「まあ、生身のRPGなんちゅう、えげつないゲームでパーティー組むことんなるメンツん中に、ぎゃーすか騒ぐバカも、順応性が低すぎるマヌケもおらんのは、不幸中の幸いかもしれへん」
アラタが首をポキリと鳴らしながら言うと、それまで無言だったウブがぽつりと本音を漏らした。
「うちは、順応性が低すぎるマヌケかもしれへん……」
「ウブはなんも心配せんでええ、俺が守るんやから」
アラタが即答すると、ウブは三白眼の視線を正面に残したまま小さく頷いた。
「うん。そやね……」
ウブが声に納得を含ませると、アラタは話題を次に進めた。
「ほな、さっさとチュートリアルでも済ませよか」
イェンリンが話の流れを遮るように右手を軽く挙げてから提案した。
「その前に必要な物資を調達しておきませんか? 医薬品や充電器なんかも含めて」
イツキはアラタやイェンリンの適応の早さに驚きながら、物資の調達に対する罪悪感が拭えない自分は意識してこの異常な状況に適応する必要があると思った。
アラタはあっさりとイェンリンの提案を受け入れた。
「そうしまひょ。俺らが行動可能なんは一条通と二条通の間やから……うーん、下着なんかも調達せなあかんし……
イツキはアラタの言葉にハッとした。下着に考えが及ばなかった自分の鈍感さに呆れたのもあったが、ゲームのフィールドとなった異空間にいることで、ゲームの中のキャラクターとして自分を捉えている部分があるのかもしれないとも思った。
「じゃあ、そのスーパーに向かいましょうか」
イェンリンが普段の買い物へ出掛けるような調子で言うと、九人は京都御苑を横切るようにして、
烏丸通を南下して烏丸丸太町の交差点を右折。丸太町通を堀川通に向かって西進する。
通りに人影はすでに無く、モンスターがいたるところに湧出していた。
烏丸丸太町から百メートルほど西進すると、小鬼とは異なるモンスターが湧出しており、それを見たアラタが感想を口にした。
「なんや、ゴブリンの次はオークかい。お約束通りっちゃあ、お約束通りやけど」
テルヤは新たなモンスターに躊躇なく近寄り、植物でも観察するようにモンスターを確認した。
「頭上の表示は
豚人は、豚のような頭部を持つ身長一メートル半ほどの肥満体で、右手には小振りの斧を握っていた。
イツキも豚人を凝視した。モニター越しのゲームなら、雑魚キャラとしか感じない姿のモンスターだった。しかし、それが現実に立っていると、途端にホラー映画の怪物のように感じてしまう。
さらに二百メートルほど西進すると、小鬼や豚人ではないモンスターが湧出していた。
「こりゃあ、一気にモンスターっぽくなりよったなあ……」
アラタがぼそりと感想を漏らす。
豚人を発見した時と同様に、躊躇なくモンスターに近寄りながらテルヤも感想を口にした。
「表示はそのまま、鬼ですか。序盤のモンスターらしく単純なネーミングですね」
鬼はその身長こそ豚人と同じ程度だったが、浅黒い肌に筋肉質な
アオがイツキの左裾を掴んだ。
一気に迫力を増したモンスターを前にして、アオの反応は自然なものだろうと感じたイツキは左手でアオの右手を握った。
「ずるいぃ……!」
手を繋ぐ二人に気付いたヒジリが、左手でイツキの右手を握った。
ミツが微笑ましいものを見た表情でイツキに笑いかけた。
「両手に花やねえ」
イツキはミツに苦笑いを返すと、そのままの状態で歩いた。
さらに三百メートルほど西進して、九人は目的地である大型スーパーがある堀川丸太町の交差点に到着した。
ドラッグストアやファストフード店もテナントとして入っている二階建ての店内は、当然のように無人だった。
「さてさて、調達しますか。日用品なんかは二階みたいね。それじゃ、女性チームと男性チームに分かれましょ」
てきぱきと発言するイェンリンに従って、女性陣と男性陣とに分かれた九人は各々で必要な物資を調達した。
帰路は男性陣の両手が買い物袋でふさがった。
九人はイツキとアオが利用したホテルに到着すると、それぞれが選んだ客室に物資を置いてから再度ロビーに集合した。
「それでは、チュートリアルを済ませるとしましょうか。適度に小鬼が湧出している京都御苑が手頃かと思いますが」
テルヤが提案すると、イェンリンが即座に同意した。
「そうしましょう。食事はチュートリアルの後ってことで」