ユエさんは、"真実の直前"にまで辿り着いていた。
失敗作の年齢が俺たちと近い事、総理を裏で操作しているんじゃないかというところまで。
後もう少し、もう少し一緒にいられたら⋯
ユエさん、あなたがアイテム欄にくれた"コレ"は大事に使わせてもらいます。
新宿駅に着くと、20人ほどが待機していた。
こっちではあまりみない格好をしたのが結構いる。
「待ってました。援軍に感謝します」
「いえ、これも進展に繋がればと思いますので、これからも協力していきましょう」
主催者同士が会話しながら、先頭を歩いて行った。
俺たちはあえて一番後方から付いて行く。
何人かに「七色蝶だよね? 活躍みたよ」と話しかけられたりもあったが、今はそんな気分じゃない。
それでもやっぱり期待はされるもので、都庁内でも前線で行って欲しいと打診された。
⋯いちいち他人事のように
お前らがユエさんの代わりに死ね。
そんな気持ちが徐々に沸いてきたが、首の根本で何とか留まった。
期待の裏にある本音。
予想外の事が起きるのが怖い、死にたくなんてない、結局はそればかりだ。
俺だってそうに決まってるだろ。
「すっかり有名人ね、良い意味でも悪い意味でも」
「⋯」
「先陣切ってくれなんて、自分たちの場所なのにね。プライドとか無いのかな」
「まぁその分、倒せばお金、アイテム、経験値だって得られる。新宿の分も僕たちが貰っていけばいいよ」
黙る俺を見て、アスタが代わりに口を開いた。
「そうだけど⋯」
ユキがずっと俺を見てくる。
「僕たちで上手くやってやろうよ。きっと僕らより強い人間はここにはいない」
ユキは終始、俺を心配そうに見続けていた。
分かっていたけど、今は話したい気分じゃなかった。
シンヤとヒナも察したようで、一歩後ずさって付いてきていた。
どうにか一呼吸し、冷静を装う。
まだ頭はクリアだ、ちゃんと自分を保っている。
気分も落ち着いてきた気がする。
一旦現状を整理しよう。
人数は今までの比じゃない。
アスタたちだっている。
都庁奪還は、赤ビルよりかなり楽になるはずだ。
♢
「ふぅ⋯こんなとこね」
「もういないですか!?」
「見る限りはね」
後方から襲ってきたネルト共を、ユキとヒナ含む女性陣がやり返し、火力の高さを見せつけた。
ユキは日に日に動きが洗練され、ヒナはどんどん隙が無くなっている。
「ひ~! この二人に逆らったら生きて帰れそうにねぇなぁ。おい、ルイ! 今のうちに事務所に勧誘しとけ?」
「⋯まぁ、そうだな」
「っと、あっちも負けず劣らずってか?」
アスタ、カイ、ニイナの3人衆へと目を向ける。
瞬きすら難しいほど、凄まじい手数と動きで、一つもミスが無い。
黒能面を使うと、あんなに速くなるのか?
そんなアイツに俺は勝ったのか。
「⋯事務所に勧誘しとけ?」
「⋯まぁ」
他も対処が終わり、安全になったところで、とうとう都庁内へと侵入した。
本番はここからだろう。
だと数秒前まで、誰もが思っていた。
⋯なんだこれは?
いない。
上がっても上がっても、何もいない。
「⋯? "赤い発令がされている場所"で、こんな何も無いなんて事があるのか?」
「おかしいですね⋯数時間前まで、"この中は地獄だ"と言われていたのですが⋯」
主催者同士が声を上げる。
それに伴い、周囲がざわつき始める。
その声の中、俺は聞き逃しはしなかった。
「うっ⋯」という、鈍い声がしたのを。
「な、なにやってんだお前!?」
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然響いた悲鳴。
固まっていたグループが散乱していく。
「おい! 皆離れろ! おかしなヤツがいるッ!!」
スエに従い、すぐに全員が後ずさる。
俺たちもすぐに下がった。
そこには、"男の腹部へ長い剣を刺したヤツ"がいた。
「貴様! 何をやっているッ!!」
新宿区の主催者が声を荒げると、
「何って、見て分かるだろ? 楽にしてあげてるんだ、"幸せな麒麟"が」
「なに言ってんだ⋯? 早くその手を離せッ!!」
「⋯ふっ」
ヤツが笑いだすと、全方面が急に黄色へと塗り変わっていった。
「⋯君しゃがんでッ!! そこに透明人間が剣をッ!!」
「え?」
アスタの叫び声に、スエは反応出来なかった。
結果、血しぶきとなってそれは表れた。
「⋯なにが⋯」
もう遅かった。
スエの後は連鎖のように最悪な音が伝い、人が次々刺されていく。
床が大量の血で溢れ始めた。
「早くこっちへ来るんだッ!! そっちにもいるッ!!」
「⋯おいッ!! お前ら指示くらい従えッ!!」
俺とアスタを無視し、前に進むあいつら。
⋯もしかしてあいつらも
シンズノウの〈虹女神の覇眼〉を使うと、あいつらの近くに3人ほどの透明人間がいた。
⋯仲間か
俺はこれによっていろんな異常を見分ける事ができるが、アスタも似たようなのを使っているんだろうか?
今はそんなことを考えている場合じゃない。
全部で15人くらいだろうか?
透明人間が"黄色のフード"を被り、そいつらが襲っていた。
〈虹女神の覇眼〉のもう1つの効果で、あいつらの透明化を全て解除してやると、その瞬間、こいつらが誰なのかがすぐに判明した。
― 黄色いパーカーを羽織った集団