2月28日、テレビを見ていると感染者が増えている、という話が頻繁に出るようになった。絶対的に人口が多い東京は当然だが、北海道も増えている。海外の感染者の増加も懸念されるような状況になっている。連日の報道は私たちの話題にもなり、感染症に対する危機意識は高まっている。これまであまり意識していなかったスタッフの間でも話題になっており、ちょっと前に私が話していた心配を現実のものとして受け止めているようだ。
そのようなスタッフの変化については私も美津子も共に感じている。そしていち早くその防止策としてやっていることを理解するようになっていた。
そして、その感染防止の具体策としてマスクの着用をテレビでも奨めることから、街中を歩く時だけでなく、店内でしていてもあまり違和感が無くなっていた。
もちろん、来店する人の場合、飲食時には外すことになるが、来店時にはきちんと着用している。店頭に置いてあるアルコール消毒液を使用する人もほとんどだ。テレビのアナウンス効果だと思われるが、感染が防止できればそれで良い。
そうなると、今度は今まで何とか買えていたマスクや薬用石鹸、アルコール消毒液などがほとんど薬局で買えなくなっている。
その状況を見た時、備蓄のつもりで購入していたことが幸いした。飲食店である以上、衛生環境には気を遣う。今回の場合、食中毒の場合とは異なる感染経路になるため、対応も異なる。マスクは必須だが、使い捨てのために大量に必要だ。ましてや店舗用となると家庭用とは異なる枚数が必要で、その着用の有無は店の信用にも関わる。改めて事前の準備ができていて良かったと思われることになったが、この点、改めてスタッフからの信頼感をアップすることになった。
開店前の準備の際、北海道の感染者のことが話題になった。最近、その増加のことがテレビで盛んに報道されているからだ。
それは国内だけでなく海外でも増加傾向が見られる。日本の場合、その傾向が見られるのが北海道だ。そして、いまだよく分からないウイルスについてフェイクかもしれない情報も含め、多数飛び交っている。北海道では2月18日から急増しているという話が出ている。
スタッフもいろいろな考えを持っており、最初の頃は軽く考えていた人もいた。大学生のアルバイトでの場合、普段から健康に自信を持っている。だから最初の頃は軽く考えていたが、状況が変わってくると逆に数字の変化を心配している。もし感染したら、ということを思うようになったのだ。
「店長、今、コロナの感染が広がっているようですね。まだ日本では中国のような数字ではないけれど、韓国も少しずつ数字が大きくなっているじゃないですか。北海道も増えているっていうし、日本、大丈夫ですかね」
心配そうに私に尋ねてくるが、聞かれても分かるわけはない。おそらく今は、専門家でも明確に答えられないだろう。
「日本には専門家がたくさんいるし、何とかしてくれるだろう。でも、自分の身は自分で守らなくてはならないし、俺がちょっと前、マスクやアルコール消毒液を持ってきた気持ち、分かるだろう?」
私はそのアルバイトに目を見ながら答えた。
「はい、あの時は軽く受け流して済みませんでした」
少し照れ臭そうに返事した。
「じゃあ、今日も手洗い・うがいをきちんとして仕事頑張ろう」
私はそういって背中を軽く叩き、仕事を促した。