予定の施術が終わり、美津子は整体院を出た。そして私に電話をかけてきた。
「今終わったので、これからお店に行きます。気持ち良かったよ。身体も軽くなったし、今日は頑張れそう。明後日、あなたも身体が軽くなるわよ、きっと」
美津子の声は大変明るく弾んでいた。やはり体調が好転すると気分も変わるのだ。私も明後日の施術が楽しみになっていた。
30分後、美津子は店に着いた。
「おはよう、みんな」
美津子は先に店に着いていたスタッフに大きな声で挨拶した。
「店長、元気ですね。何か良いことでもあったんですか?」
2号店のチーフ、中村が言った。
「いいえ、整体の先生に身体の調整をしてもらったのよ。だから今、とっても快調。今日は忙しくても大丈夫よ。みんな、ガンガン行こうね」
美津子はガッツポーズを取りながら言った。
だが、スタッフはいつも通りなので、ちょっと空回りの感がある。ただ、そのギャップはメンテナンスの効果が出ているということだ。
「ところで中村君、今日確かいくつかコース予約が入っていたわね。準備は大丈夫かしら」
美津子のやる気はすぐに仕事モードになった。お店にとってグループの予約はありがたい。でも、コースによって事前に食材の準備が必要なことがあり、ここで間違わないようにしておかなければせっかく来店した客に迷惑をかける。前日に確認したことが適切に把握され、準備に問題が無いかを確認するのは店長として当然の仕事だ。
予約の人数と時間、コースの内容と、仕入れの伝票を見比べ、間違いないことを確認した。もちろん、チーフの中村も確認していたが、こういうことは何度か確認することが大切だ。
「今日は7時から鍋のコースが5名分と8名分、それから焼き物を中心としたコースが6名と、計3組のお客様がいらっしゃいます。8時からは同じく3組お越しになりますが、その内の1組はコースではなく、それぞれにオーダーするということですので、一般のお客様になります。残りのお客様はいずれも鍋のコースで10名ずつと伺っています」
中村は予約表を確認しながら答えた。
「今日は鍋のコースが多いわね。この時期だから鍋のオーダーは多くなると思うけれど、食材の準備は大丈夫?」
美津子は中村に再度確認した。
中村は冷蔵庫の中や食材の貯蔵スペースを仕入れの伝票を確認しながら確認した。基本的には予定よりも少し多めに発注することになっており、その点は抜かりない。もちろん、予想に反して特定のメニューのオーダーが集中することもあるが、こればかりは予想できない。そういう時は申し訳ないけれど売り切れということで謝罪することになる。今までたくさんあったわけではないが、年間を通じれば客に迷惑をかけることもあった。
しかし、今は常連客もつき、メニューのオーダーの傾向も把握しているので、予想を外すことは少なくなっていた。飲食店なので、メニューを切らさないようにしつつ、食材のロスも少なくしなければならない。居酒屋をやっていて、しかも経営者としての立場になると、美津子もこの辺りは慎重になる。もちろん、チーフの中村も、同様だ。食材の確認ができたら、夜の準備ということで仕込みに入った。