突如L.S.が起動し、その"小さな金のフィギュア"は消えるように入っていった。
アイテム欄を見ると、〈全ての犯罪者を蹴散らす【LWS-611】の輝金神物〉といったものが新しく入っており、〈弓の真の姿と邂逅するために使用可能〉と書かれている。
⋯ってことは
使える人物がここに一人いる。
と感じた瞬間、勝手に手の上にまた出現した。
すると、〈"反撃の立体弓"を真の姿へと上書きしますか?〉とL.S.から表示された。
"反撃の立体弓"を持つのは⋯そんなの彼女しかいない。
「ニイナ、これであなたを"A.EL"へとさせられる」
発すると、ニイナは黒能面を取り、口が開いたままの驚いた顔を見せた。
その顔のまま、ゆっくりと口を動かす。
「そ、それによって、私が、私が"A.EL"に、なれるんですか?」
「えぇ。"反撃の立体弓を真の姿へと上書きしますか?"ってL.S.に出てるわ。この弓を持ってるのはニイナだけでしょ?」
「⋯そう、ですね」
いつもの彼女は何処へ行ったのやら、火照った顔で荒く口呼吸をしている。
このまま使うのもいいけど⋯
ごめんね、ちょっと利用させてもらう。
「使う前に、一つ条件があるわ」
「⋯はい?」
「私にもし何かあった時は、ニイナが"総理を操る真犯人"を探し出して」
「⋯それは出来かねます。私たちは今、協力関係にあるんです。ユキ先輩もしっかり生きて、それで一緒に捕まえるんです。もし何かあったらなんて⋯そんな事は起きません」
「ニイナちゃん、ユキちゃんが起きるまでずっと手を握ってたからね~」
「ちょ、ヒナ先輩っ!? それは言わない約束って!?」
「え~? そうだっけ~?」
ヒナとニイナのやり取りに少し吹いた。
ニイナは咳払いすると、私に向かって「⋯一応、了解です」と。
その瞬間、彼女の弓へと吸い込まれるように"小さな金のフィギュア"は浮き始めた。
数秒の浮遊後、弓内へと入っていくと、突然弓が霧に包まれた。
そのまま霧状の弓が頭上へと上がる。
「⋯大丈夫なん⋯ですよね?」
不安そうな顔をするニイナに、ヒナが代わりに「大丈夫だよ」と返事する。
霧が晴れた先で落ちてきたもの。
まるで"最新戦闘機を模したような弓?"だった。
L.S.のホログラム画面には、〔"反撃の立体弓"は"マルチロールフェイル・ヴィーナス"へと上書きしました〕と出ている。
「これが⋯ELになった弓」
どこまでも金色が眩しい新型の戦闘機弓。
端にはしっかりと刻まれた"A.EL"の印。
真ん中部分に"金のエンジン?"が4つも付いている。
もう見ただけで分かる、この弓は他と一線を画すという事が。
「あ~あ、もう追い付かれちゃったのか~」
ふと、ノノが口にする。
「これでもう喧嘩は売れなくなった?」
「なったから、それこっちに向けないで!?」
ニイナが「本当にありがとうございます、ユキ先輩」とこっちに一礼してくる。
感謝されるべきは私じゃない。
「それはルイに会ったら言ってあげて。残していってくれたの、彼だから」
「⋯ルイ様が」
そういえば、ニイナって前は"三船様"って呼んでなかったっけ?
今更そんな気にすることでもないんだけど⋯なんか引っかかるわね⋯
戻って来た新宿花伝と合流後、カレンさんは「七色蝶はどこにもいなかった」と報告した。
残念な気持ちはもちろんあるけど、まだ上に階は残ってる。
「では、7階へ行きましょう。私はもう身体は平気ですので」
「分かった」
残りはあと3階。
本当にあと少し。
アスタ君たちはいる。
ルイだっている。
そう思うと気力がどんどん沸いてくる。
足が先へ先へと勝手に進む。
新しくなったのはニイナだけじゃない。
私の"この鎌"だって。
♢
「この階には、特に何もないね」
7階を回りながら、後ろのヒナの声が静寂に響く。
残りはあと2階。
最後の休憩をはさみつつ、8階へのエスカレーターへと進んだ。
「次が8階ですね」
「そうね。天井には常に気を付けないと」
あの"赤いの"が降ってくる数も増えてきていた。
強いわけではないけど、不意に来るのが鬱陶しい。
「小野田はどうやっても⋯帰って来ないんだよな」
前を向きながら言う竹の人に、カレンさんと松の人が肩を叩いた。
⋯この先もまだ何があるか分からない
まず私たちのすべき事は、彼の犠牲を無駄にしない事。
気を抜かないよう改めて身を引き締めると、エレベーターは8階へと辿り着いた。