「エリス、どうした? そんなところで立ち止まって」
「あ、いえ……」
「まあいい」
リュダに水と餌をやって来たギルバートは家の中へ入ってくると、エリスに持たせていた荷物を受け取り、先程買った服や肌着類をテーブルの上に出して行く。
「あっちの洗面所で好きなのに着替えて来い。そうしたら傷の手当てをするから」
そして、好きなものに着替えるようエリスに伝えると、自身も着替えをするのか寝室へ向かうと、纏っていた肩鎧や、両腕に付けていた
エリスがチラリとギルバートの方へ視線を移すと、彼の背中や脇腹、肩付近にも大きいものから小さい刀傷ようなものが付けられているのを目の当たりにして、思わず手にしていた服や靴を足元に落としてしまう。
そして、それに気付いたギルバートと目が合った。
「あ、す、すみません! 覗き見るつもりは無くて!!」
見ていた事を咎められると思ったのか、エリスは慌てて落とした物を拾いながら謝った。
「別に構わない。寧ろ、こんな物を見せて悪かったな」
「いえ、そんな……」
「顔もそうだが、この傷が気になるか?」
「いえ……」
「構わねぇよ。顔の傷も身体の傷も、昔、殺されかけた時に付けられたものだ。もうだいぶ昔だからな、痛みも無い」
「殺されかけた……?」
「ああ。お前のその腕の傷も、そうなんだろう?」
「え?」
「その腕の刀傷は、咄嗟に身体を守ろうとして出来た傷じゃないのか?」
エリスは驚いた。腕の傷を見ただけで殺されそうになったところを守ろうとして出来た傷だと見破られた事に。
「まあ、見たところお前の傷はそこまで深くは無いから、きちんと手当すればそこまで痕は残らないだろう」
「…………」
「どうした?」
「あの、私……」
「とにかく今は着替えて来い。話はそれからだ」
「は、はい」
ギルバートならば信頼出来る、それを確信したエリスは溢れそうになる涙を拭うと、手にしていた服と共に洗面所へ向かって着替え始めた。
エリスが袖を通したのは薄いピンク色のワンピースに白地のエプロンが付いたエプロンワンピース。
「あの、お待たせしました」
「結構似合うな。まあ、姫様には少し簡素過ぎたか?」
「いえ、そんな事は無いです。普段もそんなに豪華な服は着ていませんでしたから」
エリスは普段から飾りのない簡素なドレスしか与えられず、寧ろ今着ているエプロンワンピースの方が余程お洒落に見える。
「……そうか。それじゃあそこに座ってくれ。傷の手当てをするから」
「はい」
服装についての話を早々に切り上げたギルバートはエリスに椅子に座るよう言って、自身は手当てをする為の準備を始めた。
手当てをする前に、汚れていた部分を拭き取る為、水を張った洗面器に布を濡らすと、優しく拭き取るよう肌の汚れを落としていく。
「……っ」
「悪い、痛むか?」
「いえ、大丈夫です、すみません……」
途中、エリスが小さく声を上げかけたのは、痛みからでは無い。
優しく労るように汚れを拭ってくれていたギルバートとの距離が近く、恥ずかしさから思わず声が出そうになったのだ。