「あ、あ、ぁ……っ」
甘ったるい
「あ、っ……」
広い寝台に押し倒され、
とろん、と、
「殿、下……」
燎琉に深々と貫かれてたまらなさそうに
ふたりが
燎琉は瓔偲を
瓔偲もまた白い腕を伸ばして、燎琉の背中にそっと回した。
「殿下……」
「殿下……お種、を」
「わたしの、
そんなふうにねだられて、身体が一気に熱を帯びる。燎琉は相手を
甘い声。
甘い吐息。
そして――……百合に似た、高貴な、けれどもたまらなく甘ったるい香り。
燎琉を誘い、
「瓔偲……っ!」
万感極まって、相手の名を呼んだ途端だった――……は、と、燎琉は目を開けた。
はた、はたり、と、緩慢に瞬きをする。見えているのは、見慣れた
もちろん、瓔偲と抱き合ってなどいない――……では、いまのはすべて夢か。
ああ、淫夢を見たのだ、と、そう気づいた刹那、瓔偲はかぁっと全身が熱くなるのを感じた。
父皇帝に不本意ながらも婚姻を命じられ、その相手である人物を、叔父のもとから我が殿舎に迎えた。それはほんの昨日のことだ。
まだいかほども相手と触れ合っていないというのに、なんという夢を見ているのだ己は、と、そう思う。情けなささえあって、燎琉は
身体の内で
そこには――……
「おはようございます、殿下」
「お、はよう」
戸惑いながらも挨拶を返すと、相手は応えて、ふわりとちいさく微笑する。
ただそれだけのことに、けれども、夢の名残のせいもあって、燎琉は相手の表情を直視できなくなってしまった。
「ずいぶんと早いんだな」
結果、すい、と、顔を背けながら、ぶっきらぼうに言っている。とはいえ、まだ夜も明けたばかりだというのにもう起きて、しかも身支度まで終えているのか、と、他意などなくそう思ったのも事実だった。
昨日、
それだというのにあんな夢をみるなんて、と、燎琉は無言で顔をしかめた。
これまで
「あとひと月もすればご一緒に正房で過ごされるようになるのに、わざわざ別の堂宇を開ける必要がありますか?」
侍者の
「正式な婚姻前に共寝が出来るものか!」
昨日の燎琉は幼馴染に向かってそんなふうに言い張った。
「殿下はやはり
そのときの皓義は肩をすくめて笑っていた。が、真面目
ついつい先程の夢を――燎琉に組み敷かれて、燎琉を受けとめ、甘ったるく
それで、ますます相手と正対していられずにそっぽを向いたのだが、それを
さらさら、と、涼やかな
ふわりとやさしい百合のような香がただよい、それが、そっと鼻腔を
「わたしは、これでも官吏でございましたので……習い
ずいぶんと朝が早い、と、先程のそう言った燎琉の言葉に対して、瓔偲は苦笑のようなちいさな笑みを口の端に
だが、その身体が、ふいに、くら、と、わずかに
燎琉は慌てて、まだ数歩あった瓔偲との距離を瞬時に詰めた。細い身体を腕に抱きとめると、そのまま支えるようにこちらの胸にもたれかけさせる。
「すみ、ません」
「いや……大丈夫か? もしかして、よく眠れなかったりしたのか」
足元をふらつかせた相手を
「いえ、その……」
言いにくそうに口籠る。
その様子を見た燎琉は、ふと、何とも言い難い不安に駆られていた。
「俺の殿舎では……落ち着いて眠れなかったか?」
気付くと、込み上げた気持ちを、そんな言葉にのせて吐露している。
「え……?」
瓔偲は燎琉を見あげて、はたはた、と、目を瞬いた。真っ直ぐにこちらを見詰める黒曜石の眸から、けれども燎琉は逃げるように視線を逸らしている。
「だって俺は……お前を無理に抱いて、無理に、つがいにまでした相手だ。怖い目をみせた。酷い目にあわせた。そんな相手だから……」
瓔偲が実は燎琉を嫌悪していたり、恐れていたりしたって、ちっともおかしくはないのだ。燎琉はいまになって、そのことに、はた、と、思い至ってしまったのだった。