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「だから、いいんすよって」
首府の、改装と改築中の駅の改札の前で、一組の男女が口論になっていた。とは言え、それは端から見たら、痴話喧嘩程度にしか見えない。男の方は、大きな荷物を抱えている。
「いや、悪いと思ってるわ。でも、どうしても、お願いしたいの」
「レベカさん混乱してるよ」
「してないわよ」
「だから、レベカさんの頼みだったら、俺は行きますって」
「あたしの頼みだから、ってのは、問題があるのよ。あくまで、番組の」
「でも知りたいのは、レベカさんでしょ」
ゾフィーはむ、と口を閉じた。
「前首相の息子が現在どうなってるか、ってドキュメンタリーを組もう、って言ったところで、結局はあなたが知りたいんでしょ?」
「そうよ。あたしが知りたいのよ。だから何とでも言ってるんじゃないの。だからわざわざそんなことのために君を飛ばすのは、悪いかな、と」
「理屈になっていないってば、レベカさん」
ふう、とリルは頭を抱えた。