シロイズノウから〈瞬間的細氷(インスタント・ダイヤモンドダスト)〉を選んだ瞬間、前方に小規模な吹雪が発生し、小さく鋭い氷柱が辺りを飛び散った。
それらは的確にヤツらを貫通し、徐々に立ってる数を減らしていく。
さっき使えなかったから怖かったけど、根拠の無い自信が突き動かした。
疲れがほとんど無い私がやるしかない、その思いが。
すると"パトカーの音?"が突如鳴り響き、その音でヤツらが一斉に起き始めた。
今いるヤツだけでなく、さっき倒されていた者まで起こされてしまっていた。
よく見ると、ヤツらの内部にあの"赤いアレ"が潜んでいるようで、それが全てを修復している。
「⋯なによ⋯こんなの」
思わず漏れた一言の後、一瞬の風が背後から靡いた。
「各員! 彼女の支援を! 前は私たちがやるッ!」
「は!」
松竹梅の三銃士が集い、起き上がりを潰そうとする。
私の横には新宿花伝のみんなと、
「ユキ姉、ありがとね。みんなのために」
隣に来るノノ。
すぐ後にニイナとヒナも来ると、
「"これ"にする条件の時に私が返した言葉、忘れたんですか? 勝手に破ろうとしないでください」
「こっちだってもっとやれるよ! ユキちゃん!」
「⋯ごめんね。ありがとう」
安堵の息が漏れた。
一人で何もかもやらなくていいんだって。
疲れてるだろうに、他人に任せたいだろうに。
それにこんな状況なら、誰かが勝手にエレベーターで逃げてもおかしくない。
なのに、誰一人として逃げず、現状に向き合っている。
運がいいんだろう、私は⋯こんな人たちに会えて、こんな人たちと戦えて。
だからもう死なせたりしない。
ここにいる全員でちゃんと帰りたい。
でも、その思いも薄れ始めていた。
何度倒しても"パトカーの音?"がどこかから鳴り、埒が明かない。
原因がどこにあるのか、探す余裕が全然無い。
「⋯まずいな、さらに増えている」
カレンさんの視線の先、下から増援も上がって来ていた。
あれは⋯"殺された人たち"⋯?
もしかして、ここまで来れたのは運が良かっただけで、他の人はあれらにずっと邪魔されていた?
「これが"死人の巣窟の本性"という事か⋯ゾンビとやり合う方がよっぽどマシに見えるな。竹、松、まだくたばるなよ」
「当たり前だ、まだ日課トレーニングの域は超えとらん。なぁ、松?」
「⋯すまん、ちょっとキツい。ごほっごほっ⋯熱があるらしい、頭がガンガンする」
どうしよう、松の人に限界が来てる。
いや、もうほとんどの人が限界に見える。
こんなの⋯どうしたら⋯
「(ユキ⋯聞こえるか)」
!?
「(その反応⋯聞こえてるんだな)」
どこ⋯どこにいるの!?
見回してもどこにもいない。
「(そこに俺はいない⋯いいか、よく聞け⋯"鬼の光る先"を見てみろ⋯そこを狙え)」
それから彼の声はもう聞こえなくなった。
泣きそうになった気持ちを抑え、今はその事実があった事だけを胸に仕舞う。
"鬼の光る先"⋯この青く光った先?
それは右奥の天井を示していた。
そこには確かに"変な窪み"があった。
彼を信じ、私は氷の真空斬をあの場所へと飛ばす。
すると、"大きな赤いアレ"が降ってきた。
これがずっと邪魔してたってこと?
「"アレ"を狙ってください! おそらく"アレ"が蘇る原因です!」
「なに!?」
カレンさんと私が同時にヤツへと向かう。
最中、ヤツは突然"あの白いヤツ"へと変異し始めた。
「なんだこいつは!? "6階にいたアイツ"になったのか!?」
「⋯今の私たちならやれます!」
さっきできなかった、私にしかできない事⋯!
シロイズノウから〈ハイパーファントム・インヴァース〉を放った一撃。
伸びた影による追加攻撃も行われ、当てる毎に影が倍に増え続けていった。
1体、2体、4体、8体、無限に増え続ける中、さらにはカレンさんの完璧なサポートも入る。
途中、ヤツが弓を構えたタイミングで、後ろから"ミサイルのような矢"と"白黒の槍"が飛んできた。
「⋯ニイナ! ヒナ!」
「弓対決で負けるわけないですから」
「次は助けるからね!」
「⋯よし! 後は任せろッ!!」
最後はカレンさんの凄まじい剣撃が行われた。
地面と天井に"大きな梅の花"が咲き、そこから大量の剣が上下で交差した。
ヤツはとうとう耐え切れなくなったようで、溶けるように消えていった。
「⋯あ! こっちのが倒れていくよ!」
ヒナの言う通り、赤いネルトや警官たち、死人の増援も次々倒れていく。
やっぱり"アイツ"が原因だったんだ。
「下川委員長、もう出てきて大丈夫です」
「⋯私の権限を使って散々な事をしているようだったが、あんなモノまで用意しているとはな。諸君ありがとう、さすがここまで来た強さだった。これが噂に聞く"ELに選ばれた者の力"か」
「下川委員長も"UnRule"をご存知なんですか?」
「AIへの対抗手段として浸透してるからな。だが、まだ始めていないんだ。やる前に捕まったからな」
ニイナと下川委員長が話している。
たぶんもう何も襲ってこない⋯と思いたい。
「ふぅ、いい連携だったな」
「頼もしかったです、本当に助かりました」
カレンさんとかたい握手を交わす。
「さぁ、先にエレベーターへ。行方不明の仲間がこの先へ行ったかもしれないぞ」
「⋯いいんですか?」
「それが目的だろう? 私たちは後でどうとでもなるよ。さぁ早く行って、さらに遠くなる前に」
「⋯ありがとうございます」
譲ってもらったエスカレーターに私、ヒナ、ニイナが乗る。
下川委員長は見守るように外側から敬礼し、「黒夢警官! これは命令だ! 信じる仲間と最後まで生きるように!」と。
「は!」
「ニイナちゃんの敬礼するところ、初めて見たね」
「声の出し方、新宿花伝と被ってない?」
「うるさいですよ先輩方、いいから行きますよ」
エレベーターが閉まろうとした瞬間、一人がカレンさんに押されて乗ってきた。
「ノノ、そっちでは言う事聞くんだぞ」
「代表!?」
エレベーターは動き出してしまい、B20Fへと向かい始める。
「えーっと⋯新宿花伝クビになったみたい」
「なら、一緒に来るしかないわね」
「⋯よろしくお願いします」
ここから、ノノ含めた女子4人で行動する事になった。