何回歩いても、夜の病院は気味悪く感じるな⋯
都心5区選別者会議に行ったのは、ユエさんの一押しもあってだった。
♢
行く直前、ユエさんの病室。
「ELECTIONNERが集まる場なら、絶対行っておいた方がいいわね。100人中何人来るか分からないけど、中には必ず"同じ目的"の人もいると思うの。今や三船君は一番注目の的、それを利用するのがいいわ」
「なら、一人の方がいいですかね」
「いや、みんなで行きなさい。それの方がより幅広く交流できるはずよ。裏部は留守番ね、モンスターやネルトの解析と、他の研究員の探索と、総理についてと、まだまだやる事あるわよ!」
「ユエ先輩は妊婦ですよ!? さすがにちょっと休憩しておきましょうよ~」
「いらないわそんなの、私もアンタもいつ殺されるか分かったもんじゃないだから。きっと赤ちゃんだって私の事理解してくれてる。だって私とアオ君の赤ちゃんなんだから、ね~よちよち~」
「"アオ先輩という抑止剤"がないと、この人は止められないのか⋯」
裏部さんは終始、ユエさんの変わらなさに嘆いていた。
でもどこか、嬉しそうにも見えた。
昔からこんな感じのやり取りだったのが、二人から伝わってくる。
「それに、私たちの功績もあって総理を倒したってなったら、メディア出演とか取材とか、さらに忙しくなっちゃうかもしれないわよ!? そのためとも思って踏ん張りなさい!」
「ってな事で、三船君。僕たちはここでお待ちしてますね」
「あ、そうそう! 帰ってきたら、なるべく早めにここへ来て話して欲しいわ。どんな事があったのかを、新鮮なモノは新鮮なうちにってね」
「分かりました。遅い時間ですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、私と裏部は夜型だから」
♢
裏部さんと会ってから、ユエさんは少し楽しそうだった。
あれだけ元気だと、妊婦にも全く見えなかったな。
メッセージを送っても返ってこないけど、たぶん今忙しくしているんだ、あまり邪魔しないようにしよう。
行ったらまず、この【イーリス・マザー構想の失敗作の捜索について】について聞かないと。
これが本当なのかどうか。
先に俺の予想をしておくと、たぶんユエさんは"この件"を知らない。
知っていたなら、"失敗作の副作用でモンスターや武器が具現化してる"って、前に言ってたんじゃないか?
だからこそ、これを含めてユエさんの新しい見解が聞きたい、裏に真犯人がいるのかどうかとか。
君野先生についてはどうだろう。
あの人が"イーリス・マザー構想一団の一人"でありつつ、失敗作を探してたのを知ってたのかな?
これもたぶん知らないと思う。
親からそこまで聞いて無いとか、そんなところだろう。
成功作については教えられても、失敗作についてはそんなになんて、よくありそう。
それか、一団にも"失敗作を探してる人間"と、"失敗作が逃げた事すら知らない人間"が別々でいたとか。
ユエさんの親は、"逃げたのを知らない側"で、そもそも知らないままだったとか。
一団と言っても、全員が全員纏まっている訳じゃなさそう。
人間なんて一人一人考えが違うしな。
もし今予想したのが違ったら、他にどんな場合がある?
そんな事を考えていると、いつの間にか"産婦人科棟705室"の手前まで来ていた。
「お? 電気付いてねぇな」
シンヤが言う。
もしかして寝ちゃったとか?
物音一つ聞こえてこない。
「ユエさん、帰ってきまし」
うっ⋯
なんだこの臭い?
開けた瞬間、強烈な異臭が鼻を刺した。
中が暗くてよく分からない。
俺は"虚無限蝶の銃剣"を取り出し、辺りを照らした。
その瞬間、
「う、うわぁぁぁぁッ!?」
シンヤが突然大声で叫び、尻餅をついた。
「て、天井ッ!! 天井にッ!!!」
「「いやぁぁぁぁぁぁッッッ!?」」
女子二人も叫び、後ずさる。
⋯
⋯⋯
後悔した。
見て後悔した。
今までの行動を後悔した。
俺は何をしていた?
俺はなんで行った?
俺はなんでここにいなかった?
ありえない。
ありえない。
ありえない。
ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。
どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。
― 天井にぶら下がった二つの生首
⋯
⋯⋯
⋯⋯⋯
「ユエ⋯さん⋯? 裏部⋯さん⋯?」