「こんなものだろう。腕の方はまだ痛みがあるようだから無理はするな。分かったな?」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、そろそろ本題に入るとするか」
手当てを終えたギルバートは使った物を手早く片付けると、エリスと向かい合う形で椅子に座り直して話を始めた。
「――単刀直入に聞く。お前は誰に命を狙われているんだ?」
「……それは……」
ギルバートは回りくどい事が嫌いだった。
だから、聞きたい事をハッキリ聞いたのだが、エリスはその答えを口にするのを渋っていた。
それはギルバートを信頼していない訳じゃ無い。
自分の命を狙っているのがシューベルトとリリナである事はほぼ見当がついているのだが、寝ていたところを襲ってきた男が果たして二人が差し向けた者なのかが分からず、ハッキリしていない事を口にするのを戸惑っていた。
そんなエリスを前にしたギルバートは彼女が何を躊躇っているのか何となく察した上で、質問を変えた。
「……分かった、それじゃあ質問を変える。お前は何をどこまで知っているんだ?」
「どこ、まで……?」
「何か話を聞いたとか、見たものがあるんじゃないのか?」
「それ、は……」
ギルバートの質問に、エリスは戸惑う。何故この人は自分の置かれている状況が分かるのかと。
「……何故、私が何かを知っていると、分かるのですか?」
「お前は優しい性格の持ち主みたいだからな、確実な証拠が無いと自分の命を誰が狙っているか口にしたくないと見える。だが、何かを知っているからこそ、怯えているのだろう? 俺なら力になってやれる。だから、信じて全てを話して欲しい。知っている事を、話してくれないか?」
父親が死んでしまってからというもの、エリスには味方がいなかった。
誰も、エリスに寄り添う事をしなかった。
そんなエリスに差し伸べられた、救いの手。
まだまだ素性は知れない相手だけど、この手を逃してしまえば二度と救いの手は差し伸べられない、そう思ったエリスは――
「私は、夫であるシューベルトと、シューベルトが愛する私の妹のリリナ……それから継母のアフロディーテに、命を狙われているみたいなんです……」
シューベルトとリリナが話していた不穏な会話の全てを、ギルバートに話したのだ。
それを黙って聞いていたギルバートは、特に驚きもしない。
それどころか、
「エリス、お前は知らないかもしれないが、セネル国には秘密がある。お前は疑問に思った事は無いか? セネル国の世継ぎであるシューベルトが、第二王子だという事に」
「……確かに、初めは不思議に思いました。昔から第一王子の存在が表に出ていなかった事に。ですが、聞いた話によると第一王子であるシューベルトのお兄様は、まだ幼い頃に流行り病で命を落とされたと……」
「幼い頃に流行り病……か」
「ギルバートさん?」
「いや、それだと、俺の知っている話とは異なると思ってな」
「そうなんですか?」
「ああ、俺が聞いた話によると第一王子というのは父である国王と弟である第二王子のシューベルトに、命を奪われたという内容だ」
「命を、奪われた……?」
突如聞かされたセネル国の第一王子の新たな死の真相。
自分が聞いていた話とは異なる内容に、エリスは言葉を失った。