第52話 遺書

 ニイナは涙を拭きつつ、周囲に励まされていた。

 見た目、気の強そうな感じに見えたけどそうでもないのか⋯

 案外警察ってとこ意外は、普通の女の子か。


 少し涙目になっていたヒナにも今一度謝った。

 今までなら、もっと冷静でいられたのに⋯


 新宿駅までの短い間、俺たちが持っている"イーリス・マザー構想の情報"を全てアスタたちへと渡した。

 行動を共にするタイミングで渡そうと思ってたから、どっちみちこうする予定だった。


 俺のL.S.には、ユエさんと裏部さんから託された"最期の遺言データ"がある。

 殺されてしまった次の日の朝、自動的に俺へと送られていた。


 こうなった時の事を考えて、今まで忙しくしていたんだ。

 死んでもまだ、助けてくれるなんて⋯

 会いたいよ、俺は⋯


 入っていたのは、裏部さんが持っていた"UnRuleモンスターの詳細データ"と、ユエさんによる"生前考察データ"。

 その中に、"今の俺の疑問を解消してくれるもの"もあった。


 何回読んだか分からない。

 読めば読むほど、また会いたくなった。


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【三船ルイ君へ】


 これを読んでいるという事は、もう会えないのね。

 天国に行けるか分からないけど、きっとどこかでアオ君と一緒にあなたたちを見守っています。


 もし、私の赤ちゃんが残ってたら、ちょっと面倒見てくれるとありがたいかな~なんてね。

 ⋯そんな事してたらいつまでも足枷になっちゃうから、誰かに預けちゃって


 無駄書きごめんなさい、ここから本題です。

 ここには、"今の私が捻り出した考察"を残しておこうと思います。

 今後のため、必ず役に立つはずです。


 【1つ目は、"総理のもとへと辿り着く最適方法"】


 簡潔に話すと、裏部の"添付データ"を参考に、"未来を選び取る欠片"を完成させなさい。 

 そうすれば、あの邪魔な輝星竜を消し、国会議事堂に入れるはず。


 後は、臨機応変にあなたたちが対応していくしかない。

 ここにある攻略データは、"私たちがUnRuleを作った時の事だけ"になるから、紀野大臣の時のように、イレギュラーが起こらないとも限らない。 


 でも、"虚無限蝶"の状態にまで到達したあなたなら、出来ない事なんて無いと私は思ってる。

 このUnRleの武器は、使用者に応じて"不規則なクラウドアップデート"がされていく。


 開発者にも誰にも知る事の出来ない、"真の未知の領域"。

 だからこそ、"人間にもAIにも予測出来ない力"が加わっていく。


 どんな武器にも、その可能性は秘められてる。

 けど、その銃剣は他とは訳が違う。

 ロアの最終未来予測にあった"人類最後の救世主"はその銃剣を持った三船ルイ、あなたなんだから。


 【2つ目は、"具現化したUnRuleの謎"】


 これには、"イーリス・マザー構想"が大きく関係している事が分かったわ。

 つまりは三船君、あなたに"とても大きく関係する話"になるの。

 "成功作の対になる失敗作の話"になるから。


 この話は教わって無かったから驚いたわ。

 私が教わったのは、"成功者の凄さだけ"だった。

 親もこの事実を知らないままだったんでしょう。


 だから、この"質量化"にはずっと謎で分からないままだった。

 でも、ようやく分かってきたので、これもここに残します。


 どんな研究にも光があれば影もある、その影が"この失敗作"。

 三船君同様、赤子を"持ち出して逃げた人"がいたみたいなの。


 ここから推測するに、その子は今、"あなたに近い年になって生きてる"と思う、"特殊な副作用"を抱えながら。

 副作用には色々あるけど、特筆すべきは"AI絶対依存症と体積付与症候群"の2つ。


 AI絶対依存症は、"AIが身体に付いてないと死ぬ"とされる病気。

 その子には、"身体のどこかにAIが組み込まれていて、さらにはAIを自在に操れる"そうなの。

 AIに依存しながら、依存させる影響があるみたい。


 質量付与症候群は、細胞の突然異常から"質量無い現象に意図なく質量を加えてしまう特殊性"とされているけど、これは以上は調べきれなかった。

 だけど、この事だけでも十中八九"UnRuleの様々な現象に影響"を与えていると考えていいはず。


 武器だって、私たちが盗まなかったら、強い物ばかりが総理側に使われていたと思うの。

 "事前予約当選者専用の武器"は、ロアの未来予測に従って、敵プログラムを弄って取り上げたもの。

 これをしてなかったら、人間はすぐ殺されてたと思う。


 一連の流れから、"この人物が裏で総理を操っている"と私は仮定した。

 その人物が"総理に人間は悪いもの"だと深層学習させ、そんな総理を裏で操作し、AIに対抗するための"UnRule"さえも質量化して、利用しようとした。


 これらから、この事件の真犯人は、"イーリス・マザー構想の失敗作"で間違いない。

 だとすると、総理を止めても根本的な解決にならないかもしれないの。

 いつかまた、繰り返す時がくるのかもしれない。


 そんな未来にしてしまった事、国家研究員および構想一団を代表して謝ります、本当に申し訳ありません。

 不甲斐ない私たちのために尽力してくれるあなたへ、"コレ"を送ります、アイテム欄を後で見てください。


 いつか三船君が"失敗作"と対峙した時、どうするか。

 どんな結果になろうと、責任は私たちが負います。


 どうか、あなたたちが笑って幸せでいられますように。

 なんでも一人で抱えないようにね、ちゃんと周りは三船君を理解してくれるから。


 ⋯ただ、こっちの世界には来るんじゃないわよ!

 来ようとしたら、アオ君と私で押し返してやるんだから!