第39話 劣情*

脇役同士の性行為の話です。自慰の話もあります。


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 ここ数年来、アントンは耐性をつけたはずの媚薬の影響で、たまに性欲が我慢できなくなる衝動に駆られる。媚薬を始めとした薬剤や毒に耐性を持てるように、アントンや配下の影は訓練をしているが、人によって何ともないこともあれば、中毒や依存などの副作用が出ることもあり、毒や薬に関しては、まだまだ分からない事だらけだ。


 アントンは、ペトラと香の耐性訓練をしたルイトポルトに偉そうな事を言ったものの、香の影響を受けて身体の異変を感じていた。ルイトポルトの執務室を出た時点で全身が火照りだして息が荒くなって我慢できなくなって近くの客室へ飛び込んだ。


 その客室はルイトポルトとアントンが秘密の報告を受けたり、伝言をしたりする時によく使う部屋であった。変装道具や携帯用の武器も置いてあり、ルイトポルトとアントンの他、彼らの配下の影も出入りしている。


 アントンが部屋に入って来た時、ペトラが部屋のソファの上で一心不乱に自慰をしていた。ペトラもアントンと同じように、時々性欲への衝動が抑えられなくなってきて、最近は任務で媚薬を使った後は性交相手を見つけらなければ、必ずと言っていい程、自慰をしていた。


 ペトラは相手がいなければ自慰で我慢していたが、アントンは相手に困らない事もあって、適当に相手を見繕って身体を繋げて性欲衝動を発散させる。全くと言っていい程、アントンはその行為が妻に申し訳ないとか、不道徳だとか思っていなかった。


 アントンはツカツカと自慰中のペトラに近づき、ソファに押し倒し、慌ただしく彼女と身体を繋げた。その間にも彼はペトラのお仕着せの前を引きちぎった。するとブチブチと千切れたボタンがソファの周りに飛んでいく。アントンは、お仕着せからこぼれ出たペトラの胸に噛みついては動き、達した。


「アントン様、今日は乱暴だったわね。またお仕着せが駄目になっちゃった」

「ここには着替えがあるんだ。いいだろ? それよりいつもの奴、忘れずに毎日飲んでるか?」

「ええ、飲んでるわよ」


 影として働いている間は、ハニートラップで情報収集することもあるので、男女関係なく避妊薬を飲むことになっている。ただ、今の医療水準では避妊薬を長期間摂取すると、特に女性は不妊になる可能性が高い。だが貧民街で育ったペトラは子供を欲しいと思えないので、13歳で初潮が来てから10年間ずっと避妊薬を飲んでいる。


「一瞬でも高貴お方と身体を繋げられて嬉しかったか?」

「あら、嫉妬しているの? ええ、子種まで搾り取ろうとしたのにとんだ邪魔が入ったわ」

「殿下の高貴な子種はお前などにばら撒くものじゃない」

「酷いわね。性欲の前に高貴も下賤もないわよ」

「いや、殿下のは高貴な性欲さ」


 ペトラは、貧民街で出会ったヤン少年がルイトポルト王太子だった事にとっくに気が付いている。あの頃の純粋な白馬の王子様への憧憬は既にない。人の好意を逆手に取って騙して情報を得る歳月が彼女を変えた。それにルイトポルトが妃となったリーゼロッテを溺愛して政敵の娘である彼女を切る決断ができない優柔不断と甘さに呆れてもいる。


「まあ、こんな話はどうでもいい。引き続き、エロ親父どもの切り崩し工作を頼む」

「ええ、任せておいて。エレナさんはどこまで成功したのかしら?」

「失敗したよ。彼女はもう正気に戻らなくて修道院に入っている。酷い薬を使われたようだ。お前も気を付けるように」


 ペトラが11年前にアントンの実家マンダーシャイド伯爵家に雇われた時、侍女のエレナが読み書きや侍女の仕事など色々と教えてくれた。彼女は当時、アントンの愛人で様々な諜報活動を請け負っていた。彼女が今はアントンの側に既にいないのは確かだが、それが本当に宰相派の貴族に酷い薬を盛られたせいなのかペトラには確信が持てない。エレナは最初こそ親切だったものの、アントンとペトラの関係を邪推して嫉妬して――当時は肉体関係がなかったので完全に邪推だった――態度が変わり、辛く当たられるようになったので、彼女を探し出して助けようとまではペトラには思えなかった。


「私は殿下の執務室に戻る。お前はこれから殿下付きの侍女となるから、表向きは侍女の仕事をするように。時々、あの香の耐性テストをして殿下を香に馴らさせるのも忘れるな」

「じゃあ、今日みたいな役得もまだ期待できるのね」

「そうならないようにするのが練習の目的だからな」


 アントンはスッキリした顔で客室を去り、後にはペトラだけが残された。