時間的には、もう昼時をすぎた頃だろう。
俺たちは杖を構え、最低限の防具を着て。
その街の入口を、じっくりと見ていた。
すると、
『これから、街に侵入した魔物の一斉討伐作戦を開始する!!!』
そう通信用の魔石に声が響く。
既に配置についた俺達の部隊。
俺、ゾニー、魔法使いのお姉さん二人、騎士の一人で構成されている。
俺は魔法使い兼道案内であり。
ゾニーは騎士として剣を握っていた。
いかつい見た目でかっこいいな。
あんな感じの服、俺も貰っとけばよかった。
『――進め!』
「はあああああ――ッッ!!!」
各地からそんな雄叫びが聞こえる。
その声とともに、地鳴りがした。
その地鳴りは、街を囲んでいる七部隊が全て走り出した事によって生まれたものだった。
ドドドと街の中に響き、そこから俺達の部隊も街に入った。
「中央広場の位置は?」
「ここをまっすぐ行って、3つ目の角を右」
「了解!!!」
なんだろうか、このむず痒い感じ。
初めての部隊移動だからか、なんだか新鮮で面白いな。
でも、ワクワクするのも結構だが、仕事に集中しなければ。
「――ガルルル!!」
黒い威嚇の声が耳をくすぐる。
本でしか見たことねぇが、やっぱ見た目はいかついな。
まずはここ。
広場に行く前に、この小さな路地裏に捕獲されている魔物を動かすのが俺たちの仕事だ。
そしてこの作戦。相当な技術が必要だ。
一斉に中央広場に集合させ。
魔物を全員結界に入れなければいけない。
つまり、一体でも到着が遅れたら大惨事が起きる。
広場で数匹は魔法で抑えられるだろうが。
時間経過でどんどんと厳しくなっていくだろう。
「配置に付け、結界を解除したら僕が一撃を」
そう言い、ゾニーは魔物に近づく。
「ナタリー。結界を解け」
「わかりました」
そう言い、隣に立っていた少女は杖を取り出す。
ナタリーとは、俺と同じ枠である魔法使いの金髪美少女だ。
見た目は修道女の様な服装だが、身長は俺より小さく。
外見が少し若めだから、多分年下だ。
「――っ」
「ガアアアア!!!」
「せいやぁあ!!!」
一瞬のうちに、魔物が解き放たれた。
だが、すぐさま一撃をゾニーが入れる。
鋭い剣閃が魔物の喉を貫き、魔物が白い目をギロリと向けてくる。
「ルートの誘導を頼む」
「任せとけ」
ゾニーともうひとりの騎士が魔物の注意を引きつけ。
後ろに居る俺、ナタリーとエミリーと言う魔法使いの少女達が被害を抑える為に魔法を使う。
俺はその道案内だ。
本来なら俺はいらないらしいが、この魔物が捕獲されていたこの場所は路地裏で道が複雑だ。
だから、道に詳しい俺が居たほうがいいらしい。
「こっちまで誘導してくれ」
「――【魔法】ウォーター・ボール!!」
「――【魔法】煙弾」
「おらぁ!」
良い連携だ。
エミリーと言った赤毛の少女が青い
ナタリーは魔物の頭上に水を放ち、魔物の五感を狂わせる。
ゾニーと騎士は魔物の攻撃を避けつつ、注目が別に行かないように定期的に攻撃をする。
「2つ目の分かれ道を超えた。次の角で右に曲がるぞ」
「わかった!」
巨体な体が徐々に移動する。
ゆっくりでいい。
焦りは禁物だ。
息を整えて、俺は正確な指示をする。
目を見て、杖を構えて、足並みを揃えるんだ。
「曲がるぞ!!」
「了解。ここで一旦止める」
ゾニーが剣を構え、もうひとりの騎士が魔物への攻撃をやめる。
エミリーとナタリーも一度杖を構えるのをやめ。
少女達は曲がった場所に先に移動する。
「ガアアアアアアアアアア!!!!」
魔物は大きく口を開けて。道を曲がった。
全員がゆっくりと誘導したい先へ移動し、一時的に攻撃をやめることによって魔物の自由を与え。
その一瞬で魔物は曲がった先に居る俺たちに気を向け襲いかかろうとする。
それを利用した作戦だ。
「うまくいくとはな……」
「ケニーさんの指示がうまいからですよ」
とは、ナタリーの言だ。
彼女は優しくそう言うと、もう一度詠唱を再開した。
こんな感じの作業を続けながら。
何度か角を曲がり、最終的に中央広場が出てきた。
