「ヒナとシンヤ君は、さっきからあっちで焼き肉やってる、ほら」
ユキが指差す先に二人がいた。
10人ぐらいの大人数で、楽しそうに話している。
立食で各々が一人焼き肉出来るようになっているようで、離れた場所にも幾つか同じのが設置されている。
でも、見るからにどこも満員だな。
「僕はちょっと向こうで話してくるから、また後で」
「あ、ちょっと待ってくれ。一つだけ聞いときたいんだけど、お前ってここの主催者か?」
「いや、幹部ってところかな。主催は"あの人"だよ」
ん?
"白い派手なスーツを着た目立つ人"がアスタの視線の先にいた。
⋯あれか
「おい! こっち来て食っとけよ! めっちゃ美味いぜここの肉!!」
「早くしないと無くなりますよ!」
肉を頬張りながら、皿にも溢れそうなほどの肉を乗せたシンヤとヒナが言ってくる。
どんだけ食うんだよ、お前ら。
「お腹減ってる?」
「いや、実はそんなに」
「いつも低燃費だもんね、羨ましい。でも、軽く食べとこ?」
「そうだな、A5ランクとか書いてあるし」
シンヤとヒナが共有する形で席を空け、俺たちを入れてくれた。
俺はユキと共有で、立食焼き肉へ。
自分の席からだけ見える非接触型ホログラムパネルでタッチし、肉を自由に選べるみたいだ。
これが凄いのが、一人焼き肉の形式にも関わらず、俺たち二人分の画面がそれぞれでてきた事。
そこまで対応されている事に密かに驚いた。
中央のガラス棚超しに、肉が大量に置かれており、そこからAIが上手に配布してくれている。
特上カルビ、特上ハラミ、特上ロース、どれも"A5ランクの高級和牛"ばかり。
これ本当に食っていいのか⋯?
躊躇っていると、
「明日には死んでるかもしれないんですよ。迷う意味が分かりませんね」
突然隣の女性に話しかけられた。
そっちを向くと、
「なにか?」
「⋯いえ」
めっちゃ怒るじゃん。
⋯無視しとくか
とりあえず、まずは牛タンいくか。
仙台の赤毛和牛の希少品って、そんなの食べた事無いな。
隣の女性の左奥の方から、こっちへと皿がやってくる。
運ばれてくる様子を見ていると、
「(⋯ん!? も、もしかして、な、七色蝶様!?)」
「はい?」
「(こ、この可愛い顔、サラサラの綺麗な金髪、見た目とは裏腹に鍛え上げられた肉体⋯!!)」
「え、え⋯?」
「(握手してもらえませんか!?)」
急になに!?
隣の女性がこっそり声で迫って来た。
さっきまでの態度どこいった!?
目を輝かせながら、彼女が握手を求めてくる。
「別人じゃ⋯ないですかね⋯?」
「(いいえ、動画で何度も見ました! 大好きな"七色蝶様"を見間違える事は無いです!)」
「は、はぁ」
⋯騒ぎになる前に穏便にしとくか
握手すると、同時に部屋全体の明かりが徐々に落ちていった。
真っ暗になると、夜景の見えていた一面がガラッと変わっていく。
『では、そろそろ"都心5区選別者会議"を始めたいと思います。食べてる手を止め、こちらをご覧ください』
あ~!!
俺の肉ーッ!!!
主催者が喋り始めると、立食焼き肉などが自動で仕舞われ始めた。
他にも高そうな魚とか寿司とか野菜とか、色々あったのに⋯
だったら早く食べときゃよかった⋯
『始めに、新宿区の方から挨拶と問題提起をお願いします』
俺の意志が無視されるように、プロジェクションマッピングを応用した形で映し出された大画面から、それぞれの区の主催者が話していく。
新宿区、千代田区、中央区、港区、最後に渋谷区の順で話され、出された問題についてその場で議論する事となった。
「肉⋯俺の肉がぁ⋯」
「え、なに? 食べれなかった?」
「食べようとしたら⋯持ってかれた⋯」
肉⋯A5の肉⋯
ユキに続いて、ヒナまで慰めに来た。
同情するなら肉をくれ⋯
「あのー⋯私のせいなんです。今聞いてきたんですけど、会議が終わったらまた2次会として、さっきの食事がもう一度出るそうですので」
「お、おぉ!?」
わざわざ聞いてきてくれたらしい。
俺は嬉しさのあまり、彼女の両手を握ってしまっていた。
握った時にはもう遅く、
「そんなに、ありがとうございますッ!! 夢のようですッ!!」
「あ、いや、これは違」
「一生手を洗いませんッ!!」
彼女が俺へとより近付こうとすると、ユキとヒナが全力で抑え、
「あのー、どういうご関係で?」
「ひっ⋯」
笑顔のユキからは殺気さえ感じられた。
「ま、まぁまぁ」
「⋯」
「⋯」
⋯こっわ
♢
「新宿は都庁へ突撃しようってんだ、私たちは合流しようと考えてるぜ」
「うーん⋯ワシらは離れるわけにもいかんからなぁ」
ここには全員で50人くらいだろうか?
5人ずつに分かれて議論する事になり、さっき出た問題について、各グループで今話し合っている。
「結局はどこへ行っても地獄。なら劇的な変化があるまでは、下手に動かない方が賢明かと」
「つってもよぉ、いつかは破られるぜ? あのクソ総理が何をするか分かったもんじゃねぇッ! 100万配ったのだって、一時的なもんだったろ?」
「では、あなたたちみたいに無駄死にしろと?」
「はぁ!? 無駄死にだぁ!? どこがだよッ!!」
「そう熱くなるな二人とも。攻めるも守るも、今はどちらも大事だろうて。のぅ? 七色蝶よ?」
ここで俺に振るなよ⋯
「七色蝶様なら、私の意見に賛同してくれますよね?」
「んなわけねぇだろッ!? お前ほど前線で活躍してるヤツなら、こっちが正しいって思うよな?」
さっき握手した女性"高槻レンナ"と、スエが鋭い表情で迫ってくる。
⋯なんでこうなんだ
「(おい、アスタはどっちなんだよ!?)」
「(どっちもメリットデメリットあるしね。ルイ君が今思う方をバシッと言っておいたらいいんじゃない?)」
「(んな適当な)」
「(何か言われたら、一応フォローしてあげるよ)」
一応って、結局お前も投げやりじゃねぇか!
⋯めんどくさい事になったなぁ
レンナ、スエ、キンジが俺を見て待っている。
レンナに限っては目を光らせている。
⋯ったく
「⋯待っていては死ぬ、だったら総理を壊す、そう思ってここまでやってきました。今もその気持ちは変わりません。なら、やるべき事は一つ、国会議事堂へまずは辿り着く事。そのためなら、どんな危険な事だってやり遂げるつもりです。ですがそれと同じくらい、人や場所を守る事だって、やっぱり大事だと思います。それぞれが自分に向くやり方で、お互いを補えばいいんです。そのために、僕も頑張りますから」
「⋯お互いを」
「⋯補う」
「ふむ、今にピッタリな言葉かもしれんな。帰る場所がある、攻める勇気がある、どれも大事だろうて、がはは!!」
⋯ふぅ
ありきたりな言葉かもしれないけど、灯台下暗しって言葉もある。
こっそりこっちを見ていたミオリは、俺の方を向いて小さく拍手してくれていた。
この後の議論はさっきのような喧嘩は無く、続いていった。
レンナ、スエ、キンジ、アスタ、俺の組み合わせは新鮮ではあった。
そこから時間に応じて人を変え、最後まで斬新な会議となった。