「こんばんはー」
「いらっしゃい! 彩葉どうしたの? 今日木曜だけど? それに連れが違うじゃん?」
染め直したばかりなのか綺麗なオレンジ色に染まった頭の雅くんが出向えてくれる。
「ごめん雅くん。あっ、松岡くんはあっちの空いてる席に座ってて、ねっ!」
松岡くんを奥の席に促して雅くんに言い訳がましく説明する。
「同じ会社の同僚なんだけど――」
「ホントに同僚?
「んな訳ないじゃん!
「あー、はいはい。特別バースデープレートにしてサプライズしたいって事か。オッケー、オッケー。はいはい、で飲み物は?」
「私はビール、……えっと松岡くんは、後で注文するから、お願いね、雅くん。よろしくね」
「へいへい、お任せあれ〜」
急な頼みを聞き入れてくれた事に胸を撫で下ろしながら、松岡くんが座っている席に着く。
「知り合いなんですか、あの
「あ〜〜、店長?」
オレンジ色の髪が身内というのは恥ずかしくて誤魔化す。
「松岡くん飲み物どうする?」
「じゃあビールで」
「何食べる? どれも美味しいよ!」
「月見里さんのオススメは?」
聞かれるままにメニューの上に指を滑らせて、これとかこれも美味しいよ、と言うと、それにします、と松岡くんが言う。
「雅くーん、注文お願いっ!」
「はいはーい」
注文を終え、雅くんが厨房に戻って行くその背を見ていた松岡くんが口を開く。
「よく来るんですか?」
「うん、毎週金曜はだいたい来てるよ」
「じゃあ明日も?」
「そうだね。忘れてたけど、今日木曜だったんだ。まあ毎日来てもいいくらいご飯が美味しいから松岡くんも気にいってくれると嬉しいな」
「はい」
また少し機嫌を損ねてしまったのか松岡くんが黙ってしまう。
「松岡くんは、こういう雰囲気のお店苦手だった? ごめんね」
「あ、いや、別に、違いますよ。気にしないでください」
「?」
気にしないでと言われて、気にしないでいることなんて出来ない。でも原因がよく分からなくて、どう声を掛けるべきか悩んでいる所にビールが届いた。
お疲れ様、と軽く乾杯をしてビールを飲み、特に会話のないまま注文した料理を食べる。
美味しい? と聞いても「まあ」としか返ってこない。
食べ終わった頃に、雅くんがデザートプレートを運んで来てくれた。そして小さなケーキに差してある花火に火を入れるとパチパチと明るく弾ける。
「「ハッピーバースデートゥーユー」」
雅くんと私の歌に合わせて周りのお客さんとスタッフが手拍子をしてくれていて、その中心にいる松岡くんはとても驚いていた。
「お誕生日おめでとう。って一日遅れになっちゃったけど」
「あ、りがとう、ございます。いや、びっくりして……、ありがとうございます」
「ふふ」
私が笑う横で、厨房に戻ったはずの雅くんがまた出て来る。またお皿を持っているけど、今度は何だろうと思っていると、私の目の前にそれが置かれた。
「はい、今度は彩葉の分! こっちは一日早いけどな! おめでとう〜」
「えっ! いや、ちょっと雅くん」
「月見里さん、明日なんですか?」
「あ、はい、そうです……」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
小さなケーキとアイスとフルーツの乗ったプレートにはチョコレートで『Happy Birthday Ayaha♡』と書かれていた。