「うお」
ウツロが
レトロな内装はこの洋館に相応であるが、広い空間に木製の大きなテーブルと椅子の列、入って正面の北側に位置するテラスからは庭が見え、開け放たれた窓からはそよ風がときおり入りこんでくる。
ウッドデッキの奥には、くだんのツタの
「おう、座れや。メシの用意はできてるぜ」
タンクトップの上にベージュのエプロンを着込んだ
慣れた手つきで料理を並べる彼に、ただならないミスマッチを感じたウツロは、足を止めてその姿を
「ウツロさん、どうぞどうぞ。こちらへお座りください」
「あ、どうも……」
彼はウツロをいちばん手前の、外の景色がよく見える席へと導いた。
テラスに広がる風景は、「洋」の中に「和」を取り入れたモダンな雰囲気だ。
それなりの大きさの池には、
やはり人工的、ウツロはそう思った。
これが人間の世界なのだ。
この庭園のように、自然さえも自分たちの思うがままに作り変えてしまう。
人間の世界は虚飾にまみれている。
あるいは、そこに暮らす人間そのものまでも……
彼はそんな風に
そのおぞましい本性を、加工した仮面ですっかりと隠してあるのだ。
吐き気を
けれど自分もすぐに、この庭のように作り変えられてしまうのか?
仮面をかぶせられ、人形のようにされてしまうというのか?
たかが風景のひとつに、ウツロの思索は止まらないのであった。
「まあ座りなよ、ウツロくん」
真田虎太郎が指定した席から見て左向かいの席に、
彼女は例によりすました態度で、またも見透かすようにウツロに話しかけた。
「おなか減ってるでしょ? 早いところいただきましょう」
両手を組んだ中に、あの薄気味悪い
食われるのはこの料理ではなく、俺なのではないか?
この女こそもののけの
ウツロの心配は考えすぎとはいえ、星川雅から相変わらず放たれる妖気は、その
「失礼、します……」
恐縮しながらも彼は、せっかくの招きであるからと思い、いそいそとその席へ腰かけた。
星川雅はあいかわらず、観察するような視線をウツロへ送っている。
しかしほかのメンバーもいるという状況を
それよりも
「柾樹、本日のお品書きは?」
その態度がやはりウツロには気がかりだったが、南柾樹は慣れた様子で答えを返す。
「まず、テーマは和洋中のコラボ。肉は『和』、魚は『洋』、スープは『中華』だ。順番に、『
ウツロには、にわかに信じられなかった。
こんな見事な料理が、このようなガサツな男の手で、生みだすことができるものなのか?
人は見かけによらない、と言っては失礼だけれど……
いや待て、判断は味を見てからだ。
よいのは
人間なんて、そんなものだ。
人間の作る食事とて、そんなものだ。
ウツロは
「本当に、おまえが作ったのか……?」
思わず礼を欠く質問をした彼に、南柾樹はさすがに不機嫌になった。
「『おまえ』じゃねえ、南柾樹だ。そんなに信じらんねーの?」
見かけで判断するという行為は本来ウツロも嫌うのだが、こればかりはというが本音である。
「毒は……」
「入れるわけねえだろ! どんだけ信用ねえんだよ!」
自分はいったい、どんな目で見られているのか?
基本的に考えるのは面倒くさい南柾樹だが、そこまで言われては反論をしないわけにはいかない。
二人は
彼ら以外の面々は、すっかり呆れ果てている。
「はいはい、お
「雅の言うとおりだよ二人とも。ケンカもいいけど、おなかをいっぱいにしてからお願いね?」
さすがの真田龍子もうんざりして、食事の開始を
「ウツロさん、柾樹さん。
表現こそ奇妙だったけれど、真田虎太郎も同様に、いがみ合っている二人をいさめた。
「お、おう。そうだな」
「ご、ごめん。俺としたことが、冷静さを欠いていたよ」
ウツロと南柾樹は取っ組み合いに発展する直前で、やっと
「けっ、話はメシを食ってからだ」
「ふん、望むところだ」
これではまるで漫画である。
残る三人はもはや、言葉を発する気にすらなれなかった。
(『第27話 千里の道も一歩から』へ続く)