改めて挨拶をし合う友梨と月見里さん。湊くんを紹介したあと友梨が月見里さんに、同い年くらい? と訊いている。
「同じじゃないよ、友梨が一つ上」
まあ、一つも二つもそう大して変わらないのかもしれない。だけど僕だけ、なんでこんなに歳が離れているのだろうと、またそんな些細な事に苛立つ。
「もう、歩は細かいんだから。因みに湊くんは私の二つ上よ。湊くん格好いいでしょ」
「はい」
友梨の惚気なんかに付き合わなくたっていいのに。それにしたって自分の婚約者を格好いいでしょ、って紹介するなんて、ホントどんだけ湊くんの事が好きなんだろうか。
「妬かない、妬かない歩。彩葉ちゃんが湊くんに見惚れてるからって、男の嫉妬は醜いんだよ」
「うるさいよ友梨」
別に月見里さんが誰に見惚れてたって知った事ではない。
「ほらほら歩、彩葉ちゃんに飲み物出してあげて」
そう友梨に促されるまま冷蔵庫を開けると月見里さんに缶ビールや缶チューハイを見せる。
「何がいい? ビールにします?」
「あ、うん。ビールで」
ビールを受け取ってくれる月見里さんの横を皿を持った湊くんが通る。
「手伝います」
「大丈夫、座っていてくださいね」
「はっ、はい」
ほら、どこまでお人好しなんだよ、この人は。今日は僕たちの都合に巻き込まれているようなものなのに……。
お客様なんだから大人しく座っておけばいいのに、と理不尽にも若干腹を立てた僕はつい月見里さんの手首を引っ張っていた。
「ごめん、ちょっとコンビニ行って来る」
「え、歩くん?」
月見里さんを一人にしてしまうと思ったが、どうにもイライラとしてしまい、理由をつけて外へ出た。
「あーー、もうっ」
頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
友梨と湊くんの結婚まではどうにか許すとしよう。だけど、なんでアメリカなんだよ。アメリカなんて日本と違って危ないし、いつ友梨が危ない目に合うか分からない。
それに友梨、英語は全然ダメだし……。どうすんだよ、ほんとに何かあったら、友梨に何かあったら、……そう思っていると、湊くんが出てきた。
「歩くん、コンビニ行こうか?」
それに返事もせず、僕はコンビニへと向かう。
分かってる。こんな子供っぽい態度を取る僕に対して、湊くんは大人な態度で、僕を傷付けないようにと考え接してくれている事を。
敵わない。
敵うはずがない。
湊くんには一生敵わないんだ。分かってるから余計に自分に腹が立つ。何も出来ないのに、子供っぽくイライラしてばかりで最低だ。
「彩葉さん、良い人だね」
そんな事分かってるよ、と返事もせず頷く。
いつも一緒に仕事してるんだし、良い人なのは仕事を見てたら良く分かる。
それにお人好しで、お節介。
分かってる。
みんな、僕より出来た人間なんだってこと。自分だけ年齢が下だと気にするくらいなら、みんなに見合うくらいに大人になればいいんだって事も頭では分かってるのに、上手くいかないのはどうしてだろう。
「湊くんはいつも余裕だよね」
「え? 余裕なんてないよ。いつもいっぱいいっぱいだったりするけど、大切な人がいるから頑張れるんだ。歩くんもその内分かると思うよ。大切な人がいるとその人のために頑張れるんだってこと」
僕の大切な人は友梨だけど、友梨のために頑張った事なんてないかもしれないと思った。
ほらやっぱり僕はまだまだ子供なんだと項垂れながら、コンビニに入った。