「うわ~きれい~!」
「こんな場所が」
隣の二人が周りを見渡す。
つられて私も。
「これ全部、私が植えたの」
しゃがんで彼女が言う。
ケースに入ってる青い花を前にして。
「花も喜んでるように見えますね」
「そう? なら頑張って植えた甲斐があるわね」
少し嬉しそう。
この数は相当苦労したはず。
下から上まで花だらけの一室。
この1か所だけ、別世界のよう。
上に"Little Life Garden"とある。
可愛い字で書いてある、自分で書いたのかな?
こんな壊れた都会の小さな庭園。
ほんの少し、癒しを感じられた気がする。
「そういや、お互い名前を知らないわね。住吉カレンよ、ここのみんなには"代表"と呼ばれてる」
「新崎ユキです、こちらが町田ヒナ、それであちらが」
「⋯黒夢ニイナです」
ニイナが一歩出て言う。
「あなたさっき"黒い能面"を付けていたわね。あの速さ、特別な能力が付いてる?」
「⋯身体能力を1.5倍にします。"弓の場合は1.7倍"ですが」
ヒナが「そうだったんだ」と呟く。
使用武器に応じて上昇具合が変わるなんてのがあるんだ。
全然知らなかった。
まだまだ知らない事ばかり。
「似てるわね。私のこれの場合は"2倍"、ただし"接近戦の場合だけ"。その黒い能面みたいに常にってわけじゃない」
「"接近戦だけ"、ですか。弓では使いものになりません」
「そうね。私が剣じゃなかったら⋯だからこれは運命だと思った」
不意にニイナが"花の鎧"を指差す。
「それはどうやって手に入れたのですか?」
カレンさんが立ち上がる。
「⋯覚悟を決めて外に出た日の夜だったわ。それまで、本当はこのまま死のうと思ってたの」
「⋯意外です」
私が小さく言うと、
「そうでもないわ、強がってるだけだから。未だに怖いもの、"アイツら"に近付く時は」
⋯同じだった
ELの恩恵があろうと、怖い物はやっぱり怖い。
安心なんて言葉はどこにもない。
「初めてアイツを見た時、そこにいた人全員が倒れてた。そんな中で、ただ一人がこっちへ叫んだの、"コイツをやれ"って。どうせ死ぬんだったらと思って、走って剣で突っ込んでやった、そしたら⋯」
カレンさんは横にある"花の鎧"を見る。
「私だけが手に入れて、他の人は死んでしまった⋯あの人たちのおかげで弱ったところをやれただけなのに。今でも考えてしまうの、ELもこれも、私でよかったのかなって」
その時、ニイナが突然弓を出した。
「弱音はそこまでにしてもらえますか」
「ちょっと、ニイナ!?」
「あなたは"選ばれた人"なんです。それなのに、私でよかったのかなんて⋯なりたかった人だっているんですよ? 私のようにッ!」
弓を必死で抑える私を見て、カレンさんは"いいの"と首を横に振った。
「⋯言う通りね、こんなんだと代表失格。みんなには⋯特にノノには見せられない顔だわ」
カレンさんのどこか悲しそうな顔。
⋯この人も苦労してきたんだ
♢
ニイナを落ち着かせるため、私たちは他を見て回る事にした。
後でもう一度、新宿花伝の部隊とは合流する予定。
それまではこの建物内を探索した。
他にも様々な施設がここにはあり、ここら一帯は新宿花伝が使っているそうだ。
カラオケ、ボーリング、ビリヤード、バー、最新ゲーム等、まだまだ他にも。
ちょっと気分転換をさせてもらったところで、ヒナが途中で寝てしまった。
さすがに昨日から寝てない分、疲れがどっと来たんだわ。
ヒナをベッドルームへ運び、私たち二人が残る。
「⋯さっきはすみません」
「どうしたの、急に」
「先輩がいなかったら、もっと抑えられなかったと思うので」
私は近くのイスへ座った。
「⋯言えた立場じゃないけど、ニイナと同じ状況だったら、私もそうしてたかもしれないなってさっき思った。ELになれれば、一般人とは違う特殊な力が手に入って立ち向かえる、上の立場になって言う事を聞かせる事だってできる、100人のうちの一人なんだって自慢だってできる、だけど」
少し水を飲んで私は続けた。
「なって分かった、それだけでしかないの。ELだろうと結局は人それぞれ。悪く使う人間もいれば、逃げる選択をする人間もいる。そして、上手く使ってやったとしても、誰もが総理まで行けるわけじゃない。行けたとしても、総理を止められるのは⋯」
口を紡ぐと、ニイナは静かに「ルイ様、なんですよね?」と。
「私はアスタ様がやると思っていました。でもアスタ様から、"イーリス・マザー構想の成功者"だと聞いて⋯あぁ、もうこの人なんだなと直感しました」
「⋯どんな状況でも、ルイなら何とかしてしまう。この人といれば、何でもできるんだろうなっていつも思うの。だけどそれはどこか、"幼馴染っていう贔屓してるのかも"ってあったんだけど、それを知って全部納得したわ」
「⋯生きています、絶対に。ルイ様もアスタ様もカイも」
「それとシンヤ君もね」
「あの一緒にいた"チャラい方"ですか?」
「うん。彼も実は凄いの、今や"eスポーツAR部門の日本代表"になっちゃって、まだあまり報道はされてないけど、アスタ君に引けを取らないかもよ?」
「でもあの方って、ELに選ばれてないですよね?」
「⋯言われてみれば」
そういえば、なんでシンヤ君は選ばれなかったんだろう?
言われてみれば、しっくりくる。
なんでなんだろう?
それでも、ELの私たちに負けず劣らず強い。
あの大臣の猛攻だって耐えていたらしいし。
その後もニイナとの会話は続いた。
ニイナは自分の事を足枷だと思ってたみたいだけど、私はとにかく否定した。
ノノと戦って、特にそれを証明したと思う。
EL相手に、一般武器で同等の戦いが出来る者はそうそうにいないはず。
例え、黒能面を活かそうとも。
「あなたなら"Another ELECTIONNER"になれるチャンスが来る、ヒナやノノみたいに。二人とも"特殊なアイテム"でなったみたいだし、ニイナも不意になれるかも?」
「⋯ありますかね」
「あるある!」
ニイナはちょっと喜んでいた。
私の言葉で希望が湧いたのかな。
なんか年の近い妹ができたみたい。
この後、ヒナが起きてきて、新宿花伝と捜索開始となった。
絶対に見つけるから、みんな、もう少しだけ辛抱していて。