フラワーシャワーの中を歩く二人に「おめでとう」と祝福すると、友梨が思い切り笑顔で「ありがとう」と返してくれた。
友梨と湊くんの結婚式は心の底からお祝いする事が出来た。
これも全ては月見里さんのお蔭。
あー、早く月見里さんに会いたい。と言っても明日会社で会えるのだけども。
友梨のウエディングドレスは、プリンセスラインとかなんとかで、ウエストから下がふわっふわして友梨らしい。
でも月見里さんなら、ふわふわより、身体のラインがでるようなドレスが似合うんじゃないだろうか、とそんな事を考えている自分にはっと気付いて頭を振っていると、横にいた親父に「なんだ、虫でもいたのか?」とトンチンカンな事を言われる。
「虫はいないよ」
「そうか。はあ、友梨ちゃん綺麗だな。次は歩の番か?」
「そうだといいけどね」
「なんだ、仕事が一番か?」
「そうだね……」
僕の好きな人には、好きな人がいて、その人を待っているらしい。
月見里さんを好きだと自覚した途端、失恋ってのも悲しいものだ。
だけど彼女はもう少し思い出作りという名の恋人ごっこに付き合ってくれるらしいから、それが終わるまでは独り占めしてもいいよね?
*
天気予報は雨。
雨の中の温泉旅行に、僕の彼女は項垂れていた。
「明日にはやむかな?」
「天気予報じゃこの土日はずっと雨ですよ」
「知ってる! 知ってる、けど、ちょっとでもやんでくれたら嬉しいじゃん!」
むくれる彼女の横顔がとても愛しい。
雨でもいいじゃん大丈夫だよ、と抱き締めてしまいたい衝動を理性で抑える。
きっとこれが最後の恋人ごっこだから、いい思い出を作りたい。
雨だけど、風景を撮るフリをして彼女の横顔をこっそりスマホのカメラで撮影した。
ねえ、今何考えてるの?
そう聞いたら答えてくれるだろうか。
湊くんの運転する車で途中、友梨の希望する食事処で昼食を摂り、一旦泊まる旅館に車を置いて温泉街の散策に出た。
「やっぱりまずは温泉饅頭よね?」
「さっきお昼食べたばっかりだけど、まだ食べるの?」
「え? 別腹じゃないの? 別腹だよね、彩葉ちゃん?」
「もちろん別腹ですよ! だって後、このお店のソフトクリームも食べなきゃ行けないし」
そう言って月見里さんはガイドブックを開いてスイーツ特集ページの一箇所を指差す。
「じゃあ行きましょ、行きたいとこ全部ね」
「はーい、行こ行こ〜」
だけど彼女たちがその店に真っ直ぐ行くはずもなく、すぐに色んな店に入っていく。
「これ可愛いね、湊くん。お揃いで買ってもいい?」
ストラップを手に取る友梨に、湊くんがいいよ、と返しているのを見た月見里さんは、何を考えたのか僕を遠くに引っ張って行く。
「あ、これ美味しそうじゃない。会社のお土産にしようかな?」
これは多分、二人の仲良い姿を見せまいとしているんだな、と思って微笑ましくなる。
もうそんな事しなくていいのに。
でもそれを言ってしまえばこの関係はきっと今すぐにでも解消してしまうのだ。
「お土産って、一人で温泉行きました、とか言うつもりなんですか?」
「そっか!? 何も考えてなかった。陽菜にバレたら色々突っ込まれるしね。ああ、ダメだ、バレちゃマズイ。やっぱりお土産は無しにしよう」
何気なく言ったのだろうけど、『バレちゃマズイ』と言う言葉が引っ掛かってしまった。
そうだよね所詮、僕たちの関係は嘘。
嘘は隠さなければならない。
というより、仲の良い中山主任には何も言ってないんだ、隠してるんだな、と思うと虚しくなってしまう。
僕との関係は明るみにしたくない、隠しておきたいほどのものなんだ。
そうだよね、元カレが帰って来た時に困るよね、と更に虚しくなると、この旅行を楽しめなくなっていた。