「ウツロくん」
いくらか時間が
ウツロは部屋の中で、顔をそちらのほうへ向けた。
「はい」
もっとも、人の気配は感じ取っていたから、返事をする「準備」はしていたのだけれど。
「入ってもいいかな?」
「……どうぞ」
ドアが少し開いて、その隙間から彼女がひょいと顔をのぞかせた。
ノブがひねられる独特の人工的な音も、山で育ったウツロには、まだ不思議な響きに感じられた。
「昼食の用意ができたから、食堂に来てほしいんだ。わたしが案内するから」
「……うん、ありがとう」
「体調は大丈夫? 少しは落ちついたかな?」
「すっかり回復してきたよ。もうピンピンさ」
「そう、よかった。でも、しばらくは絶対、安静にね? 何か困ったことがあったら、遠慮なく言っていいから」
「……本当に、ありがとう、真田さん。こんなによくしてくれて」
「謙虚だなー。もっと堂々とふるまっていいんだよ? ほら、わたしみたいにさ」
「え、ああ……」
「そんなんじゃ女子にモテないよ?」
「え、どういうこと?」
はずみで言ったに過ぎなかったが、ウツロが食い下がってしまったので、真田龍子はあわてた。
彼は言葉の意味に、納得する解答を求めている表情だ。
真田龍子は「しまった」と思い、考えをめぐらせた。
「えー、あー、その……あんまりこだわりすぎると、答えのほうが逃げちゃうよ、ってことかなー……?」
彼女は相当苦しい言い訳をした、つもりだったが――
ウツロはなにやら目を丸くして、硬直している。
「……ウツロ、くん?」
「……なるほど、『人間論』に
「え、あー、まあね……」
「すごい、すごいよ、真田さん! ぜひ真田さんとゆっくり議論したい! 一緒に『人間論』を完成させよう!」
「……あははー」
何度でも言おう。
ウツロはあまりにも純粋なのである。
いったい何者が彼を責められようか?
彼女はそれをすっかり理解して、今後はじゅうぶんに気をつけなければと、肝に
(『第26話