俺はいま、夢を見ているんじゃないだろうか?
あのとき、あのおそろしい
お師匠様、アクタ……
早く、会いたい……
二人とも無事なのだろうか?
いや、無事でなければダメなのだ。
あの二人に何か起こるだなんて、俺にはとうてい耐えられない。
どうか、無事でいてくれ……
いや、待てよ。
俺がもし本当に死んでいて、二人が存命であるのなら、俺たちは永遠に会えないことになる。
いっそ、そのほうがよいのか?
でも、会いたい……
くそっ、なんなんだ、このトンチ問答は?
循環論法にはまってしまいそうだ。
落ちつけ、違うことを考えよう。
ふう……
俺は心のどこかで、彼を見下していたのではないのか?
こんな子どもに、何がわかるのかと。
しかし、あの子は確かに答えた。
問いかけるという形で。
蝶になることにではなく、這うことに意味があるのではないか、と。
這うこと、這いつづけること、か。
それが人間という、存在なのではないか?
蝶になれたら、そのあとには何があるというのか?
這うことに意味があるという命題は、
俺は耐えられるのだろうか?
「毒虫」として這いつづけることに……
俺はなぜ、あの男にアクタを重ねたのか?
あんなうさんくさい、いけ好かないやつに。
気に入らない、あの男のすべてが、その存在が。
待て、落ちつけ。
存在を否定してはいけない、それだけはダメだ。
どんな存在にも、他の存在を否定する権利などないはずだ。
いまの俺は冷静ではない、とりあえず落ちつくんだ。
彼にはどこか、「影」のようなものがあった。
確かにそれを感じた。
そこに何か、アクタが重なった秘密があるのかもしれない。
彼女は魔物だ。
おそらく内面は、あの表面以上に。
決して立ち入ってはならない領域が、彼女の中にはある。
立ち入れば、あるいは……
あの女からは、聴きださねばならないことが山のようにある。
魔王桜、アルトラ、そしていま俺を閉じこめるこの空間。
その
ただでさえ混乱しているのに、さらに情報を集める必要があるのか。
くそっ、もどかしい……
そして、
真田、
真田さん、真田さん……
ん、なんなんだ……この感覚は?
頭の中が、真田さんでいっぱいになる。
彼女の容姿が、そのやさしさが、俺の心を埋め尽くす。
なんだか……変だ、俺。
なんなんだ、これ……
体がほてってくる……熱い……
心が、満たされてくる……ああ……
わからない、わからない、が……これは……
真田さん、真田さん……
真田――
わけがわからない……
人間は、難しい……
はあ……
こんなふうにして、ウツロはしばし、思索にふけった。
(『第25話 昼食への勧誘』へ続く)