「ママー、ペンギンさん〜」
子どもたちの後ろから人気のペンギンを鑑賞する。
「彩葉、あっちのペンギン見てください」
「え、どこどこ?」
「奥の岩場にいる右の子」
「あ〜、あの右のテトテト動いてる?」
「そうそう。なんか彩葉に似てますよね」
「えっ? どういう意味?」
もしかして可愛いとか? と期待する。しかし望んだ答えは返って来ない。
「忙しないって意味ですけど?」
「私って、忙しない?」
「自覚なしですか?」
「自覚なんてないですけど!? もうっ」
折角ペンギンに癒やされていた気分が台無しだ。
まだまだゆっくり見ていたかったけど、馬鹿にされたのが悔しくて次の展示コーナーにずんずん進む。
だけど、
もしかして、忙しない、ってこういう事かもと気分が沈んで足の動きがとまった。
「どうしたんですか? 急に止まらないでくださいよ」
「うん。ごめんね、もうちょっと落ち着きのある人間になります」
「は?」
「はあ〜、ダメだな〜」
三十歳を過ぎれば落ち着くのだろうか?
一年後の自分を想像してみるが、今と変わらず落ち着きなく働いて、寄り添う恋人もなく、独身で過ごしている未来がまざまざと浮かぶ。
「はあ〜」
何だか上手くいかない。
今日だって、友梨さんとの思い出を作ってあげる事も出来ず、私なんかとずっと館内を巡って楽しくもない無為な一日を松岡くんに過ごさせている気がしてならない。
私なんかと一緒にいて楽しい訳がない。
そんな想いに自分で自分の胸を痛めていた。
結局、イワシの前で動かない湊さんを友梨さんでもどうする事も出来ず、苦笑しながら「先に帰っていいよ」と言われてしまう。
「じゃあ友梨またね」
「友梨さん、ごめんなさい。また」
「またね、彩葉ちゃん、歩」
手を振る友梨さんに私は手を振り返し、退館した。
「閉館まであと二時間くらいだし大丈夫でしょ。だから気にしないでくださいよ?」
「うん、ごめんね。今日は友梨さんたちと全然一緒に――」
「だから、それは月見里さんのせいじゃないじゃないですかっ!」
「でも」
「それ以上言わないでください。僕は楽しかったです。それでいいじゃないですか?」
そうなのかな? と釈然とはしないものの、松岡くん本人が『楽しかった』と言ってくれた事で私の心はいくらか救われてしまう。
次こそは挽回して、なんとか松岡くんに友梨さんとの楽しい思い出を作ってもらいたいなと思いながら私は家に帰った。