その2日後、私は奥田の整体院にいた。
「先日は妻がお世話になりました」
まず私は奥田にお礼を言った。
「あの日、結構店は忙しかったようですが、午前中に先生のところに伺っていたので、疲れを感じなかったと言っていました。ありがとうございました」
私は美津子から聞いていた通りの話をした。
「そうですか、それは良かった。それで今日、ご主人のほうは何か気になるところはありますか?」
いつもと同じように奥田は私に尋ねた。
ここでは毎回、何かしらの異常はないか質問がある。メインの主訴はあっても、前回から今回の間にいつもと違う出来事があり、それが今日の問題になっている可能性があるということから、必ず問診からスタートするのだ。時には世間話的な感じになることもあるが、そこから得られた情報で施術の際に流れが変わることがあると聞いている。だから、施術前の話も、一見雑談的に見えるが、自然に話を聞き出すための工夫らしい。
この日、私はたまたまテレビで見ていた新型コロナウイルスの話をした。
「先生、今テレビを見ると、例の感染症の話が出ていますよね」
「そうですね。今後どうなっていくか、心配ですよね。私たちは医者ではないし、手技療法ですので感染症には何もできませんが、疲れて体力を奪われないようなお手伝いができればと思っています」
私はこの時、整体の仕事というのはそういうお役に立てるものなのか、ということを感じた。同時に、今自分がやっている仕事は、そういう時どういったお役に立てるのか、ということを考えた。
「雨宮さん、今、自分の仕事はどうなんだろう、と考えませんでした?」
私は奥田の言葉に驚いた。何も言っていないのに、なぜ私が考えたことが分かったのだろう、と思ったのだ。
そのことを察した奥田が言った。
「もしかすると今の私の話を不思議に思われたかもしれませんが、癒しの仕事というのはクライアントの方の心情を推し量ることが要求されます。話の流れから、また、雨宮さんとのお付き合いもそれなりになっているので、性格などから何となく読めることがあるんですよ」
奥田は自然にそう言ったが、それも長年の経験からくるものだろうか、と思った。私もたまにだが、メニューのオーダーの予測が何となく当たることがある。それは常連客の好みがいつの間にか頭に入っているため、ということが理由だが、当たった時には少しテンションが上がる。経験を積むことが意外なところに波及するという経験は、実は私もしていたということを改めて気付かされた。
「それで、今日の調子ですが・・・」
話が横道に逸れてしまったので、私は本日気になるところということで、肩や上肢の調子について具体的な様子を告げた。仕事でフライパンを振ったりすることが続いたので、このところちょっと疲れ気味だったのだ。