次の日、朝9時に予約の電話を入れた。
「もしもし、雨宮です。いつもお世話になっています。急で申し訳ないのですが、今日の10時ごろ、院長先生の枠は空いていますでしょうか?」
私はいつもより早く起き、朝食も早々にとり、整体院に電話した。
「少々お待ちください。確認します」
受付のスタッフが丁寧な感じで予約状況を確認した。
「はい、10時でしたら院長の枠に空きがあります。お取りしてよろしいでしょうか?」
確認の意味で同じことを復唱されたが、間違いを防ぐためには必要だ。居酒屋という仕事をやっていると、電話予約時の確認の大切さを身に沁みて感じている。だからこそ、こういった確認をきちんとしているところには大変好感を持っている。
「では、その時間でお願いいたします。それで明日ですが、妻の分も同じようにお願いしたいのですが、どうでしょうか?」
私の予約ができたところで、今度は美津子の分を予約しようとした。同じ時間で院長の施術を希望したのだが、出勤時間が同じくらいなので、どうしても時間的に制限が出る。同じ日に続けてということは難しいため、時間を合わせるなら日を変えるしかない。ギックリ腰のような急患ではないので、1日くらいズレても問題ない。
「雨宮様、申し訳ございませんが、明日の同じ時間は予約が入っています。明後日でしたら大丈夫ですが・・・」
私としては続けてと思っていたのだが、予約が入っていては仕方がないし、そもそも今、体調が悪いわけではない。だから提示された日時で大丈夫ということで返事し、電話を切った。
そして、そのことを美津子にも伝えた。
美津子自身、施術を受けても受けなくても良かったと考えていたようだが、受けようと決めたからだろうか、明後日になるという話に少しだけ顔が曇った。
私はそういう変化は見逃さない。そこで私は続けていった。
「枠は押さえてあるから、もし良かったら今日はお前が行って来いよ」
「えっ、でも今日の予約はあなたの分でしょう? 私はどこも何ともないから大丈夫よ。あなた、予定通り行ってきて」
美津子はそう返事したが、ここは予定を変え、予約を譲ることにした。
「俺は明後日で大丈夫だよ。昨日、整体の話をしたのはお前がちょっと疲れているように見えたからだし、何か理由を付けないと行きそうになかったからそう言ったんだ。気にするな。先生のところには後で予約の交代を電話しておくから」
私は今日予約した理由を話し、まずは美津子から、ということにした。話した後すぐに整体院に連絡をし、予約の変更を謝り、了承を得た。枠自体を違えたわけではないので問題はないのだが、予約を受ける側というのは変更されると困ることがある。仕事柄、それは承知しているつもりだが、来院者が異なるだけだからということを自分にも言い聞かせつつ、電話を切った。