"白いアイツ"に睨まれた瞬間、全面の景色が入れ替わった。
暗闇の中、小さな明かりだけが周囲を照らしていく。
「⋯ッ!!」
ヤツの切り返しだけで後ろへと飛ばされ、バク転でどうにか体勢を立て直す。
なんで⋯なんでコイツがここに⋯
みんなは⋯どこ行ったんだ!?
誰もいない。
俺とアイツだけしかいない。
それに、ここは間違いなく"渋谷スカイ"だ。
都庁にいたはずなのに、なんでこんなところへ⋯
静かな風と小さな月明りが、"ここは本物だ"と訴えてくる。
「ぐッ⋯!?」
"首元まで迫ったソレ"を、俺は完全に勘で止めていた。
"もう一つの見えない何か"が、確実に俺の首を狙っていた。
それがとうとう正体を現し、
― 白と黒の蝶の羽根が舞い上がった
このままじゃ、殺される⋯!
俺は腕が折れそうな勢いで思いっきりはじき返すと、シンズノウの下から3つ目〈虹光の屈折弾2(スペクトル・リフレクブラスター2)〉で、反撃を図った。
2の方を使えば、一度で2発撃つ事ができる。
七色の長い光線が、複雑な屈折をしながらヤツへと向かっていく。
何度も撃つが、なんとヤツは"あの複雑な弾"に一度も当たらなかった。
まるで"この攻撃の弱点"が分かっているかのようだった。
「くッ⋯!」
俺は考えうる限りの策をアイツへとぶつけていく。
でも、そのどれもが読まれ、ここまで一度も当てる事が出来ていない。
なのに、
「⋯うっ」
この見た事も無い強さは、どれも俺を蝕んでいく。
もう腹には5つの大きな穴が開き、さっきから血が止まらない。
口の中は血で塗れ、吐き気しかしない。
こんな苦しい思いするんなら、何もかも捨てて逃げだせばよかった?
そういった気持ちさえ出てしまう。
でも、俺には待ってる人がいる。
期待してくれてる人がいる。
⋯信じてくれてる⋯人がいる⋯!
「⋯はぁ⋯はぁ⋯ちッ!!」
今まで対峙したどんなヤツよりも、コイツは次元が違う。
見た事無い速さ、感じた事無い一撃の重さ。
なんで俺を殺そうとするのか、何も分からない。
「ぐぁぁぁぁッ!!!」
自分が生きているのかさえ、もう分からない。
限りある声を振り絞り、死ぬ思いで次を防いだ瞬間、"シンズノウの最後"が解禁されたのが分かった。
⋯俺は⋯まだ⋯
お前を⋯超える⋯!
― 〈二蝶剣銃ノ示ス世界〉は左手に"新たな銃剣"を追加した
予想していない追撃だったのか、とうとうアイツを後ろへと下げた。
これはアイツが持っている"もう一つの銃剣"。
― 大きな白黒蝶の羽根が、死を否定するように舞い上がった
白と黒の羽根は、時間を刻み始めた。
1時、2時、3時と針が進んでいく。
進む度、"死生刻蝶の銃剣"は威力を増していき、これが微かな生をもたらしてくれている。
そして針が12時を示す時、"隠されていたシンズノウ"から"2つの銃剣"が組み合わさった。
他の全てが効かないなら、もうこいつに全てを賭ける。
残りの体力から考えるに、これで決めなければならない。
アイツも温存していたのか、"こっちと同様の姿"へとさせた。
こんな夢の存在などに負けたりしない、俺は自分を、ユエさんの言葉を信じてる。
早く帰って、みんなと合流する。
― お互いの"大きな銃剣"から、激しい光と共に"4種の粒子"が溢れた
「「⋯」」
決着は一撃だった。
全ては一瞬だった。
何もかも出し尽くしてしまった。
何もかも使い果たしてしまった。
また歩けそうにない。
こんな状況で迷惑をかけるなんて、最低だ俺は。
他の人だって、助けなきゃいけないのに。
こんなところで、倒れてる場合じゃないのに。
でも少し休んだら、また頑張るから。
大丈夫、あいつらは凄いんだ。
俺はまたユキと、ヒナと、シンヤと、アスタと、みんなと先へ進んでいく。
総理を止めるために、明日を生きるために。
真犯人を、見つけるために⋯
♢
「ねぇルイ、今日で春休み終わりだって」
「らしいな」
「全然家から出てないよ~。夜だけどちょっと出かけない?」
「まぁ、いいけど」
「"渋谷スカイ"行こうよ、久しぶりに」
「夜景見たいのか、もう飽きたろ」
「飽きないよ全然。でも、カップルとか多いかなぁ」
「いっつも多いだろ、あっこは」
「私たちもカップルに見せないとね!」
「いや、いつも通りでいいって」
「え~、でも今日はそうしたいな~」
「急になんだ」
「だって⋯"いつかルイと会えなくなったら"って考えたら、寂しくなっちゃって」
「な~に言ってんだ、ほぼ毎日会ってるぞ」
「まぁまぁ~、今日だけ、ね?」
「⋯しゃあねぇ、今日だけな」
「うん!」
♢
なんか不意に思い出したよ。
また一緒に行こうな。
いつだって会える。
また、一緒に。
帰ったらまた、部屋来るのかな。
アイツたまには一人で寝ないと、変な癖付かないか心配なんだよ。
俺が本当にいなくなったらどうすんだ。
他の誰かと一緒に寝るのか?
やめろよ、そんなの。
俺はもう変な癖付いちまった。
また一緒に寝よう。
これまでも、これからも。
待ってるよ、ずっと。
本当は嬉しかったんだ。
ほら、変な癖付いた。
全部お前のせいだよ。
全部、お前の。
⋯
⋯⋯
⋯⋯⋯
⋯ユ⋯キ⋯に⋯す⋯べ⋯て⋯を⋯
― 俺の大きな銃剣は割れて消え、俺の身体全体は砂のように粉々に散っていった
※ここで前編が終了となります