俺の労働などは無いが、一応出来ることを尽くしたつもりだ。
他の
「ゆっくりだ!!」
「くッ!」
すでに中央広場には4体の魔物が集結していた。
大きめの結界が展開されているので、その近くまで魔物を誘導する。
そして、魔物を怯ませるほどの強力な一撃とともに魔物から離れ、その瞬間にその魔物を結界に閉じ込めるのだ。
俺たちが離れると共に、ゾニーは強く足を踏みしめた。
腕に力を入れて、その瞬間、剣に魔力が入ったように黒く光り輝いてから。
「――【剣技】忌避終劇の乱」
黒い斬撃が魔物の首を堕とす。
思わず息を呑む光景に、俺は魔物が死んだのではないかと目を凝らした。
だが、核は小さく硬いらしく、そんな簡単には切れないのだそうだ。
首が落ちると共に、魔物の黒い返り血がその場に広がった。
「結界を――ッ!!」
「世界のマナよ、人界に降りし悪魔の生物を閉じ込め給え」
ナタリーさんの早口な詠唱と共に、魔物は結界内に閉じ込められた。
ほっ、と肩の力が抜けると共に。
ゾニーが近づいてきて。
「これで僕達の仕事は終わりだ」
「お前、すごいな」
「何いってんのさ、これくらい出来なきゃ騎士にはなれないよ」
らしいが、俺には圧倒的すぎたぞ。
久しぶりに来た中央広場は魔物が閉じ込められており。
小洒落た石の道を歩くと、建物の影で様子を見ている人間たちが居たりした。
一応避難してくれ的な事は言ってるらしいが、まだ人は残っているのか。
ん、なんだあの人達。
黒色のローブを着て、この噴水周りを囲むように立っている集団が居た。
何かブツブツと言ってるように見えるが、あれは一体……?
――――ッ!
「……びっくりした」
突然だが、俺から見て直線上にある建物が崩壊した。
どうやら魔物誘導が上手く行かなかったようだ。
流石に被害は無し!!を目指すのは難しいと思う。
すぐに広場に居た騎士や魔法使いが助けに向かい、その魔物は結界に閉じ込められた。
「また壊してしまったなぁ……」
「うお、カール兄さん」
「やはり魔物の誘導は難しいな。
突然おかしな方向に注目を向けたりするし、予測できない行動を制御するのは一苦労だ」
「……まぁそうだよね。あまり壊さないでほしいけど。仕方がな……」
ん、待てよ。
色々流されてここに居るけど。
本来の目的、俺、忘れてね?
「ん?どうしたケニ……」
「――そう言えば!!この街に残ってる俺の子供が居るんだった!!」
違うぞ、忘れていたわけじゃない。
新たな体験に胸をワクワクさせ、期待と興奮を胸に抱いていたわけじゃないんだ!!
ただ、ただただただただ。
俺は。こんな急なイベントに驚きすぎて色々頭が回っていないんだ。
実際そうだ。言い訳じゃない。
「さ、流石に避難してるんじゃないのか?」
とは、カール兄さんの言だ。
「あの子なら戦うぞ、探したらいるかも知れない」
サヤカやトニーなら、魔法を使って魔物と戦っていると思う。
あいつならやりかねんな。
怪我とかしてなければいいが、あいつらの事だしひょっこり帰ってきそうだ。
でも、どこに居るのだろうか。
会いたいな。
「そう言えば。先程、魔物捕獲に協力したと言う子供たちが居たが」
「え、どこにいるんだ?」
「少し離れた地点にある仮拠点だ。今は行かないほうがいい、魔物の誘導に巻き込まれるぞ」
「……そうだな、そうするよ」
無事ならいい。
別にサヤカでも正直大丈夫だろって思うけど。
トニーもついてるんだ。強い魔法使いが二人いるんだから多分大丈夫だろう。
あ、でも他の人間は大丈夫かな。
モーリー食堂は建物が好きだから壊れてたら普通にショックだ。
モーリーさんも同じ年齢だからか死んでほしくないし、死んでしまったらあのロンドンが火を吹きそうだ。
モールスも最近。色々頑張ってそうだからな。
あ、そう言えばモールスとモーリーってなんで『モ』から始まるんだ。
頭の中でごっちゃになりそうだ。
サヤカもサーラも『サ』から始まるよな。
これはどうゆうことだろうか、全く、そんな名前を付けたやつは何ていう浅はかさなんだか。
