私のその日、美津子と同様、心身ともに快調で、仕事も何の問題もなくこなせた。
いつもの時間に帰ると、美津子がちょっと先に着いていた。
「ただいま」
一昨日とは逆で、この日は私が帰宅の挨拶をした。そして、私の顔を見るなり言った。
「あら、今日はいつもよりも良い表情ね。やっぱり午前中の整体が良かったのかしら?」
「そう? 良い表情って、もしかしたら惚れ直した?」
「えっ? 違うわよ。これまでは帰ってくると、疲れたような顔をしていた時があったじゃない。今日はそんな顔じゃないし、それがいつもと違った感じで・・・」
美津子はちょっと照れ臭そうに言った。私は自然にふるまっていたつもりだが、客観的に観るといつもと違っていたようで、雰囲気にも現われていたのだろう。
その時、一昨日のことを思い出した。美津子が施術を受けた日、やはり表情が違っていた。話によると、いつもよりも忙しかったようだが、そんな感じは全くなく、むしろ元気に見えていたのだ。美津子の言葉からそのことを思い出した。
「やっぱり身体を整えるって良いんだなあ。お互い、いつもと違うように見えたということは、やっぱり疲れは溜めないようにということなんだね。今までは思い出したような感じで行っていたけれど、これからはもう少し定期的に通うようにしようか。俺たちもだんだん身体に気を付けないといけない年齢になっていくんだし、自営というのは身体が資本だからな」
私は感慨深げに言った。言いながらいつもと今日を比べると、同じように仕事したのに主観的にも疲れをあまり感じていない。もう少し仕事をしても大丈夫なような気がしている。私はそのことを美津子にも言った。
「私も一昨日のことだけどまだ効果が残っているみたい。これまでは忙しかったりすれば夜、腰が重たかったけれど、今はそんな感じじゃないから」
私たちは改めて一昨日と今日、施術を受けて良かったと実感していたのだ。
「でも、昔行っていたところは次の日、揉み返しが起こったこともあったじゃない」
美津子が思い出したように言った。
「そうそう、そういうこともあったよね。ずいぶん固くなっているから力を入れて強くやらないと、と言いながらやられて、途中でやめてくれと言いそうになったこともあったよ」
「あら、あなたもそうだったの? 私は女だからそう感じていたのかと思っていたわ」
これまでこういう話はしたことはなかったが、改めて一口に整体と言ってもいろいろあるということを感じていた。
「でも、今は良い先生を見つけられて良かったわね。痛いだけの整体って、いつか身体が壊されそうな感じがしていたし・・・」
奥田の店に通うようになって初めて感じたことだったが、優しい整体というのがあり、それがこんなに効果的ということを改めて理解できたのは比較できたからであり、そういう意味では今までの経験も悪くはなかった、と思うようにした。
「ただ、奥田先生のところも、身体の表面を擦るだけといった感じじゃないよね。しっかり奥まで圧を感じるし、だけど力んでいるような感じがしない。そういうのが技術ということなんだろうね」
この日、こんな感じの話が続き、いつものようにビールを飲みながらとはならなかったが、お互いに気分が良かったのか、リビングでそれなりの時間が過ぎていた。何気なく見た壁の時計の針がいつの間にか進んでおり、明日もあるのでこのまま休むことにした。