」
「だから。僕達でカバーしようよ」
「あぁ、そうだな」
カール兄さんは、今の所安定している。
だけど、長年の重圧による疲れが今表に出ている状態だ。
心配。だ。
ちゃんと笑ってくれれば良いんだけど。
「そう言えば、ケイティは今日でこの街を出るらしいじゃん」
「そうだぞ。その為のごちそうを今買ってきたんだ」
「いいね」
「だから、今日で最後なんだよ」
「そうだね~」
「第六回!!ケイティ先生の魔法訓練!!」
「……なにそれ」
「ケイティの持ちネタ」
「メスゴリラだけだと思ってたよ」
「ビンタされるぞ」
――――。
「って事で!!」
と、両手を組んでケイティは叫ぶ。
ここは草原だ。
家からも街からも随分離れた、人気がない場所だ。
「第六回!!ケイティ先生のー!!」
「「魔法訓練ー!!!」」
「………」
サヤカと俺で、ノリノリと片腕を大きくあげる。
それを俺の横で見ながら、目を丸くしているゾニー。
「おい。どうしたゾニー、お前も叫べ」
「いや、現状に追いつけなくて」
「大丈夫だ。俺も最初は『ん!?!?!?!?』しか言えなかったから」
「第六回目にして完全に染まってる兄さんが僕は怖いよ」
そう。第六回。
サヤカのワガママ、と言うか、ケイティがやりたいと言う事で。
2日に一回はこの訓練をしていたのだ。
その結果かわからないが。
俺はあの掛け声を返すだけで友達が出来て肌がツルツルになり。
どこか誇らしい気持ちになる。
なんでか知らないがな。
「兄さん。最近肌荒れひどくない?」
「うるさいぞゾニー」
「えぇ。なんかごめん」
さて、今日が最後の魔法訓練と言うわけで。
「今まで学習した全部を、ここで見せてもらうよ!!」
「はい!!」
と、意気揚々とサヤカは返事をする。
実は俺も、ここ何回かこの魔法訓練を見れていなかったから。
現在のサヤカの実力を知らなかったりする。
神級魔法使いが教えたサヤカの実力。
気になるな。
「………」
と言うか、この二週間くらいで大きく変わるものなのだろうか。
魔法の威力とか、魔力の使い方とかを学んでいたのだろうか。
どんな結果になるか、楽しみではあるな。
「始め!」
その合図で、サヤカは杖を構えた。
「――世界のマナよ、無垢な聖水を生み出し、絶対零度の力を与え給え」
ふわっと。サヤカの服が揺れる。
音を立てて、青い光を発しながら。
サヤカの杖の先に、大きい水の雫が宙に生み出される。
ぽくぽくと音を立てながら、それは白い湯気の様な物を漂わせながら浮遊していた。
早速俺の知らない魔法だ。
すると、すかさず。
「――世界のマナよ、業火な炎を立て、赫怒の発色を零度に注ぎ給え。
――その際生まれるエネルギーを大気に流し、空を、紅い物に変え給え!!」
ぐるると、赤いドロドロとした物が。先程生成した浮遊体の上の発生する。
そして、最後まで詠唱を言い終わると共に。
「――【上級連鎖魔法】エクスプロージョン」
――刹那、巨大な重低音と共にそれらは融合し。
巨大なエネルギーの塊は、漏れ出しそうなその勢いに張り千切れそうな音を出す。
例えるなら、水が入った風船が割れそうな感覚だ。
「すごいっ!」
「あの子にこんな魔法が使えるとは!?」
ケイティも大興奮。
ゾニーはその勢いに今はない剣に手を伸ばそうとしたくらいだ。
「はああ!!」
すると、サヤカはその魔法を天空に打ち上げた。
音もなく、残像も無く空へ打ち上げられたそれは。
――無音のまま、空を赤黒く染める程の大爆発を見せた。
無音で起こったその有様に、思わず耳がおかしくなったのでは無いかと勘違いをした。
「……すっげ」
「ふぅ……」
だけどどうやらそうではなく。
その魔法が、無音だっただけだった。
それほど高く打ち上げられたのか、それとも元々そうゆう魔法なのかは知らないけど。
「高火力で魔力効率もいい。神級とまでは行かないけど、神級の一個手前の超魔法だよ」
「すげぇなサヤカ!必殺技ってところか?」
と、俺はサヤカに近づく。
だが。サヤカは無言のまま頭を横に振った。
「ケイティさん。評価は?」
「上出来だね。土地も吹っ飛ばせる&当たらなくても戦況は変えることは可能」
「なるほど……」
「でも、戦うならもう一つくらいほしいかな」
「わかっています。まだありますよ」
と、サヤカはもう一度杖を構えた。
「ご主人さま。離れていてください」
「あ、うん」
「すぅー」
ゆっくりと息を吸い。サヤカは息を吐いた。
「必殺を必殺としない」
「え?」
「それが私の師匠の教え」
とは、横に立ってきたケイティの言葉だ。
「必殺を打って。はいお終いじゃ、もう勝てないよ」
「…………」
「相手は魔法の対策もするし、防御も勿論する。
その一つの必殺に全てかけるのは正直賢くない。
だから必殺技を必殺としず、ただの一撃とする。
表現が正しいか分からないけど、要は全部を必殺技級の威力にするってこと。
何を必殺とするかは、その相手の出方によるけど。
その場の必殺、その場の最適解を見つけるのが大切。
一撃一撃の重みを理解して、その特性を理解する。
一番大事なのは威力じゃない、その攻撃についてくる副効果なんだよ」
要は、その場にあった必殺。
相手を観察し弱点を見極める訓練をしていたと言うわけか。
……色々考えた結果、行きつく先は脳筋という事か。
「……つまり、この数週間で教えてたのは?」
「一撃必殺ではなく、その状況にあった必殺級の技を色々教えてた」
「お前、頭いいな」
まあゴリラだもんな。脳筋になるよな。
「これでも神級だよ?舐めてもらっちゃぁ困るね」
「ゴリラなのになあッぶん」
「私語を慎みましょうね男性諸君」
ギロっと、俺を殴った女はゾニーに視線を向けけた。
するとゾニーも何か心当たりがあったのかビクッと震え。
ブンブンと何度も頭を横に降っていた。
裏切り者!!
