「ほんなら苗字は省いて、名前だけっちゅうことで。ちょうど円になっとるし、俺から始めて時計回りにいこか」
アラタが一歩前に出て、顔合わせの自己紹介が始まった。
「アラタいいます。二十六歳で、祖父が代表やっとる
砕けた口調で自己紹介を終えたアラタは、一歩下がるとウブに視線を送った。
ウブは動かずに、その場で自己紹介を始めた。
「ウブです。十九歳で徳育社大学に通ってます。保有するバグは、シロウサギ。対象の近未来が見えます。よろしくお願いします」
関西のイントネーションながら標準語で挨拶したウブが終わるのを待って、ミツが口を開く。
「ミツです。三十一歳で、ちっこい会社を経営しとります。持っとるバグはアラハバキっちゅうて、対象の記憶を消去するゆう何のためにあるんか分からんバグです。よろしゅう」
やわらかい口調で締め括ったミツが、ハルミに視線を送る。
ハルミは表情を変えずに、軽く会釈してから口を開いた。
「……ハルミです。十八歳で、この春から大学生です……バグは、オモヒカネ。対象の思考を読みます……よろしくお願いします」
これで終わりだと示すようにハルミが軽く会釈すると、テルヤがアルカイックスマイルのまま一歩前に出た。
「テルヤと申します。シンクタンクに勤めております。保有するバグはキンマモン。対象に幻覚をみせます。三十五歳なので最年長のようですが、気軽に接していただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします」
テルヤが静かに一歩下がるのを待って、ヒジリがぴょんと跳ねるように前へ出た。
「ヒジリでっす。二十歳で
ヒジリが元の位置に下がるのを見て、イェンリンが口を開く。
「イェンリンです。二十一歳で春から叡智大の四年生です。父が台湾人ですが、二歳から日本にいます。保有するバグは、ハナガタミ。自身の行動の結果を束縛します。よろしくお願いします」
イェンリンが順番を知らせるように、アオへ視線を送る。
「アオ、です。二十歳で叡智大に在籍してます。保有するバグは、マワリウタ。対象の行動の結果を束縛します。よろしくお願いします」
自己紹介を終えたアオがお辞儀すると、イツキは用意していた原稿を読むように挨拶を始めた。
「最後ですね、イツキです。二十歳で叡智大に通ってます。みなさんがご存知の通り、アシナヅチと呼ばれるバグを保有してます。全員と面識があるのは俺だけですが、イルリヒトの前身である谷中機関の頃から協力関係にある、妙理教導会の本部が京都にある関係で、バグホルダーの所在は東京と京都だけになってます。東京組はイルリヒト、京都組は妙理を中心として面識があるので、互いに覚えるのは四人か五人。それほど苦ではないでしょう」
顔合わせを締め括るように状況を説明したイツキに、アラタが話を振った。
「で、イツキさん。スセリはイツキさんからゲームの詳細を聞くように言うてましたわ」
「そのようですね。では、スセリから聞いたゲームの内容をお伝えします――」
イツキは自分の解釈を交えず、スセリが口にしたゲームの説明をトレースするように伝えた。
「――俺がスセリから聞いた内容は、以上です」
イツキの説明を受けて、最初に口を開いたのはアラタだった。
「エニアド……確か、エジプト神話の神々やったか……うーん、生身のRPGときよったか」
テルヤが
「東京を人質にされ、我々の生殺与奪もスセリに握られています。今はゲームのクリアを目指すよりほかはないですね」
アラタが頷きながらテルヤに視線を向けた。
「そですなあ……しっかし、こないな状況に置かれたとは思えんほど、落ち着いたはりますねえ」
テルヤはアルカイックスマイルを崩さずに答えた。
「いえ、落ち着いていると言うより、覚悟を決めるしかない、と。諦観に近いですね」
「諦観かあ……あたしも、そうかもなあ」
イェンリンが独り言のように呟くと、ヒジリは両手を挙げて全身を伸ばした。
「うーん……僕はまだ、夢を見てるのかなあって感じだけどねえ」
「夢なら悪夢だな」
苦笑いを浮かべながら言ったイツキに、ヒジリが擦り寄る。
「だよねえ……まっ、イツキがいるから悪夢でも許すかっ。しょうがないよねっ」
イツキにぴったりくっついて腕を絡めるヒジリを見て、ミツが表情を緩めた。
「みんなして順応が早すぎる気いはするけど、異能持ちだからやろか」
ヒジリを引きはがしながらイツキが答える。
「バグホルダーという特異な存在であることは、影響してるでしょうね」