誤字で喋ってるキャラが誰だかわからなくなりそうだ。
んったく。
「おいケニー、そろそろだぞ」
「……あれで8体目か、あの周りに立ってる黒いローブの人たちが」
「そうだ、神級の候補生達だよ。王都で修行してる、上を目指す魔法使いたちだ」
神級。
初級中級上級と続く魔法のレベルだが。
それを超越し。
人生をほとんど掛けて勉強しなければ習得できない神技。
それが神級と呼ばれる魔法だ。
神級の取得は難しく。
でも希少で強力な存在だからか。
王都の王城に存在する特別な学校などで教えているらしい。
学校か、貴族だから行ってなかったが。
まぁ、興味はあったな。
だが、学業のレベルも高く。
全てを魔法の上達に費やす学校なんて本当にあると知った時は驚いた。
「若いヤツも居れば、老けてる人も居るんだな」
「候補生に年齢は関係ない。みんな魔法の天才児だ。神級では無いけど、神級に近い魔法を使える」
「そう言えば、エマ姉さんとケイティもその候補生だったよな」
「もうあいつらは卒業したぞ」
「俺、そこらへんを知らないんだよな。引きこもってたし」
「二人はもう立派な『神級魔法使い』だよ」
「え、取得して卒業したのか……すげぇな、知らなかった」
神級は少なくとも十数年の時を魔法に費やさなければ取得できないと言われる神技だ。
……あ?
俺の記憶が正しければ、エマ姉さんがゾニーの一個上の35歳で。
ケイティは……25歳だよな。
うちって意外と、魔法の天才が多いのかもしれない。
自画自賛じゃないぞ。
そんなこんな話していると、9体目が近づいてきていると報告が入った。
だが、報告によると、不覚を取った騎士が一名負傷し、陣形が崩れているらしい。
そういう報告があったからか、中央広場にてすぐ助けられるように騎士たちに緊迫が走った。
だけど、それはすぐに消えた。
「――【禁忌】黒死波動」
その詠唱と共に、建物をぶっ壊しながら黒い魔物が転がってきた。
何事かと目を凝らす。
すると、知ってる顔と共に、
「ちょっとロンドンさん!!」
「なんだぁ?」
「街をあまり壊しちゃダメですよ。出来るだけ壊さず、被害は最小限に」
「あー、そうだな。すまね」
茶髪の筋肉だるまと喋っている小さな子供。
知っている顔だった。
知っている声色だった。
白い髪を持つ、魔法使いだった。
「サヤ――ッ」
「――【魔法】結界!!!」
俺がサヤカと言い終わる前に、最後の魔物が結界内に閉じ込められた。
すると、刹那、空気が一変した。
『――我らに加護を与え、その名を轟かせし王よ。
――我らの存在を脅かし、
――無慈悲に爪を立てる獣達に。
――神の導きを与えたもう』
黒いローブを着ている候補生が同時に詠唱をする。
すると中央広場の地面に何やら模様が書き出され。
巨大な魔法陣が広場を包んだと思うと。
「ケニー!!離れろ!!」
咄嗟に、カールからそう言われながら手を引かれた。
どうやら俺は、魔法陣の上に立っていたようだ。
『――【神技】ロンギヌスの槍』
重い空気がその場を支配した。
黒い光が魔法陣から漏れ出し、それは魔物を閉じ込めていた結界を包むと。
――瞬間、中央広場は消え去った。
「………」
文字通り。消え去ったのだ。
さっきまで立っていた場所が更地になっており。
凶暴な魔物の影は跡形もなく消え去っていた。
静寂がその場を支配した。
そして、数秒後に、カールが叫んだ。
「作戦は、成功だ」
「うおおおおお」と言う雄叫びと共に、その場所は勝利の活気に包まれた。
作戦成功。上手く行ったのだ。
全てが片付いたのだ。
肩の力が抜けた。
それと同時に、なんだかドッと足がふらつき、その場に膝を付けた。
「ケニー?」
「大丈夫だ。安心しただけ」
サヤカも目の前に居て、魔物も消え去った。
いつも通りとは行かないが、魔物による陰気さは消えていた。
その事に、ただ安堵したのだ。
俺は多分、心の底で不安だった。
だから不安が消えていったその瞬間。
不思議と微笑みが止められない程の嬉しさを覚えたのだ。
だが、これでは終わらなかった。
余命まで【残り286日】