※中編は【新崎ユキの視点】となります
「ねぇ! ルイが帰って来ない!」
「彼は必ず帰ってくる! 今はここから逃げるんだ!」
「ルイを置いてなんて⋯私には出来ないッ!!」
「信じるしかないよ! 今は!」
「ユキちゃん⋯私もですけど⋯でも抵抗手段が!」
「俺も行きたかねぇ! だけどこんな状態じゃ、なんもできねぇだろッ!?」
なんで⋯
今度は私たちが助けないといけないのに⋯
私が最後まで残り、苦渋の選択で都庁を降りる事にした。
降りたくない、本当はずっとここで待っていたい。
なんで帰ってこないの⋯
その考える時間さえも、もう少なくなってきていた。
反対側入口から多くネルトが入ってきているのが、外のドローンで確認されたからだ。
アスタ君が連絡してくれて、渋谷の方から助けが向かって来てくれているそう。
"ルイを襲ったあの何か"。
あれの影響か、鎌を出そうとすると【〈混沌虹女神の一喝〉により、6時間取り出す事はできません】と脳内にアナウンスが流れる。
それによってか、全員が何も使えない状態となっていた。
刺された人を救助する組と、辺りを監視する組とで分かれ、ヤツらにバレないようになんとか2Fまで来た私たち。
結局、あの支配人と呼ばれていた男には逃げられ、都知事はどこに行ったのか分からず、ここで得たのは最悪の結果だけだった。
"大切な人"を置いて逃げるという、最悪すぎる結果。
やだよ⋯早く帰ってきて⋯
苦しい。
胸騒ぎが収まらない。
皆は「絶対帰ってくる」と言う。
いつもなら私もそう思う。
だけど今回だけは、どこか違うと思った。
最後に見たルイの横顔が"怖がっていた"から。
あんなに引きつった顔、初めて見た。
どんな状況でも、あんな顔を今までした事は無かった。
何度もあの顔が浮かんでしまう。
「⋯よし、大丈夫。行こう」
アスタ君が先導し、1Fへと降りる。
エレベーターは故障しているのか、乗る事は出来なかった。
そしてどうにか外に出ると、
― なんと大量のネルトとモンスターがいた
渋谷の応援が対応してくれているようで、私たちはただ守ってもらうしかなかった。
何も持たない今、何も出来ない。
「⋯無理です! 数が多すぎる!!」
前に出て戦う"スクランブル守衛隊"だったが、あまりの数にとうとう手が回らなくなると、
「いやぁぁぁッ!!!」
「誰か助けてぇぇぇッ!!!」
ついには数人が襲われ、ネルトに脳を食われ始めた。
大きな悲鳴と助けてという叫び声、怒鳴り声さえも響く。
「くそッ! おい逃げろッ! それしか方法が無いッ!!」
「待って! そんな事したら!?」
「言っとる場合か! こんなところで死にとうない! あっちは負傷者だって抱えとるんやろ!? もう無理やろうがッ!! それにお前も言っとっただろうッ! "無駄死にしとうない"とッ!!」
「それは⋯でも、七色蝶様は言っていたではないですかッ!! お互いを補えとッ!! 今がその時でしょうッ!?」
「バカ言えッ!! その"肝心な七色蝶がいなくなった"んだろうがッ!!」
「くっ⋯!!」
始めに"掛井キンジのグループ"が引き上げ、それに続くように、他グループも去っていってしまう。
私たち、無防備な人間を残して。
最後に残った"高槻レンナ"も一言「ごめんなさい⋯」と残し、走って行ってしまった。
襲われた人間を置き去りにして。
助けてという声を無視して。
自分が死にたくないから。
もうどうにもできないから。
だから、私たちも死に物狂いで逃げるしかなかった。
逃げる途中、
「シンヤさんは!?」
「アスタ様とカイも!」
「どこに行ったの!?」
3人とはぐれてしまったようだった。
探す余裕すら無く、後ろにはまだヤツらが追って来てる⋯!
「今は一旦あのマンションの上へ!!」
ニイナの示すタワーマンションへと逃げ込み、エレベーターへと駆け込む。
咄嗟に押したのは最上階の"26F"のボタンだった。
「はぁ⋯はぁ⋯もう⋯来てませんかね」
「たぶん⋯ですけど」
エレベーターが開き、辺りを確認する。
ここはどうにか大丈夫そうね⋯
謎に開いたままの部屋が一つあり、その中に入る事にした。
「勝手に⋯入っていいんでしょうか?」
「⋯仕方ないでしょ、こんな時は」
「すみません、お邪魔します」と小声を出してみる。
誰もいないようで、綺麗に整頓された部屋だけが残されていた。
ちなみに、さっきから何回もシンヤ君とアスタ君に通話をしているけど、一向に繋がらない。
メッセージも送っているけど、一つも返ってきていない。
「心配ですね⋯」
「⋯うん」
ヒナが不安そうな顔を向けてくる。
見ると、余計に心配になってしまう。
大丈夫よね⋯きっと⋯
私はベランダへと向かった。
下をのぞくと、
「⋯いるわね、まだ。当分ここからは出られそうにないわ」
ニイナが「弓があれば⋯」と小さく呟いた。
彼女が使っていた弓も、6時間拘束されてしまっている。
― こうして私たち女子3人での行動が始まった