「うまい……」
料理を口に含んで数回
ブロイラーと一緒に固めた
極限まで
なんだこれは?
舌に絡みついてくる……
液体とも固体ともつかない汁が、俺の味覚をとろけさす。
ネギの甘みと塩の
ウツロはわれを忘れて、その美味を文字どおり噛みしめた。
舌が嫌悪を感じるギリギリの熱さ。
味わうほどにそれが鼻から抜けていき、味覚だけではなく
ああ、幸せだ。
こんなに幸せで、いいんだろうか?
「……
「やっと名前、呼んでくれたな、
「……」
だが俺の負けだ、完全に。
この男、
俺を料理で、その味で黙らせた。
俺は、
自分で言うのもなんだけれど、自信があった。
アクタもお師匠様も、俺の作る飯が一番うまいと言ってくれた。
俺自身、調理の腕には覚えがあるほうだと思っていた。
だが、これは……
南柾樹……
この男の作る飯は、なんてうまいんだ……
言葉などでは、とうてい表現できない。
ただ、
クソっ、なんでだ?
なぜこんな男に、こんなうまい飯が作れるんだ?
理解の
人を見かけで判断してはならない。
それはわかる、
だがいくらなんでもこれは、この落差はなんだ?
クソっ、いまいましい。
うますぎる、こいつの料理は。
手が止まらない。
箸ごとかじってしまいそうだ。
いっそ皿までしゃぶりつきたい。
クソっ、うまい、うますぎる……!
「おいおい、ゆっくり食えって。飯がのどに
「うっ――!?」
ハッとして、周囲を見回す。
一同が料理にがっつくウツロの姿を、ポッカリと口を開いて見つめている。
し、しまった……
俺としたことが、あまりのうまさに……
はっ、まさか……
これもこの男の
俺に料理をむさぼらせ、その
おのれ、南柾樹……
やはり、
「仕込んだな? 南柾――」
「お、おい!」
「ウツロさん!」
「ちょっと、ウツロくん! 大丈夫!?」
料理がのどに
外見も内面も
「はあ~」
「うっ!?」
深くため息をついたあと、
「いっ!?」
食事から
「おい、龍子っ! バカか、てめえっ!」
南柾樹は
「姉さん、しっかり!」
「ウツロくうん……あとでゆっくり、お話ししましょうか……?」
引きつった笑顔を、星川雅は目の前の「バカ」へ向けた。
「す、すみません……」
ウツロはすっかり
地獄の時間である。
南柾樹、真田虎太郎の両名は、ジトッとした視線を余すことなく、この愉快な少年へ送り続けた。
終わった……
俺も、ここまでか……
「人間」になる、どころではない。
これでは
それよりも何よりも、ああ……
真田さんに、嫌われる……
彼の全身は、
がんばれウツロ、負けるなウツロ。
千里の道も一歩からだ。
だが、「人間」までの道のりは、果てしなく遠い……
(『第28話