ここに来る途中、ノノやカレンさんから聞いた話。
新宿駅にはさっきまで"大きいヤツ"がいたらしい。
私たちが新宿駅に着くちょうど10分ほど前、それが片付いたそうだった。
あの時ヒナがXTwitterで見た写真は、"その解散する瞬間"だった。
この写真をアップしていたのは、カレンさん。
近辺で何があったかを、写真や動画で常にアップしているそう。
その後に、新宿駅の地下は最近危険なのもあり、上がって来たヤツらを対処していたのがノノだった、というのがさっきまでの流れ。
「集まって大きいのを倒してる時、この3人の誰かを見なかった?」
「⋯いや、いなかったと思う」
"探してる3人"はおらず⋯
誰一人として見ていないという。
今から新宿花伝との協力捜索になるわけだけど、時間が経って午後3時。
「さて、そろそろ」
カレンさんがL.S.を見て言う。
すると、
⋯?
左右から重厚感のある音が荒々しくし始めた。
見ると、それぞれ"松と竹の派手な人?"の後ろにさらに数人、ゆっくりと歩いて来る。
これは⋯仲間って事でいいのよね?
松⋯?
竹⋯?
さっきカレンさんが仲間を呼んだって言ってたけど⋯
また変わった人たちがやってきた。
L.S.を見ると、EL仕様の特別製。
って事は、この人たちも選ばれた人。
「歌舞伎町辺りはどうだった?」
カレンさんの声に、左の"松の人"が首を横へ振る。
「御苑や公園の方は?」
続いて、右の"竹の人"が首を横へ振る。
「なら、もう"あの場所"か」
「!? 行くんですか!?」
ノノが驚く。
他の新宿花伝組も続いて声を上げる。
"あの場所"?
私は気になって割り込み、
「どこですか?」
一言聞いた。
すると、
「⋯新宿警察署よ」
呟くようにカレンさんは言った。
「え、警察署?」
「⋯ユキ姉は何も知らない?」
「う、うん、私は何も」
「入った人たちが、まだ一人も出てきてない」
「「一人も?!」」
ヒナと私の声がシンクロした。
やっぱりヒナも知らなかったみたい。
まだあまり出てない情報な気がする。
「なんで警察署に? そこには何かあるんですか?」
続いてカレンさんに聞くと、
「まだよく分かってないわ、何があるのか。"相応の物がある"とだけ伝わってる」
「そういや、警察の黒夢なら何か知ってるんじゃない?」
ノノが後ろにいるニイナへと話を振った。
ニイナは険しい顔をすると、
「⋯知らない、何も」
ニイナ⋯?
この後もどうするかの話し合いが続いた。
新宿警察署へ本当に行くのかどうか。
行けばどうなるだろう。
警察を敵に回す事になるのだろうか。
どっちにしろ、もう敵状態ではあると思うけど。
私は覚悟を決めて行く事にした。
ルイだったら、絶対行くと思う。
ここへ行けば何か分かる気がするから。
しかし、簡単には決められないようだった。
カレンチームの決意は固そうだったけど、他はかなり渋っている。
それはそう。
というか、普通はそう。
帰れるかどうか分からない場所。
帰れたとして、次は警察に追われるかもしれない。
カレンさんも強要はしていない。
別に行かなくたっていい。
得られる物だって無いかもしれない。
長考の結果、代表であるカレンさんの意見に従う形になり、今行く準備をしている。
実は、増援部隊の背中には"新宿花伝の文字"があり、離れて拠点を作っているサブチームだった。
なんだかんだみんな気になってはいるようで、踏ん切りを付けるなら今だと考えたみたい。
私たちも一緒ならと、最終的な決め手が私たちだった。
ここでもやってきた事が認められたようで、素直に嬉しくはある。
でも、ニイナは終始暗かった。
"ノノのあの一言"の後から⋯
ヒナと私が心配して声をかけると、重い口を開くようにニイナは喋った。
「⋯1か月間、応援で入って勤務した事がありました。そこの同僚には良くしてもらったのですが、この経済対策が始まって以来、一度も連絡が取れていません。嫌な予感がするんです、"あの場所"は」
⋯嫌な予感
おそらく行かない方が賢明な判断。
それでも可能性が残ってるなら、放っておく方がダメな気がした。
「"死人の巣窟"って呼ばれてるしね」
ノノが寄って来た。
やっぱり、心配してたんだ。
"死人の巣窟"⋯
そこに"探してる3人"は本当に入って行ったの?
目撃情報はこう。
"黒い服装の怪しい数人"が入って行ったのを朝見たというのを、他から聞いたそう。
アスタ君とカイって子がその格好なのは分かる、ニイナも同じような格好をしてるから。
だけど、シンヤ君が"わざわざそんな格好"する?
うーん⋯
でも、途中で手に入れた装備だとしたら⋯
それにあっち側も同様に、私たちを探してるかもしれない。
ここへ誰か入って行ったのを、聞いたのかもしれない。
この可能性をどうしても捨てきれない。
「ニイナはここで待っててもいいのよ」
「⋯」
「無理していく場所じゃない。もし何かあったらあなたが」
「いえ⋯行きます」
ニイナが拳を握り、こちらを向く。
「アスタ様やカイがもしいたら、後悔するので。それに、Another ELECTIONNERになれるアイテムだって、あるかもしれません」
「⋯そうね。全部の可能性を捨てきれないわ。ね、ヒナ?」
「うん! ニイナちゃんもこんな風に変わっちゃうかもですからね!」
ヒナが槍の姿を豹変させて見せた。
悪魔から天使へ、天使から悪魔へ、謎にループさせる。
ヒナが「ほらほら~」と言いながら何回もするもんだから、私はつい噴き出して笑ってしまった。
ニイナも釣られたのか、少し笑う。
新宿花伝さえも乗り出し、ヒナに並んで花を咲かせたり、松を動かしたり、竹を上下させたり、まるで出発前の決起会みたいになった。
なんだかよく分からないけど、いいチームでやっていけそう。
ルイ、いつもならあなたもここにいるのに。
あなたが私の前で、笑ってるはずなのに。
絶対、みんな連れてあなたを迎えに行く。