第68話 蝶竜

 両腕の隙間から前を覗くと⋯


 ― 七色に光る何かが立っていた


 竜のような身体、蝶のような羽根。

 その"謎の何か?"は、撃たれた"黒い閃光矢"を片手でいとも簡単に掴むと、


「アァァァ⋯ァァァァァア?」


 その矢をなんと"自分の腕?"に装填し始めた。

 そこからたった一撃を放っただけで、なんとアイツを奥へとねじ込んでしまい、その異常な強さが垣間見えた。

 まるで"蝶竜?"のようなそれがこっちを向く。


 ⋯ヤバい

 ⋯逃げないと⋯!


 鎌を構えたまま、少しずつ後ずさる。

 ⋯何も⋯してこない⋯?

 その"蝶竜?"はよく見ると、左腕にL.S.を付けていた。


 ⋯え?

 ⋯あの⋯L.S.って

 気付いた時にはもう遅く、"蝶竜?"は飛び跳ね、アイツの方へと行ってしまった。


 ⋯あれは間違いない

 何度も傍で、何度も何度も見てきた。


 ⋯ダメ、意識が持たない

 目が霞んでいく。


 あの"蝶竜?"がヤツを壊していく。

 動く度に弾ける"虹の粒子"。


 私が起きている間に最後に見たもの。

 あの"蝶竜?"が私に近付いてくる様だった。


 ♢


「⋯良かった、ユキ姉起きたッ!!」

「周りのヤツらがしつこくて、遅れてすみません」

「ユキちゃん、血を流して倒れてるから、心臓に悪かったよぉ⋯」


 起きると、みんなに心配されていた。

 周りを見ると、もう何もいなくなっていた。


 あの"蝶竜?"がどこにもいない。

 後ろにも上にも。


「あんまり動かない方がいいよ、また血がで⋯あれ?」


 ヒナが血を辿って、私の右脇腹を見る。


「ユキちゃんって、医療の知識に詳しいの? もう傷口塞がってる」


 すぐ見ると、完全に塞がっていた。

 跡が無いくらいに。


 ⋯私じゃない

 誰のおかげなのか、すぐにはっきりした。


「⋯ルイはどこにっ!!」


 思わずヒナを掴んで言うと、


「ど、どしたの!? ルイさん、いたの?!」

「いた! いたの!! ついさっきここにっ!!」


 その声に一気に周りが反応する。


 私には分かる。

 あれは絶対にそう。


 生きてたんだ、やっぱり。

 信じてた、ずっと。


 早く謝らなきゃいけないのに。

 一人にしてごめんって、早く。


「誰も見てないの!?」


 一人も反応しない。


 なんで⋯

 絶対いたのに⋯!!


「そのルイ様は、どんな格好をしていましたか?」


 不意にニイナが質問してくる。


「え⋯蝶の羽根が生えた人型の竜のような⋯」

「⋯私が一瞬見えたのは、"光った何か"がユキ先輩に近付くのは見えたんです。ですが近付くと消えて⋯ヤツらだと思って、急いだんですが」

「それ⋯それがたぶん」

「ルイ様だったと?」

「た⋯ぶん⋯」


 段々と記憶が鮮明になってくる。

 その時、一つの"大事な証拠"を思い出した。


「⋯そう! L.S.を付けてたのっ!! ルイと全く同じのを!!」

「本当ですか!?」


 必死に話す私の姿を見て、カレンさんたちが先にこの階の捜索へと行ってくれた。

 ここにまだ、ルイがいるかもしれないと信じて。

 代わりに、ヒナ、ニイナ、ノノの3人が、私の様子を見るために残った。


「ルイさん、いるといいんだけどね」

「⋯こんな事言いたくないですが、可能性は極めて低いと思われます。どこかへ行ってしまう理由なんて、無いはずですから」

「そうかもだけどさぁ。ルイ兄⋯会いたいなぁ」


 3人が話す途中、急に私の右ポケット辺りが光った。

 何かと思って取り出してみる。


 小さな"金のフィギュア"?

 金の弓を持つ、"あの白いヤツ"の。


「⋯あ! これって!!」

「それ! "あの時の"に似てる!!」


 ノノとヒナが急に大声を出す。


「"あの時の"?」

「うん! そんな感じなのをルイさんに使ってもらって、この槍が出来たから!」

「こっちは代表に使ってもらって、これになった!」


 聞くに、"A.EL"になれるアイテムらしい。

 なんで私が持って?


 ⋯そっか

 入れて行って⋯


 やっぱりルイなんだね、あなたは。

 傷を治してくれただけじゃなくて、こんな物まで⋯

 ⋯彼の方が苦しいはずなのに、そんな時でさえ私たちの事を思って⋯


 見つけるから、絶対に。

 大好きな、あなたを。