ほどなくして、くだんの
杉並木の
全員が一様に
顔にはカラスを模したような、「とんがり」のついた仮面を
ウツロの予見どおり、その数、実に三十名。
玄関の前に陣取る三人の前を、弧を描くようにたちどころに取り囲んだ。
「こんな夜更けに、なんのご用かな?」
「問答無用、
「ふん、見ればえらく
「ああ、そのとおりさ。ただし運ばれる荷はお前たちだ、あの世へな」
弧の中心の
だが当然、皮肉で終わらせるという雰囲気ではない。
「さかしらぶりおって。
「果たしてそう、うまくいくかな? 者ども、かかれえいっ!」
合図とともにカラスの群れは、一気に三人へ
「ぐげっ!?」
似嵐鏡月の黒彼岸が、前方の
五~六人がそのまま後ろに吹っ飛んで、杉の
「なっ……」
「ひるむなっ! かかれ、かかれえいっ!」
「ぎゃっ!?」
「ぐえっ!?」
黒彼岸は次々と、襲い来るカラスの群れを叩き落す。
彼らはまるでハエがされるように、たちまちのうちに
「おやおや、もう半分くらいになってしまったかのう。ははっ、誰をあの世へ送るだって?」
「くそっ、調子に乗りおって! ガキだ、皆の者! うしろのガキ二人を人質に取れ!」
「させるかっ!」
似嵐鏡月はまた、黒彼岸を大きく払った。
「ぬっ!?」
吹っ飛んだそのさらに
「くっ、しくじったわ! アクタ、ウツロ! 逃げろっ!」
彼は振り返りざまに叫んだが――
「ごえっ!?」
カラスのひとりの首から上が、ねじれるように
アクタが身につけた
「人質に取るだって? 取られるのはてめえらの命のほうだ!」
「ガキがあっ!」
カラスたちは空から円陣を組んでアクタに襲いかかる、が――
「げおっ!?」
鉄壁に
「なんだこいつ、強いぞっ! もうひとりを狙え! いかにも弱そうだ!」
威勢よくとびかかる数名のカラスたち、だが――
「失礼だな」
「ひっ!?」
ウツロはそのカラスよりも高く跳躍していた。
落下しながら舞うように、黒装束の群れを
その姿はまさに踊っているかのようだ。
彼の身軽さと
それらすべての要素が有機的に絡み合うことによって初めて可能となる、ウツロの個性を最大級に生かした
こんな彼を、いったい何者に
「誰が弱いだって?」
音もなく着地し、すぐさま体勢を整えたウツロは、自分が倒した敵たちに問いかけた。
念のため、
答えなど帰ってくるはずがないということを、彼は知っているからだ。
自分がまかり間違っても、仕損じるはずがない。
初めての実戦にして、ウツロは絶対の確信を持っていた。
それは決しておごりなどではなく、突きつめられた経験が彼にそう教えるのだった。
時間にしてほんの二十分ほど。
屋敷の前の庭には、大地に
「ふん、
「めっそうもないことです、お師匠様!」
「アクタの言うとおりです。お師匠様からのご教授があったればこそで――」
「どうした、ウツロ?」
突然
「お師匠様っ、遠くからまた気配が!」
「何だって!?」
まさかと、アクタは混乱
「ちいっ、
「どのくらいの数かわかるか、ウツロ?」
不安げなアクタの質問を受け、ウツロは嗅覚神経をフル稼働させている。
「においが強すぎて鼻が曲がる……ゆうに五十人は軽く超えています!」
「そんな……」
アクタは
いまの戦闘は圧勝とはいえ、三人には確実に疲労が蓄積されていたからだ。
「……どうやらここまでのようだな。アクタ、ウツロ、かくなる上は当初の予定どおり、
意を決した似嵐鏡月は、力強くそう言い放った。
「そんなっ、お師匠様も一緒に!」
「このままでは
「いやです、お師匠様! 俺はあなた様とともにいとうございます!」
「ウツロっ! 落ち着け!」
その様子を見た似嵐鏡月は覚悟を決めた。
「……仕方がない、アクタ!」
「うっ……」
ウツロの
アクタが当て身を見舞ったのだ。
崩れ落ちるウツロの体を、アクタはすくい取るように支えた。
「アクタ、ウツロを頼む!」
「
「なぁに、またすぐに会えるさ!」
気絶したウツロを
止まらないその涙を、必死に隠しながら。
(『第9話 |邂逅《かいこう》』へ続く)