「⋯ん」
「あ、起きました? ユキちゃん」
時間を確認すると、〈2030.09.26 AM5:23〉になっていた。
私はいつの間にか寝ていたらしい。
でも、寝た気が全くしない。
「交代しましょ、疲れたでしょ」
「⋯えーっと」
ヒナの視線の先にいる彼女を見ると、ソファで船を漕いでいた。
「⋯限界そうね」
一旦ニイナを起こし、寝るよう説得する。
納得はいかないようだったけど、さすがに限界だったのか、ベッドへと向かった。
私たち勝手に使ってるけど、今は仕方ない。
「何事も無かった?」
「はい」
「そう。あれから"返事"はある?」
ヒナはゆっくりと首を横に振った。
"はぐれた3人"の行方は分からないまま。
ルイも⋯
「でも、もう"コレ"は使えますよ」
ヒナはそう言うと、"あの槍"を出してみせた。
これならまた外に出られそう。
♢
― 昨日の夜中
「二人が監視、一人が休む、今はこうしましょう」
「なら、先にお二人のどちらかどうぞ。私はまだ、寝るなんて出来そうにないので」
「だったらヒナ、あなたが寝なさい。本当は走っちゃいけないのに、痛み止め使って無理やり走ったでしょ?」
ヒナは肋骨4本にヒビが入っていて、本当はダメだと言われていたのに、さっき全速力で走ってしまった。
生きるために仕方なかったとは言え、今一番休ませないといけないのはヒナに違いない。
「そうなんですけど⋯一番しんどい時には使えって言われたこの痛み止め、"3週間効く"凄い薬らしいんです!」
「え、"3週間"!?」
見せられた薬は高級そうな見た目をしている。
全体的に黒々とした飲み薬で、半分飲んであった。
中心に横線とココマデと書いてある。
2回分あるのね。
「ただ"副作用に1週間寝てしまう"らしいんですけど、もうその時はその時です! だから、私は今頑張りたいので、ここはユキちゃん!」
♢
ヒナの凄い圧に押された結果がさっきの通り。
槍が戻ってから、さらにやる気が出ているように見える。
私も大鎌を一度取り出してみる。
⋯うん、使える
これならいける。
「ねぇユキちゃん、ニイナちゃんが起きたら新宿駅の近くへ移動しませんか?」
「どうして?」
「なんか人が多くいるみたい。もしかしたらそこにシンヤさんやアスタさんもいるかもしれません、ルイさんだって」
言われてXTwitterを見ると、"数人のEL"がいるみたいで、何かで盛り上がっている。
もちろんアップされている画像に"目的の3人"は見当たらない。
それでも、期待してしまう。
ルイ、早く会いたい。
会いたいよ⋯
気持ちを抑える事、1時間。
ニイナが起きてきた。
「もういいの?」
「これくらいはよくあるので」
仕事で慣れてるのかな。
それでも1時間はさすがに短すぎない⋯?
「ヒナは本当に寝なくて大丈夫?」
「大丈夫です」
あっちに着いたら、さすがにヒナには一旦ゆっくりしてもらいたい。
ニイナに新宿へ行く事を説明した後、私たちは移動を開始した。
新宿駅にはあえて徒歩で行く。
どこかでふらっと見つけるかもしれないから。
それで見つかるのが一番いいんだけど⋯
地下通路に入って途中、ニイナが急に足を止めた。
右の100mほど先に4人が倒れていた。
でも、見つけたニイナは足一つ向かおうとしない。
なんで警官なのにと思いながら、私が駆け寄ろうとすると、
「行かなくていいです」
「え!?」
「あの人たち、"もう死んでます"」
ニイナが喋る途中から現れた"何か"。
「なに、"アレ"⋯?」
全身に"病院のマーク?"のようなものをいっぱい付けた、黒いロボットのようなもの?
それがなんと、"倒れた人を吸収するように掃除"し始めた。
地面にある血さえも、跡形もないように。
「初めて見たんですか?」
「え、えぇ」
「アレがあーやって毎日"死んだ人間を掃除"しているんですよね」
あんなもの、いつから⋯
ニイナはかなり前から見た事があったそう。
なんであんな事をするのかと思ったが、突然ふと"一つの会話"を思い出した。
♢
「AIが人間のふりをして自然に溶け込み、次第に人間にどっちか分からなくさせ、密かに殺していく計画です。今行われているネルトによる食い殺しと人間体への変化は、"その始まり"に過ぎないんですよ」
「なッ⋯!?」
「い、意味分かんねぇって!? なんでそんな事しようとしてんだよ!?」
「まだそこまでは分かっていません。ですが、何となく気付きませんか? この新経済対策と、このナチュラルAI化計画を踏まえて考えるとその意味が」
♢
裏部さんの言っていた事。
それに"あの掃除"も含まれてるのだろうか。
裏部さん⋯
というか、ちょっと待って。
"この掃除"にはもう一つ気になる事がある。
私たちはたまたま見てないけど、ニイナは何度も見ているって言ってた。
つまり、それだけ"死んだ人"がいたって事よね?
これだけの規模、殺された跡や血痕を見ないのはおかしいと思っていた。
殺される場面に合わないにしても、殺された跡はさすがに嫌でも見る事になるはず。
何も知らない所で、何も分からないようにされている⋯?
まるで"知らない方がいい事もある"と、言われているみたいに⋯
もし、昨日死んでいたら⋯?
⋯考えたくない
振り払い、視線を戻すと、
「⋯?」
"真っ赤な人間?"が3人近付いてきていた。
⋯いや、あれはもう人間じゃない
「⋯赤くなっても欠陥だらけのバカ」
一言放った後にニイナは弓を出し、"複数の弾丸?"を一気に放った。
赤いヤツらの両足に命中したそれは、全員を滑り転かした。
と同時に、ヤツらはそれぞれ異常変異をしだした。
「見てないでやってください、先輩」
黒能面を取り付けながらニイナが言う。
「⋯ごめんなさい。いつも通りいける? ヒナ」
「はい!」