第40話 初恋は衝動の裏で散る*

脇役同士の性行為の話です。自慰の話もあります。


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 ペトラが貧民街にいた頃に兄妹のように一緒に育ったヨルクは、王弟ヨアヒムの執事を務めつつ、アントンの命により彼の動向を探っている。アントンや仲間との連絡は、外に使いに出る機会や伝書鳩を使う。


 その日、ヨルクはアントンのいるマンダーシャイド伯爵家に来ていた。いつもの通り、影が使う例の客間に向かった。すると、その部屋から少し上気したアントンが心ここにあらずといった様相で出てきたのが遠くから見えた。アントンが客間で待っているとばかり思ったヨルクは不思議に思って話しかけたが、遠過ぎたのか、注意深い彼にしては珍しく気付かずに行ってしまった。


 ヨルクが客間に近づくと、扉がうっすらと開いているのが見えた。アントンがそんな不用心な事をするのが不思議で扉に近づく。


 女の喘ぎ声が微かに聞こえた。ヨルクは見てはいけないと思いつつも、扉に近づく脚が止まらない。客間の前につくと、扉の隙間に目を向けてしまい、見えた光景に目を疑った。ここから立ち去るべきだと思うのに、目が釘付けになって視線を離せない。ヨルクの下半身にどんどん熱が集まってきた。


 扉の隙間からは、ペトラが床に座ったまま、扉に向かって大股を広げて自慰をしているのが見えた。ヨルクは思わず唾液をゴクリと飲み込んだ。


「ああ……イけない……イけない! ねえ、そこにいるんでしょう? 私をイかせて」


 ヨルクは突然話しかけられてビクッとした。


「来て、兄さん。お願い、私をイかせて」


 昔のようにペトラから『兄さん』と呼ばれてヨルクの心臓がドキンと大きく脈打った。


 影の仲間から、媚薬を長期間摂取していると耐性をつけていても性欲が収まらなくなる副作用があるのを聞いた事はあったが、ヨルクにはまだその症状は出ていなかった。でももう分からない。ヨルクの血は頭のてっぺんまで上っていた。


 気が付いた時には、ヨルクは客間の中にいてペトラのお仕着せを完全に剥ぎ取っていた。噛みつくようにキスをして舌を絡め合い、愛撫し合った。だがペトラは物足りなくてヨルクに更に強請った。


 そして遂に幼馴染でもあり、義兄妹としても育った2人は、初めて身体を重ねた。だがその間、ペトラはアントンの名前を呼び、ヨルクの癇に障った。


「アントン様ぁ……」

「俺は! 俺は! アントンじゃない!」


 ヨルクはペトラのうなじに噛みついた。何度もそれを繰り返しながら身体を繋げた。2人が我に返った時、客間も2人の身体も惨憺たる有様だった。