と、そこでサヤカは色んな魔法を見せ、大体4回ほど魔法を使った段階で。
「よし。これくらい覚えれば、魔物に遭遇しても時間は稼げるね」
「あ、ありがとう……ございます」
「魔物の核を潰すのは一端の冒険者でも不可能だから。そこは実戦の経験値次第かな」
「…………」
「でも、サヤカくんの魔法は。十分なくらいの戦力になる」
「!!」
サヤカの顔に花が咲いた。
嬉しそうに、そう歯を噛みしめる。
「魔物の核を壊すコツは。簡単に言うなら、全身を真っ二つ切れば楽だよ」
とはケイティの言だ。
どこか誇らしそうに、自慢気にそう言う。
「おま。そこは力技じゃなくってさ」
そうだぞ。流石にそこはちゃんと考えた方が。
「いや、意外と常識だよ兄さん」
「え?そうなのか?」
俺が冗談っぽくそう言うと、意外にもゾニーが反応した。
「魔物の核は硬いし見つけられない。でも核以外は別に固くないんだ。
騎士の剣なら普通に体を切れる。
ケイティ達が駆けつけた時も魔物を真っ二つにしてから、
次の段階で核を狙ってた」
思えば確かにそんな感じだった気がする……。
「た、確かに。無駄に色々真っ二つにしてんなって思ってたわ」
「それに、真っ二つにすることで核を見つけやすくなる。
核は赤い小さな球で、魔物の肌は黒色。
だから極論、体を真っ二つにしたほうが核を壊しやすいんだ」
脳筋二号、爆誕だ。
まあただマジで脳筋がこの世界の摂理かもしれん。
俺も心に脳筋を宿しておこうと思う。
「なるほど……現役の意見はちげぇな」
「……ま、まぁね」
意外と大雑把な説明だが、理解は出来る。
だが、魔物を真っ二つにするのも俺たちには難しいと思ってた。
だけど今のサヤカなら。
……つうか。
「俺も剣をやってみるか」
「……え?」
「なに言ってるのお兄ちゃん」
え、とゾニーは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし。
同時にケイティはなんだか呆れたようにそう言う。
ん、そんな変なことを言ったか?
「と言うか、最初から俺も強くなればいい話であって、
魔物を切るくらいの剣技を身につければ」
「ご、ご主人さま?」
「どうしたサヤカ」
「いや……なんか、その」
「……?」
「……いえ。なんでもありません」
「お、おう。そうか」
何だか歯切れが悪いな。
いや、でもそう簡単に剣を教われるものなのだろうか?
剣を習ってモノにするまでそれほどの期間がいる筈で、幼少期に少しだけ握ったことはあるがそれは大昔だ。大丈夫だろうか……。
「…………」
あ、だめだだめ。こう後先考えて面倒くさいってなるのが俺のいつもの癖だ。
こういうのは勢いが大事であって。
「ゾニー。俺に剣を教えてくれ」
「……いいけど。兄さんは」
「サヤカの手伝いもしたいし。あの死神がいつまた攻めてくるかも分からないんだ」
「……うん」
「一年以内で出来る最低限でいい。
魔物相手に即死しないレベルになれれば、それで俺は満足だ」
「………」
ゾニーはその場で考えた。
多分、俺の寿命だとか、他の要因でだろう。
一応だが兄妹全員に言ってある。『サヤカは知らないと』
だからゾニーは言葉を詰まらせていた。
それに、いずれ死ぬ相手を弟子にするのは。
師匠側も複雑な気持ちになるのだろう。
「……」
すると、先に言葉を発したのは。
「ご主人さまも戦ってくれるんですか!!」
突然目の色を変えて、そう叫んだのはサヤカだった。
その言葉に、ゾニーは選択を余儀なくされた。
「……分かった。協力するよ」
と言う事で。俺はその日からゾニーに剣を教わることになった。
でも最初から剣を持たせては上げられないらしい。
明日から朝一でジョギング!筋トレコースが決定して。
勢いでお願いしてよかったなと言う安堵と、地獄が始まる覚悟を同時に済ませた。
せめて隣に立ちたいと、そう思った。
そしてその日の夜。ケイティと別れた後。
家に、手紙が届いた。
『三日後、王都にある下記に記載した喫茶店で話があります。
エマ・ J ・ベイカー』
余命まで【残り238日】